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気分は基礎医学  作者: 輪島ライ
2020年1月 薬理学発展コース

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260/338

260 オンリーワンになれなくて

 食事を終えて割り勘で料金を払い、居酒屋を出た2人はそのまま駅近くのラブホテルに直行した。


 そこは初めてのデートで真琴から行こうと提案されて剖良が強く拒絶してしまった場所で、剖良はここに2人で来られたことに感謝していた。



 シックな内装のホテルに入り、フロントで女性2人と伝えてエレベーターに乗り込む。


 このホテルには女性同士のカップル限定のフロアがあり真琴はそのフロアにある客室を予約してくれていた。



 剖良はラブホテルに入るのは今日が人生で初めてだが部屋の作りは思ったほど下品ではなく、普通のホテルとそう変わらなかった。


 唯一の違いはベッドが天幕付きのダブルベッドであることで、適度に暗い照明も合わさって剖良はその雰囲気に息を呑んだ。



「じゃあシャワー浴びてきますね。……一緒に入ります?」

「ちょっとそれはまだ恥ずかしいです。どうぞ、先に入ってきてください」


 剖良が恐縮しつつ答えると真琴は了解でーす、と言ってシャワーを浴びに行った。


 今のうちに歯を磨いておこうと考えて洗面所に入ると浴室へ続く扉は透明になっていて、剖良は必死でそちらを見ないようにしながらアメニティの歯ブラシで歯を磨いた。



 それから真琴は15分ほどで浴室から出てきて、剖良もそれに続いてシャワーを浴びた。


 真琴が歯を磨いている音を聞きながら、彼女が向こうから自分を見ていたら恥ずかしいと思って剖良は手早く身体を洗った。



 備え付けのバスローブを着て客室に戻ると真琴もバスローブ姿でベッドに腰かけていた。


 おずおずと彼女の隣に腰かけると真琴は剖良の肩を抱き寄せ、そのままベッドに押し倒した。



「真琴、さん……」

「緊張しなくて大丈夫ですよ。優しくしますから」


 真琴は剖良のバスローブをはぎ取り、彼女の控えめなサイズの胸を露出させた。


 剖良は彼女のなすがままで、身体を石のように硬直させながら真琴に身を任せようとしていた。



 そして真琴はベッドに横たわった剖良に口づけをしようとして、


 剖良から突然身体を離すと、はぎ取ったバスローブを元に戻した。



「……? どうしたんですか、真琴さん」

「私……やっぱり無理です。剖良さんとは、いや、今の剖良さんとは、これ以上深い関係になれません」


 真琴はベッドから身を起こし、そのまま立ち上がると一人掛けのソファに腰かけた。


 彼女はソファの上でうつむき、剖良の顔を見られていなかった。



「剖良さん、私のことそこまで好きじゃないですよね。……私は、あの綺麗なお友達の代わりなんですよね」

「そんなこと……」

「正直に言ってください。いや、言って貰わなくても分かります。私は剖良さんにとって、オンリーワンの存在じゃないってことが」


 真琴は激しい口調でそう言い、両目から涙を流し始めた。



「大学祭の時に展示場で見たんです。あの綺麗なお友達に、剖良さんはまだ未練があるんでしょう」

「……」

「ごめんなさい、私はそこまで謙虚な性格じゃないから。自分は浮気性でも相手に浮気されるのは我慢できないんです」

「私、浮気なんてしません。ちゃんと真琴さんの恋人になれます」

「私は恋人になれるんじゃなくて恋人になりたいって言って欲しいんです。……だから、今の剖良さんとはキスもできません。少しでも触れてしまったら、本当に好きになっちゃうから」


 真琴はそこまで話すと、バスローブを脱いで元の服に着替え始めた。


 人生で初めて見る真琴の美しい裸体に剖良は目を奪われたが、今の彼女にはこれ以上何を伝えることもできなかった。



「本当にごめんなさい。剖良さんは浮気なんてしていないのに、私はわがままです。……でも、オンリーワンになれないなら私はあなたの恋人にはなれません。……さようなら」


 一息にそう言うと真琴はバッグを手に取って部屋を出ていった。



 はだけたバスローブ姿のまま天幕付きのベッドに一人残され、剖良は自分が人生で初めてできた恋人と破局したことを悟った。


 全て自分がまいた種だと理解しつつ、剖良はベッドに仰向けに倒れてそのまま天井を見上げた。



 シミ一つない真っ白な天井を見つめながら、私には一生恋愛なんてできないのかも知れないと剖良は絶望的な気分になった。

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