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12、

 

 予想外の来訪者に、私の心臓はバクバクだ。

 けれどそれを悟らせまいと、努めて平静を装う。


「ノックぐらいしてくださいませ」

「したよ。でも聞こえていなかったみたいだね、失礼した」


 そう言われて驚いてマイヤを見れば、無言で頷かれた。怒りのあまりノックが聞こえていなかったらしい。


 もう情けないやら恥ずかしいやら、でも会えて嬉しいやら。赤くなるべきか青くなるべきか分からず、内心混乱パニくりながらも、必死で無表情を作る。


「お久しぶりです」

「うん、本当に久しぶりだね。元気そうで何よりだよ」


 そう言って、ポンと小冊子を渡された。先ほど投げたモノだ。

 穴があったら入りたい。運動してたんですという言い訳が通用するだろうか。どんなと突っ込まれたら? 小冊子投げ運動です、と?

 ──通用するわけないでしょ!


 ここは素直に

「申し訳ありませんでした」

 謝るのが一番ね。


 けれどそんな私の謝罪に、ヘンラオ様は優しく微笑んでくださった。


「気にしないで。謝るの禁止ね」


 イケメンか!? いやイケメンですけど!

 行動もイケメンとか、もう末恐ろしいですね。なにそのイケメンっぷり!


「それで、今日は一体どういったご用件で?」

「会いたかったから」

「イケメンか!」


 もう声出るわ! 思わず出てしまうわ! 後頭部にマイヤの手刀が飛んでくるわ!

 ちょっと落ち着けってことだよね。ごめん、そしてありがとうマイヤ。突然の再会にちょっと浮かれちゃってる自分を、引き締めたいと思います。


 改めて正面を見れば、体震わせて笑っているイケメンが一人。もう帰っていいですか? いやここ私の家だね、詰んだ。


「は~いいなあ、アデラ嬢はやっぱり面白いねえ」

「不本意です」


 これは本当の私じゃないのですよ。本当の私は、『黙ってたら怒ってるように見える』のが基本なのです。


 そんな言い訳しても意味が無いなと考えていたら、ふと視線を感じてイケメンもといヘンラオ様を見る。


 笑いを止めた彼は、なぜか私と机上に視線を交互させていた。あ、仕事の書類置いたままだ。


 よそ者に見られて困るような物は無いけれど、しかしあまり宜しくない状況だなと思って慌てて書類を隠した。

 一応公爵家は父が仕切っていることになっているのだ。私がやってるってことは──体裁よろしくないので、秘密にしておくにこしたことない。あと、私がやってるのがバレると父が煩い。


 別に私は目立ちたいわけではない。少しは褒めて欲しいが、それ以上に領民が幸せならそれで良いと思っている。他所の貴族との交渉には流石に父親を引っ張り出すが、私が横からサポートするのが常だ。


 だから父が無能であることも、私が主導して動いていることも、知る者は少ない。


「えっとヘンラオ様、立ち話もなんですから、向こうでお茶でも……」

「仕事しているの?」


 私の誘導しようとする言葉を完全無視して、その視線は私が隠した書類のほうへと向いたまま。そのままで、彼は私に問うてきた。


 ここで『してない』と言っても、信用してもらえないだろう。

 私は深々と溜め息をついて、怪しまれない程度の情報を彼に伝えた。


「父の手伝いをしております」

「そうなんだ」


 18歳にもなれば、子供が父親の仕事を手伝うなど珍しいことではない。女性としては珍しいが、皆無というわけでもないのだ。


 それで話は終わり。さあお茶しようと別部屋に誘うのだが。


「いつから手伝っているの?」


 また問うてきた。移動する気ないですか?


「え?」

「ここ最近始めたって様子じゃないよね。いつ頃から手伝っているの?」


 なんでそんなこと聞くのだろう。

 首を傾げつつ、私は記憶を辿って答えた。


「三年前、くらいでしょうか」


 確か15歳くらいだったと記憶している。


 そう言えば、「そう」とだけ言って、彼は今度は素直に足を動かした。


 そして別部屋に移動してお茶をして。

 本当に他愛無い話をした。


 それでも彼はけして自分の身分を明かさない。

 何が好きか、休日は何をして過ごすか。

 そんなことは話しても、けして自身の出自を語らない。


 語らないのなら聞くべきではない。

 そうは思っても、どうしても出てきてしまう好奇心。それはもっと彼のことを知りたいがゆえなのだが。


「ああ、もうこんな時間か。楽しかった」


 そう言って彼が立ち上がる頃には、外は陽が落ち始めていた。楽しい時間はあっという間に終わってしまった。


 次はいつ会えるだろうか。

 私は彼の素性を知らないから、こうして来てもらわないと会えない。

 また来て欲しい。そう言ってもいいのだろうか。


 なにせ恋愛初心者の私だ。どこまで相手に我儘を言っていいのか分からない。そもそも、彼が私に好意を持ってくれているのかも分からないのだ。


 逡巡して無言となってしまった私を、見つめる視線が痛い。


 だが「ああそうだ」と言って彼が何かを差し出したことで、無言は終わる。


「これは?」


 何も書かれていない白い封筒だった。


「招待状」


 彼の返事も簡潔だ。


「招待状?」


 なんの? パーティだろうか?

 首を傾げれば、彼は満面の笑みで言うのだった。


「王宮への招待状。正確には王家からの呼び出しだね」


 爆弾発言とはこのことか。

 

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