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気分は基礎医学  作者: 輪島ライ
2019年6月 薬理学基本コース

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68 気分は恋バナ

 先輩は帰りが遅れる旨を親御さんに伝えてあるらしく、僕らは中華料理店のテーブル席でそのまましばらく話していた。


 基本コース研修についての話題が一段落すると僕も少し気分が乗ってきて、お互いのプライベートな話も始まっていた。



「そういえばさあ、白神君って恵理ちゃんと付き合ってるの?」

「んぐっ!」


 継ぎ足されて3回目のお水を飲んでいた時にストレートボールを投げられ、僕は軽くむせそうになった。


「あっごめん、驚かせちゃった?」

「いえいえ、大丈夫です。そういう噂も流れてたみたいですけど今の所そういう状態にはなってないですよ。僕自身は彼女作れる状態でもないですし」

「へー、そうなんだ。恵理ちゃんはボクから見ても魅力的な女の子だと思うし、もし付き合えるならそれもいいんじゃない? まあ仮定の話だけどね」

「ははは、もしそうなら僕は嬉しいですけどね……」


 ついこの間壬生川さん本人に今は付き合えないと言われた上でだが告白されたことは隠しつつ、僕はその話題を上手く回避した。



「この前来てた看護学部の女の子たちじゃないですけど、先輩こそ恋愛の方はどうなんですか? ご不快に思われたらすみません」

「あ、ボクは全然恋バナが駄目な訳じゃないよ。看護学部の2人は新歓のお茶会でボク個人の話を始めたから叱っただけだし」


 先輩の言葉に僕はあの時の会話をおぼろげに思い出した。


 東医研の新歓イベントとしてのお茶会で、看護学部生の女子2名がヤッ君先輩に対して出し抜けに「彼女いるんですか?」と聞いたので先輩は「今日は部活の話をするために集まって貰っている」と伝えて彼女たちをたしなめたのだった。


「なるほど、確かにそういう文脈でしたよね。これも女の子たちと同じになりますけど、実際先輩って美形じゃないですか。やっぱり彼女さんとかいるんですか?」

「あれっ、いきなり褒められちゃった。素直に嬉しいなあ」


 そこまで話すと先輩は少し照れながらにこにこと笑った。


「ボク自身身だしなみには気を遣ってるし軽くメイクもしてるけど、3回生の中ではそんなにモテないよ。皆からヤッ君って呼ばれて仲良くして貰ってるけど愛玩動物みたいな扱いで、これといって女の子からアプローチされたこともないの。何よりボクって身長が161cmしかないから昔から本当に悔しいんだ」

「そうなんですか……」


 ヤッ君先輩のルックスは男性である僕から見ても美しいが、その美しさはかっこいいというよりかわいいという表現が適切なので異性から親しくされてもモテるという結果にはつながらないらしい。


 ルックスで苦労していそうにない先輩が実は身長の低さをコンプレックスに思っているという事実には意外なものを感じた。



「でもボクは学内には好きな人がいないし、まだ21だからしばらくはこのままでいいと思ってる。そのうち運命の相手が見つかるといいなって」

「ポジティブな考え方ですね。あの、学内にはってことはもしかすると学外に……?」


 気になる表現を突っ込んで聞いてみると、先輩は軽く頬を染めてこくりと頷いた。


「へえー、先輩も気になるお相手はいらっしゃるんですね。その女の子はどういう所が魅力的なんですか?」


 さらに尋ねてみると先輩は突然無表情になって沈黙した。


 ちょっと調子に乗り過ぎたかと内心焦っていると、先輩は再び笑顔になって口を開いた。



「えっとね。その子はとても優しいの。外見では強気そうに見えるけど本当は気が弱くて、ボクはいつもその子を守ってきた。中学校と高校の同級生で、その子は一浪して別の大学に行ったんだけど今でも時々連絡取ってる。いつかまた付き合えたらいいなって思ってるけどそれは成り行きに任せるしかないから、せめてボクはその子への気持ちを忘れずにいたいなって」

「ロマンチックですね。でも、それぐらい一途に思える相手なら別の大学でも希望はあると思いますよ」


 そう言うと先輩はニコニコ笑顔のままでありがとう、と答えてくれた。



 それからしばらくして店を出て、僕は先輩をJRの皆月(みなづき)駅まで送った。


 駅まで歩く途中にブレザーの制服を着た男子生徒の集団を目にして僕は先輩に話しかけた。


「こんな時間にどこの高校生でしょうね?」

「ああ、彼らは皆月(みなづき)高校の運動部だと思うよ。体格からするとアメフト部じゃないかな?」

「なるほど、お詳しいですね」

「詳しいっていうかボクは皆月高校の卒業生だから。ボクがいた頃は学ランだったからあの制服は見覚えないけど、雰囲気で大体分かるね」


 その言葉に感心しつつ僕はヤッ君先輩が皆月高校出身であることを初めて知った。


 皆月高校は阪急皆月市駅から徒歩10分ほどの所にある中高一貫校で、畿内医科大学の附属校なので本学学生にもよく知られていた。


 先輩の話からすると今は別の大学に通っている意中の女性というのも皆月中高の同級生なのだろう。



 それから僕は駅まで先輩を見送り、明日からもよろしくお願いしますと別れの挨拶をした。


 この時の僕は知らなかったのだが現在は共学の学校である皆月中高は2016年度までは男子校で、2017年4月入学の中学1年生から女子が入学できるようになったという。


 ヤッ君先輩は大学で僕より1学年上だが現役で入学しているので皆月高校を卒業したのは2017年3月。つまり、先輩が卒業した時点では皆月中高は男子校だったことになる。



 これ以上の考察は控えておきたい。

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