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百年の恋の物語  作者: 雨乞猫
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態度と心境のジレンマ

それから私たち〈ヘイテッド ラフィン〉は次々と依頼されたクエストをこなしていった


元々この国のギルド自体、レベル的にはあまり高くないため


今まで達成が困難な難易度Aクラス以上の依頼が全て私たち


〈ヘイテッド ラフィン〉へと回って来たからである。


厳しいクエストばかりであったがその分報酬も高かったしやりがいもあったのだ


こうして私たちは徐々にチームワークを固め、お互い心より信頼し合えるチームへとなっていく……はずだった。

 

「だから何度言ったらわかるんだ、お前は⁉魔族っていうのは死んだと思った瞬間が一番危険なんだ


最後まで油断するんじゃねーよ、馬鹿‼」

 

「馬鹿とは何よ馬鹿とは⁉私はこう見えても勉強で負けたことは無いのよ


アンタみたいな脳筋に馬鹿呼ばわりされる覚えはないわよ‼

  

大体私にはアメリアっていう立派な名前があるのよ、アンタにお前呼ばわりされる覚えはないわ‼」

 

「典型的な勉強だけできた馬鹿って奴だな


戦いっていうのは机の上のお勉強じゃないんだそんなんじゃいつか死ぬぞ⁉」

 

「アンタだっていつもいつも好き勝手に動いて、私がどれだけアンタのフォローしていると思っているのよ‼


感謝されこそすれそんな言われ方は心外だわ、もうちょっと私に気を使いなさいよ‼」

 

「お前こそ少しは俺に気を使え、いつもいつも脳筋だの動物並だのズケズケと好き勝手言いやがって


そもそもお前の作戦立案だって大概無茶な内容だぞ⁉


いたわりとか気配りとか女にしかできない優しさってモノがあるだろうが⁉」

 

「何よその前時代的な思想は⁉コレだから脳筋はダメなのよ


私は知性で勝負しているの、アンタみたいに脊髄反射だけで戦っている戦馬鹿とは違うのよ‼」

 

戦いが終わった後はいつもこんな感じであった、お互いの思いを言い合い、激しく口論する


傍から見るとすこぶる仲の悪いチームに見えるようだが、私たちはこれでうまくバランスをとっている


そしてどこのチームもこなせない難易度の高いクエストを次々とこなしていった。

 

何度か一緒にクエストをこなしていると段々とお互いの事を理解できるようになっていた。


私がオスカーの動きを読み、オスカーが私の戦術を肌で感じ取る、阿吽の呼吸とでもいうのか


私は初めてチームワークというモノを頭ではなく肌で理解することが出来た


確かにこれだけは学校の勉強では絶対にわからない、いやわかるはずがない。


正直な事を言えばオスカーの能力に対し私はまだ追いついていない


くやしいので絶対に口には出さないが一緒に戦えば戦う程オスカーの凄さを嫌という程思い知らされる


圧倒的なまでの身体能力に野生の勘とでもいうべき戦闘への適応能力、そして飽くなき闘争本能


正に戦う為に生まれてきた様な男である。でも絶対に追いついてやる、コイツの相棒は私しかいない。


〈お前のおかげで助かった、やはり俺の相棒はお前しかいない……〉


と絶対に言わせてやるんだから、私は己のプライドをかけて全身全霊で取り組んでやると心に誓った。


そんな思いを抱きつつ私たちは数々のクエストをこなしていった


その内冒険者ギルドでは一番難易度の高いクエストは


〈ヘイテッド ラフィン〉の仕事と暗黙の了解で決まっていた。


それは私たちがこの冒険者ギルドでナンバーワンのチームである証明でもある。


周りからあれ程蔑まれ、馬鹿にされてきた私への態度も180度変わった


誰もが私に敬意をはらい一目置くようになる。


これが冒険者という職業を生業とする者たちの摂理なのだろう


学歴や家柄など一切関係ない、認めるのは己の実績のみの完全実力主義、それが冒険者という職業なのだ。


私はあれ程手に入れたかった名声も地位も、それなりに掴むことが出来た。


しかし今の私にはそんな事は二の次であった、私の欲しいのは他人の評価ではない


オスカーに必要だと思われたいという相棒からの言葉なのだ。


ある日、私たちの噂はキスロ共和国だけでなく他国にまで広がっていると耳にした。


〈掃きだめギルド〉などと言われていたキスロのギルドに凄いのがいるという噂である。

 

その日も難易度の高いクエストをこなし、いつも通り激しい口論をした後私たちは別々に帰路へと着いた


戦いの後は必ず口喧嘩になってしまうので一緒に帰るとどことなく気まずく


妙な雰囲気になってしまう為、行くときは一緒でも


クエスト終了後には現地解散というのが私達の暗黙のルールとなっていた。

 

「どうしてこうなってしまうのかしら……」

 

私は一人家路へと歩きながらそう呟いた、オスカーは遠慮とか配慮とかとは無縁の性格をしているので


私の問題点や改善点をハッキリと指摘してくる、だが私はそれを認めたくなかった


戦闘終了後は興奮状態という事もあり感情の赴くままにオスカーに食って掛かってしまうのだ。

 

負けたくない、このオスカーにだけは劣っていると思われたくない、その一心だった。


でもわかっている、言い方はどうあれオスカーの言っている事は正しい


そんな彼に対してただ意地だけで反論している私……


大馬鹿である、この損な性格のせいでだから今までどこのチームともうまくやれなかったのだ。


自分が劣っていると認めたくない、負けたくない、そんな余計なプライドが邪魔をする


プライドなどというモノは戦場において何の役にも立たない、いやむしろ邪魔をする事すらある


それがわかっていてできない、以前オスカーが言った〈勉強ができる馬鹿〉そのものである。

 

だけれど戦いにおいて私がオスカーの役に立っているという自負はある


他の人より自分がパートナーとして最善だという事は客観的に見ても間違っていないと思う。


ただ人間関係にはコミュニケーションというモノが必要であり


私はそれが出来なかった故にこんな北の僻地にまで飛ばされてきてしまったのだ。


いくら戦闘能力が高くても性格破綻者とは共に戦えない、もしオスカーにまで見放されたら……


そんな事を考えたら恐ろしくなってくる。


それがわかっていて改善できない自分の性格を恨めしく思いつつ自己嫌悪に浸っていた。


私は戦い終わった後、いつもの様に冒険者ギルドにクエスト終了の報告をしに行った


既にオスカーが先に来ていて報告は済ませているのだが報酬を受け取るのと同時に


〈まだ今のパートナーで継続して大丈夫ですか?問題点は無いですか?〉


という確認事項がある為だ、冒険者ギルド側も普通はそんな事をしないが


何せ私とオスカーは過去いくつものチームを渡り歩いてきた札付きの問題児である


ある意味で特別な処置としてこの確認事項があるのだ。


いつもの様に私が冒険者ギルドに顔を出すと統括長メルゲーコフが愛想よく迎えてくれた。


「お疲れ様ですアメリアさん、今回の報酬は150000フィルですねご確認を。


それと確認事項ですが、まだ今のパートナーで継続して大丈夫ですか?問題点は無いですか?


……ってどうしましたかアメリアさん、何か元気がないですね?」


私の態度を見て何かを感じたのであろう、メルゲーコフが優しく問いかけてきた。

 

メルゲーコフの気遣いに対し、私は目を閉じ大きくため息をついた。


「ええ、ちょっと疲れてしまって。私の方には問題は無いわ、継続の方向で……」

 

「そうですか、それは良かった」

 

優しい笑みで返してくれるメルゲーコフ、この人は本当に気遣いのできる善良な性格をしているのだろう


私は堪らず目の前にいるこの人が良さそうな男に聞いてみることにした。

 

「ねえメルゲーコフさん、オスカーの方は私の事をどう言っているの?」

 

「は?いやそれは……本人の確認無しで伝えるのはちょっと……何か気になる事でもあるのですか?」


私は初めて正直な気持ちを人に打ち明けた。戦いの後はいつも口論になってしまう事


そしてその原因のほとんどは私であり、オスカーに見限られてしまうのではないか?


と凄く不安に感じている事を赤裸々に話した。


こんな事を人に話すなんて以前の私では考えられない屈辱的な事なのだが


そんなことを気にする余裕も無く、なりふり構ってなどいられなかったのだ


オスカーに見捨てられたらまた孤独な独りぼっちに逆戻りになってしまうからだ


そんな私の不安を払拭するかのようにメルゲーコフは満面の笑みで答えてくれた。


「そういう事でしたか、でしたらお答えいたしましょう。


オスカーさんはあなたの事をとても褒めていましたよ」


「えっ⁉嘘?」


「本当ですとも、貴方の戦闘への適応力には目を見張るものがあると


自分の背中を任せられるパートナーに出会ったのは初めてだと言っていましたよ


口論の事も〈アイツの負けん気の強さがいい方向に出ている


だからこそ俺が指摘したところは次回の戦いにすぐ活かされている


まだまだ粗削りだがこのまま成長し続ければ俺より凄い冒険者になるんじゃねーのかな?〉


とおっしゃっていました。あっ、私が話した事はオスカーさんには内緒にしてくださいね」


メルゲーコフはそう言ってウインクした、それを聞いた私は嬉しくて飛び上がりたいくらいであった


自然と口元が緩み喜びを抑えるのが大変だった。


嬉しい、本当に嬉しい、オスカーが私の事をそんな風に思っていてくれたなんて⁉


私は人生で初めて嬉しくて涙が出た。


しかしそんな姿を見られたくなくて思わず顔を逸らしメルゲーコフに背中を向けた。


「有難うメルゲーコフさん、私当分オスカーと頑張ってみるわ」


「はい、そうしていただけると私も嬉しいです、何せ貴方達は我がギルドが誇るトップチーム


〈ヘイテッド ラフィン〉なのですから」


今となってはそのふざけたチーム名すらも誇らしい、私は足早で冒険者ギルドの建物を出ると大声で叫んだ。


「やったぁぁぁーーーー‼」

 

私は両こぶしを握り締めありったけの声を振り絞って叫んだ、誰かに聞かれたって構うものですか


今まで生きてきてこれほど嬉しかったことはなかったのだから。


世間だの周りだのじゃない、たった一人の仲間に認められることがこれほど嬉しい事だとは知らなかったのだ。



頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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