飲酒運転の裏側
「来たんだ。俺さ、またこいつに怒鳴られたんだ。」
「あんた、怒鳴ったの?」
「怒鳴ってないよ。」
「おまえ、怒鳴ったろうが。」
「怒鳴ってないよ。」
「おまえ、怒鳴ったろうが。」
「怒鳴ってないよ。じゃあ、なんて怒鳴った?」
「なんて言ったのか聞こえねえし、知らねえよ。こいつ、怒鳴ったんだわ、何があったかというと一週間前なんだけど、毎週さ、月曜日って求人情報が更新されるのよ。それでさ、俺は、金、土、日って断酒してたのよ。もちろん、こいつに内緒で。また口出されるし。俺、3日酒抜いたら、手の震えもほぼなくなって体調もよくなるんだ。月曜日、良い求人あったらすぐに行動できるように準備してたのよ。日曜の夜に、部屋で、パソコンの前で、次の日ここチェックして、ここチェックしてって準備してたのよ。そこに、こいつが入ってきたんだわ。」
「ごはんだよって?」
「そう。それで、俺、おうって言ったんだけど、こいつ部屋から出てかないんだ。絶対、何か文句つけてくるなと思って、絶対目を合わさなかったんだ。その時にさ、俺の足元に、缶チューハイの缶が1本あったんだわ。何日も前の飲み残しで、とても飲めたもんじゃないんだわ。なんで、そんなもの置いてるかっていうと、灰皿って、全部たばこの火消えるわけじゃないんだわ。たまに灰皿から煙が出ることがあるの。そういう時に消すために置いてあるのよ。そしたらこいつ、また、なんて言ってるかわからないんだけど、怒鳴りやがった。別に、こいつのために断酒してるわけじゃないし、自分の為にやってるんだし、ほおっておこうかなと思ったけど、一応、伝えたんだ。缶チューハイの液体を灰皿に注いで、こうやって使うんだよって。そしたら、もったいないって怒鳴って、部屋に踏み込んできて、そこに空のペットボトルがあったんだわ。それを叩きつけて、こんなの使えばいいでしょって怒鳴ったんだわ。一応、これ何日も前の飲み残しだよとは言ったんだけど。」
「ペットボトル叩きつけたの?」
「そう、叩きつけたの。酷いでしょ?もうね、こんな話、たくさんあるよ。例えば、2年前。こいつを温泉に乗せて行ってやったんだわ。その帰りさ。その頃、俺、ガソリンスタンドの夜勤やってて2店舗に入ってたんだけど、1店舗がコロナの影響で、夜勤なくなって、給料10万になってしまったんだよ。どうしようかなって思ってて、その話をしようとしたんだ。俺の話の切り出し方も良くなかったかも知れないけど、俺、金ねえよって言ったんだ。そしたら、こいつ。働けーって思いっきり怒鳴りやがった。しかも、腹の底から声出して気持ちよさそうに。こいつに金貸してなんて言ったこともないのに。運転しながら俺は、働いとるがなって言ったんだ。そしたら、こいつ。もっと働けー、おまえ、金無いんだべ、もっと働けーって。俺は病気だって言ったんだ。そしたら、こいつ。なにが病気さ、生活保護で遊んできたくせにって言ったんだ。悪魔だべや。悪魔だべや。普通の人は、そんなこと言わないよ。それでさ、結局、ガソリンスタンドやめてさ、失業保険の手続きはしたけど、1か月、断酒して体調整えて、しっかりした職について、金貯めて、早くここを出ていこうって決めたんだ。断酒3日経って、朝起きたら、目覚めがめちゃくちゃいいし、手の震えもないし、これなら予定より早く、回復できるかもって嬉しくなったんだわ。そこに、こいつベッドまできて、起きたのっていうから、おうって答えたんだけど、朝ごはん食べるかいって、言うから、おうって答えたんだ。なんか変だなとは思ってたんだけど、朝ごはん食べてたら、ゆうちゃんの所に木を伐りに行かないかい?って言うんだ。俺は、はっきり行かないって言ったんだけど、なぜかというと、断酒最初のうちは、疲れると酒飲みたくなったりするらしいから断ったんだよ。俺には目的があるから。庭の手入れなんて疲れるのわかってるから。そしたら、また、何言ってんのかわかんねえんだけど、思いっきり怒鳴ってきたんだ。俺は、あの頃、まだ、甘ちゃんだったからさ、すぐに、酒買ってきて駐車場で飲んでたんだわ。そしたら、こいつ外出する時、早く行けって思ってたら、俺の車の横で、ピタって止まったんだ。そしてさ、酒飲む理由ができてよかったなって言ったんだ。悪魔だべや。悪魔だべや。俺も、さすがに腹立って、どうしてこんなこと言うんだろうって考えて、こいつ俺が怒らないと思って、舐めてるんだなって思ったんだ。その頃、俺は、暴力なんて使いたくなかったからさ、テレビを壊したんだ。俺だって怒るんだぞって。まあ、その後、自分で買い替えたんだけど。そして、問題は、次よ。また、気を取り直して、ここを脱出するために、断酒はじめたんだ。断酒6日目に、こいつがどこかで、酔っぱらって、自分の車のカギ落としてきたんだ。修理の人が家に来たけど、2,3日治らないっていうんだ。部品がなくて。しかも、代車がないって言うんだ。嫌だなあと思ったんだ。俺は、もうこいつと車に乗りたくないって思ってたからさ。こいつに、どうやって出勤するのって訊いたら、JRで行くって言うんだ。でも、こいつ出勤する時、荷物多いのも知ってるし、目的があるとは言っても、俺は無職だし、送り迎えすることにしたんだ。嫌だったけど。そして、断酒10日目よ。10日目かって、やったーって思ってたんだ。この日は、こいつの車も治ったし、もうこいつと車に乗らなくてすむって喜んでたんだわ。こいつを迎えに行ったら、なんかブツブツ言いながら、歩いてきたんだ。なんか変だなって思ってたんだけど。車に乗ってからも一人でブツブツ言ってるんだわ。俺は、こいつに伝えないといけないことが2つあったんだ。1つは、こいつの車治ったってこと。もう1つは、なんか前の日、親戚の誰だかの家乗せて行ってと言われていたので、自分で行ってくれってこと。こいつの道案内なんて、めちゃくちゃなの知ってるからさ。そっちだ、いや、あっちだ、いや、こっちだってイライラするからさ。こいつブツブツ言ってるけど、こっち向くの待ってたんだわ。そしたら、こいつ。ばって俺の方見て、指さして、わざとらしく、あっ顔赤いって言ったんだ。悪魔だべや。悪魔だべや。悪魔だべや。別にさ、顔赤いって言葉、人によって感じ方違うだろうけど、断酒10日するって相当、つらいよ。薬飲んでも効かなかったり、不安だったり、本当につらいんだ。これだけやってきて、また、母親が邪魔するのかよって、もうどうでもよくなったもんね。本当にどうでもよくなった。その後、朝まで飲んで、次の日、交通事故起こして、飲酒運転で捕まったんだ。」