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1、

最後まで執筆済み。連日投稿します。

  

 私の父は、公爵であり、領地運営以外に国王の補佐をしている。


 有能と名高い父は王の信頼も厚く、今夜の夜会でも、王直々に声をかけてくださった。


「おお、ボルノ公爵!其方にはいつも感謝している。先日の策も功を奏し、あの地方の民がとても喜んでいたぞ!」

「ありがとうございます。試行錯誤して考えた策でしたので、民の為になり喜ばしい事でございます」

「其方の策はいつも奇想天外でありながら、実に理にかなっている。今後も国の為に頑張ってくれ!」

「精進してまいります」

「うむ。だがまあ今宵は政治の事は忘れ楽しんでくれ。それではな」


 そう言って王は他の貴族と話すべく去って行った。気さくな王様は皆に好かれている。


 頭を下げて見送った父は、王の姿が見えなくなると同時に頭を上げる。そして誰にも見られることなく、笑みを浮かべるのだった。


 ニヤリと、したり顔で。


 それを見たのはきっと私だけ。

 娘である、私ことアデラ公爵令嬢だけ。

 私はウェーブのかかった茶髪を揺らし、琥珀色の瞳を細める。


 ──父の功績の裏で、影として動いている私だけが、父の本当の顔を知っている。


 試行錯誤した、ですって?

 どの口が言うのかしら。


 自分は現地の状況を一切見ることもせず、私に視察に行けと、強引に行かせたくせに。

 そして視察から帰った私に、どうすべきか考えておけとほざいて、連日酒ばかり飲んでいたくせに。酒を飲み、女を呼んで騒いで……怠惰な生活を送っているだけの無能が。


 今、有能ともてはやされている父は、かつて無能と蔑まれていた。


 先代の能力を何も受け継いでいないと馬鹿にされ、公爵家の権威は落ちに落ちていた。


 だがそれも昔のこと。

 公爵家は、数年前より突如その力が向上していった。

 突然父がやる気になって、能力を発揮し始めたと皆が言う。が、何のことは無い、実際は父に代わって私が動き出したからだ。


 最初は父に意見をすれば殴られた。生意気だと怒鳴られ続けた。


 それでも諦めず、父が登城する時にこっそり企画書を鞄に入れておいた。最初は気付いた父に破られた。だが何度も繰り返すと、偶然というものは起こるのだ。


 偶然、その書類が王城務めの別の貴族の目に留まり、そして王の目に入る。


 結果、良策が認められ、父は有能であると認められるようになったのだ。


 本当は違うのに。

 父は今も無能だ。

 昨日もその前からも、今日も明日もきっとこれから先もずっと。


 父は無能で。


 私はその影武者として、今日も今日とて頭を働かせるのだ。


「お父様!」


 不意に父を呼ぶ声がした。私ではない。

 父は呼ばれた方向を振り返り、顔をほころばせる。


「おやスザンナ。どうしたんだい?」


 スザンナ。それは私の二歳下の妹だ。今年16歳になる彼女は、幼さの抜けきらないあどけない笑みを父に向け、その腕を父の腕に絡ませた。


「あのね、あのね。スザンナね、シェリア様より立派な宝石のついたネックレスが欲しいの!」


 その言葉遣いに内心頭を抱えたのは──私だ。父はニコニコし続けているだけ。


「シェリア様がね、これみよがしに大きな宝石のついたネックレスを、自慢げに見せてくるんだもの。スザンナ悔しくって!」


 拗ねたように頬をプクッと膨らませるスザンナ。そこらの男ならイチコロな、可愛い容姿での仕草は本人も自覚あってのことだろう。


 そして馬鹿な父親もやはり男だということ。


「そうかそうか、シェリア様がな。性格のねじ曲がったあの方のことだ、容姿ではスザンナに勝てないからと当てつけなんだろうね。よし、今度一緒に買いに行こう」

「やったあ! お父様、大好き!」


 キャーッっとピンクの声を上げて、スザンナは父の首にかじりつくように抱きついた。その行為に対して、鼻の下を伸ばす父。……醜い、という感想以外出てこない。


 ちなみにシェリア様とは、スザンナと同い年の、この国の第二王女様だ。どこで聞かれているかも分からないのに、そのような不敬発言をやってのける馬鹿な親子。


 私は今度は頭痛ではなく吐き気がするのであった。

 

 

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