14、
「スザンナは黙ってなさい」
「嫌です、黙りません! まずその無礼な男の顔面を思い切り殴らせてください。それから私に謝罪してください! それでもってトラドスにも謝ったら私達にお小遣い下さい! そいで私に宝石とドレス買ってください! あ、あと今夜のお夕飯は好物メインで~、あとは~」
「うん、いいから黙れ?」
「いひゃい、いひゃい、いひゃいです、ふぉへーふぁふぁ!!」
誰よ『ふぉへーふぁふぁ』って。何言ってるのか分からないから、その伸びるホッペをもっと強くつねっちゃおうかしら。
更に手を伸ばしたら、ズザザッっと後ずさりされてしまった。チッ、逃げ足だけは速いわね。
「痛いですお姉様! 私の可愛いホッペが伸びたらどうするんですか!」
「どうもしません」
「お姉様がいぢめる~!!」
うん、虐めてるよ。鬱陶しいから。とにかく早く黙ってちょうだい、そして出て行け。
──って、何やってんのよ!!
スザンナが『いぢめる~!!』と言って泣き付いたのが、なぜか意味不明にヘンラオ様だった。
見た瞬間、血が沸騰しそうになる。キレてもいいですか?
「ちょっとスザンナ、そこはトラドスに泣き付く場面でしょう!?」
「嫌です、どうせ泣き付くならイケメンがいいです」
「あなた、さっきまでヘンラオ様のことを、殴らせてとか言ってたでしょうが! 舌の根の乾かぬうちに何を言っているの!」
「下の値? 私の下の値段って何ですかお姉様」
お黙り! そして離れて!
心底疲れ切った顔で、私はスザンナを引きはがすべく手を伸ばすのだった。でもその必要はなかった。
私より先に、ヘンラオ様自身がスザンナの体を引きはがしたのだ。
「重い」
という痛烈でありながら、非常に簡潔な拒絶の言葉と共に。
「あん、つれない……でもそこがまたいい」
なに言ってるの、この子。
これまで、私が親しくなった男性全てを、手中にしてきた妹だ。
冷静に考えて、ヘンラオ様のようなイケメンが、ターゲットにならないわけがない。
頭が痛くなってきたけれど、どうにか心を落ち着かせて私はスザンナに説明するのだった。
「スザンナ、こちらヘンラオ様は、王家の使いとして来られました。そのような方に貴女がたの態度はけして褒められたものではありません。謝罪すべきはむしろこちらです。スザンナとトラドスは、ヘンラオ様に謝りなさい。頭床に擦り付けて土下座です」
「嫌です」
おま、ホント言うこと聞いたためしないよね!? 土下座は冗談としても、謝罪はしなさい、謝罪は!! そしてトラドス、顔を青くしながらコソコソ退室しようとするんじゃないわよ!!
「とにかく私は悪くないので謝りません! たとえ世界が滅びた原因が私であったとしても、可愛い私は許されるんです! みんな可愛い可愛いと許してくれるんです! そんなわけで明日にはお小遣い用意しておいてくださいね、お姉様。トラドス行きましょ!」
「え、あ……い、いいのかな?」
「いいのよ! それより厨房に行って、今日のお夕飯はお姉様が嫌いなもので固めるようにシェフに言わなくては……」
ちょおっと待てえええ!!
追いかけて、その首根っこ掴んでやりたかった。
でも、ヘンラオ様が居てはそれを許されるはずもない。
とにかくヘンラオ様をとっとと帰らせてダッシュで厨房だわ。
私はゆっくり後ろを振り返り、引きつる笑顔を張り付けながら、深々と頭を下げるのだった。