15、
「申し訳ありません、ヘンラオ様。妹とトラドスの非礼、心よりお詫び申し上げます」
「いや、気にしてないよ。大変な妹を持ってるね」
分かっていただけますか! それは良かった! じゃあお帰りはあちらです!
今更ながらに痛感した。
あの妹が居る限り、私は一生結婚出来ないだろうと。ついでにあの父が仕事しない限りは。
もはや呪い。これはそう、きっと呪いなのだ。
あの二人の呪縛から、逃れる術はないのだ……。
悔しいやら悲しいやら情けないやら恥ずかしいやら。
一体どれだけの感情が、私を呑み込んだことだろう。
それらが一度に押し寄せた状況の私は、頭を上げることは出来なかった。たとえ気にしないと言ってもらえても、私の感情は浮上出来ない。
結局、その後頑なに頭を上げず、寛容なヘンラオ様の心遣いを受け入れることは出来なかった。
そんな私を困ったように見つめるヘンラオ様。そして……
「本当に気にしないで。今日はこれで帰るけれど、王家からの呼び出しはちゃんと来てね? 待っているから」
そう優しく言い置いて帰って行った。
※ ※ ※
「ほんと、不器用ですねえ」
ヘンラオ様が帰ってから、呆れたような声で──いや、実際呆れているのだろう──マイヤは言った。
「うるさい」
分かっている、自分でも不器用だって分かっているのよ。ヘンラオ様は、寛容に妹たちの事を許して下さったんだ。だから私も笑顔で礼を言って、そして良い雰囲気のまま別れることだって出来ただろう。
でもどうしてもそれが出来なかったのだ。
先ほど痛感したことを思い出す。
私はきっと恋は出来ないだろう。あの父と妹が居る限り。
だがそれも仕方ないのかもしれない。だって、結局は見捨てられないのだから。父も妹も。──トラドスは見捨てたいけどね。
「せめてお嬢様が、この公爵家を取り仕切っていることくらい、言っても良かったんじゃないですか?」
別に隠すことでもないでしょうに。
そうマイヤは言うが、今更という感じもしてしまうのだ。
確かに私が裏で動いたおかげで、今の公爵家はある。それはけして自惚れではない。だが、父という隠れ蓑があったからこそ、ここまで成し得たのも事実だ。父ではなく、私が若くして公爵家を仕切ったとして──残念ながら、それでうまくいけるほどの才は無いことも、また痛感しているのだ。
女性でも家を継いでいる人は居る。だが彼女たちは一様に優秀だ。
私は優秀ではない。必死で、それこそ寝食を惜しんで、自分を犠牲にしてようやくここまでこぎつけた。
無能の父の娘は、残念なことに同じく無能。努力だけでどうにか凌いできただけのこと。
私は──
「お嬢様?」
黙り込む私を訝し気にマイヤが見る。
私はフッと顔を上げて彼女を見た。
「私には、色恋に現を抜かしている暇は無いのよ」
自嘲気味な笑みを浮かべながら言って、私は部屋を後にした。
「どちらへ?」
「お父様に、王家からの呼び出しについて話をしに行くわ」
後片付けお願いね。
私はそう言い置いて、パタンと扉を閉めた。心配そうなマイヤの顔は、敢えて見ないフリをする。
そうして、私は諦めた。
一つの恋を……初恋を、諦める事にしたのだ──
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