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気分は基礎医学  作者: 輪島ライ
2019年9月 微生物学発展コース

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159 気分は時間の問題

「これから早速2階のホールで開会式があるからとりあえず部屋に荷物を置いてきてくれ。俺とヤミ子君と生島君は会場設営を手伝いに行くから、先に他の4人で行って欲しい」

「分かりました。じゃあ行きましょう、ヤッ君先輩」

「了解!」


 マレー先輩は客室のカードキーをヤッ君先輩に渡すとヤミ子先輩とカナやんを連れて2階のホールへと続く階段を上っていき、壬生川さんはヤッ君先輩と並んでエレベーターに向けて歩いていった。


 性別こそ違うがメイクやファッションの話題で盛り上がりお互いのマニキュアや靴を褒め合っている2人を見て、研究医生同士には僕の知らない絆があるようだと改めて分かった。



 そして当然、この場に残されるのは残り2名で。


「……行かないの?」

「え、あ、そうですね、僕らも行きましょう」


 きょとんとしている剖良先輩に続いて僕もカバンを抱えてエレベーターへと歩くことにした。


 エレベーターはホテルの入り口からは少々離れた所にあり、僕は壬生川さんとヤッ君先輩に追従して歩きつつ隣を歩く剖良先輩と話していた。



「塔也君は夏休み大変だったよね。研修のことはヤミ子からも色々聞いた」

「ええ、動物実験は確かに大変でした。……剖良先輩は特にお変わりなかったですか?」

「いつも通り解剖学教室に出入りしながら弓道部の練習にも行ってたけど、他は何も。ヤミ子とはあまり遊べなくて残念だったかな」

「なるほど。先月は僕の指導があってヤミ子先輩もお忙しかったですからね……」


 色々と探りを入れてみた結果、剖良先輩はヤミ子先輩が柳沢君と付き合い始めたことを全く知らないらしいと判明した。


 僕がヤミ子先輩と付き合っているのではないかという噂にあれほど動揺していた剖良先輩なので柳沢君のことを知ってしまえば一体どうなるのだろうかと不安で仕方がないが、当然ながら僕から話す訳にもいかない。


 ちなみに剖良先輩が言っていた「ヤミ子が後輩の男子と駅前でイチャイチャしていた」という目撃証言はどうやら柳沢君のことらしく、3回生女子の間でもある程度噂が広まっているようなので剖良先輩が真相を知るのも時間の問題だろう。



「カナちゃんから聞いたけど、恵理ちゃんと付き合い始めたっていうのは本当?」

「本当です。といってもまだ1か月経ってないですし、これといって関係には変わりないですけどね」


 3回生と比べて2回生女子のネットワークはかなり強固なので、カナやんは僕が壬生川さんと付き合い始めたことを既に知っているらしい。


「そうなのね。カナちゃんにとっての塔也君もそうだけど恵理ちゃんのことが気になってる2回生男子は多かったはずだから、あんまり人前でイチャイチャしない方がいいとは思う。私だってヤミ子に目の前で男の子とイチャイチャされたら嫌だし」

「は、ははは、心得ておきます……」


 これにはもう気まずくて何もコメントできない。



「せっかくの合宿なので僕はマレー先輩とかヤッ君先輩とワイワイ遊んでみたいんですけど、先輩は何か楽しみなことはあります?」


 ポスター発表など真面目なイベントも多い合宿だが、大学生にもなって合宿に行ける機会は誰にとっても貴重なのではないかと思って聞いてみた。


「そうね、私もすごく楽しみなイベントはあって……うふ、うふふふ…………」


 剖良先輩は答えながら突然笑い始め、その表情はものすごく嬉しそうだった。



「そ、そんなに楽しみなんですか?」

「いや、男の子には関係ないからいいの。それにしても……うふふふふふ…………」


 剖良先輩は嬉しさのあまり次第に表情が崩れてきて、いくら高嶺の花の先輩でも正直言って気持ち悪いと思った。


 そうこうしているうちにエレベーターの前まで着き、僕と剖良先輩はボタンを押さずに待っていてくれた壬生川さんとヤッ君先輩に追いついた。



「お疲れ様ですさっちゃん先輩。お部屋隣でよかったです」

「そういえば恵理ちゃんはカナちゃんと同じ部屋だったね。ところで温泉は使う予定ある?」

「ええ、せっかくだから入りに行こうってカナちゃんと話してたんです」

「良かった。私もヤミ子と一緒に行くからよろしくね。……うふふ…………」


 壬生川さんの返事を聞き、剖良先輩は彼女の顔ではなく豊かな胸に視線を向けながら喜んでいた。


「女の子たちは仲が良くていいねー。白神君、ボクも温泉で背中流してあげようか?」

「ええ、ぜひお願いします……」


 無邪気に提案してくるヤッ君先輩に返事しつつ剖良先輩は何だかんだで幸せな人なのかも知れないと思った。



「ところで先輩、ここに来る間に京阪医大の呉さんという男子学生と知り合ったんですがお知り合いなんですよね?」


 伝え忘れていたことを口にするとヤッ君先輩は目をキラキラと輝かせて反応した。


「えっ!? そうだけど呉君もここに来てるの!?」

「ええ、そうです。呉さんは先輩にお会いしたいと仰ってましたよ」

「そうなんだ。えへへ、ボクも会いたかったから嬉しいな。流石に温泉には一緒に行けないかな……」

「んー……?」


 先輩は呉さんと温泉に行きたいらしいが、これはつまりそういう意味なのだろうか。

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