ダメだしの果てに
「じゃあ私がポイズンワームをいぶり出すから……」
ポイズンワームは基本的には夜行性である、日中は土の中で静かに眠っているので
まずは地中から引っ張り出す事から始めなくてはならない。
私は地面に片膝を付き大地に右手を当てて目を閉じる。
「ヒートアース……」
私は魔法を発動させた、地中の奥底に眠る熱エネルギーを利用しこの辺り一体の大地の温度を急激に上げたのである
徐々に足元の地面が熱を帯びていき、大地から細い狼煙の様な煙が何本も立ち昇る、すると微かに地面が揺れ始めた。
「来るわよ……」
私がそう言うと数秒後には大地が徐々に揺れ始めその振動は激しさを増していく
すると地面が急激に隆起し地割れと共に地中から飛び出すようにポイズンワームが顔を出した。
〈グモウォォォォーーー‼〉
まるで牛を圧殺したかのような叫び声を上げながらその巨大な姿を現したポイズンワーム
極度の興奮状態なのか激しく身をよじらせ暴れる様に辺りの木々をなぎ倒していった。
「情報通り三体いるわね、しかも一体は12m級の大物よ、手筈通りここは……」
私がそう言い終わる前にオスカーは走り出していた
両手で剣を握り締め迷う事無く目の前の巨大なモンスターに斬りかかっていたのだ。
「なっ、いきなり作戦無視⁉……ったくどいつもこいつも冒険者って輩は‼」
私は唇を噛みしめ悪態をついた。しかし次の瞬間、驚愕の光景を目にしたのである。
「は、速い‼」
瞬間移動でもしたのか?と思える程の速度で一気に間合いを詰めるオスカー
素早い身のこなしで右端のポイズンワームに斬りかっていった。
閃光のように振り下ろされたその剣はポイズンワームの胴体を見事に切り裂いた
〈ブシャアーーー‼︎〉
その傷口から噴水の様に体液が噴き出す。それを紙一重の間合いで交わすオスカー
噴き出した体液が地面に撒き散らされると〈ジュジュ〉という音と共に白い湯気の様なものが立ち昇り
地面が焦げたような嫌な臭いが立ち込める。ポイズンワームの体液は有毒だとは聞いていたが想像以上の様である。
「ちっ、さすがにこのぐらいじゃ死なねーか⁉」
オスカーは舌打ちしながらそう呟いた。
斬ったポイズンワームはまだ元気に動き回っている、体が巨大な分それに見合った耐久性も持ち合わせているのは当然であり
手負いの分だけ厄介な存在になっていた。
「あんなの相手に一人でどうするつもりなのよ全く‼」
私は即座に頭を巡らせる、いくらオスカーが常人離れした強さを持っていても
ポイズンワーム三体が相手では相手の攻撃を避けるだけで精一杯だろう。
考えろ、どうすればいい?
まずはポイズンワームの注意をオスカーから逸らす事が必用だ
オスカーが一体ずつ攻撃できるように他のポイズンワームに牽制と攪乱を仕掛ける必要がある。
「ファイヤーアロー‼」
私は炎系の魔法で攻撃というより牽制の一撃を放った。
ポイズンワームは殆ど目が見えない、顔の周りにあるピット器官と呼ばれるくぼみで温度を感じて相手を認識する
いわば赤外線感知器官である。だから私は熱を纏っている炎系の魔法で
ポイズンワームのサーモグラフィを狂わせてやる作戦に出たのだ。
これ程巨大な相手では私のファイヤーアローでは殆どダメージは無いだろう
しかし効果はあった様だ。ポイズンワーム達はオスカーを認識できない焦りなのか闇雲に口から毒液を吐き暴れまわっている
巨大な芋虫三体が身をよじらせながら暴れまわるその光景はおぞましさすら感じたが
今はそんな事を言っている場合ではない。
「考えるのよアメリア、ポイズンワームの行動パターンと攻撃範囲
一度毒液を吐いた後、次の毒液を吐くまでのタイムラグ
そしてどの攻撃をどういったタイミングで仕掛ければオスカーが一番攻撃しやすいか……
威力はいらない、牽制と攪乱が第一優先よ……」
私は自分を鼓舞するようにそう呟いた。ポイズンワームの動き、一挙手一投足を見逃さず魔法を放ち続けた
炎系の攻撃を止めた途端に相手はオスカーを認識して襲い掛かるのだ
一瞬の油断も隙も見せられない、そんな状況で戦いは続いた。
〈ドシーン〉という激しい音と共に最後のポイズンワームが地面に倒れ込んだ
周りの木々は殆ど倒され、ポイズンワームの体液と吐き出した毒液の嫌な臭いが周りに立ち込める。
「お、終わった……」
私はその場でへたり込んだ。今まで、これ程魔力と頭を使ったことなど無い
疲労困憊で体力も魔力もすっからかん、もう何もしたくない、お腹も空いた……
そんな私にオスカーはゆっくりと近づいて来た、剣を右肩に担ぎ息も乱していない様子で私を見下ろしている。
コイツ凄い……今まで見た冒険者の中でも断トツの力を持っている、これが勇者の血統というヤツのだろうか⁉
私は改めてオスカーを見上げ、そして見直した。
でも私だって今回はいい仕事したはず、我ながらよく頑張ったと思うし、これ以上ないって程アンタのフォローをしたわよ
さあいくらでも褒めていいわよ⁉……そんな事を考えていた私に思いもよらない言葉が帰ってきたのである。
「30点……」
「は⁉」
「30点って言ったんだ。まず判断が遅い、状況を素早く的確に判断し、もっと最善の方法を選択する事
あと魔力の使い方に無駄が多い、敵の強さに応じてもっと効率よく魔法を放つ事
でないともっと強力な敵が現れた時、魔力切れを起こして使い物にならなくなる、それと……」
唖然としている私に淡々と語るオスカー……
えっ、ちょっと待ってよ、私がこれだけ頑張ったのにねぎらいの言葉でも感謝の意でもなくまさかのダメ出し、何よコイツ⁉
あまりの事に口を大きく開けたまま絶句してしまっていた、そんな私を見てオスカーは軽くため息をついた。
「何だよ、腰でも抜けたのか?じゃあ俺は先に帰っているからな、もうモンスターもいない事だし一人でも大丈夫だよな
近くの町まで出れば馬車とか出ているはずだからそれを利用して帰って来な、じゃあな」
オスカーはそう言い残し呆然としてへたり込んでいる私を置いてサッサと帰って行った。
あり得ない、有り得ないわよ、仲間を……いや女性を一人置いてサッサと帰るとかどういう神経しているの⁉
私は疲れ切った体に鞭打って冒険者ギルドのある町まで自力で歩いて帰って来た。
もちろん馬車に乗るお金がないからである。疲労と空腹で行き倒れになりそうだったが
意地と怒りで何とか冒険者ギルドに着くとメルゲーコフが少し驚いた表情で迎えてくれた。
「おや、アメリアさん、随分と遅かったですね。オスカーさんは昨日の昼には帰って来ていましたが⁉」
オスカーという名前を聞いて私の心に再び怒りが込み上げて来た。
「何なのよアイツは‼言う事とやる事が滅茶苦茶じゃない、あんな奴見た事ないわよ‼」
まくしたてる様にぶちまけた私の言葉に少し戸惑い気味のメルゲーコフだったが
少し間を開けて、苦笑いを浮かべながら、私をたしなめる様に話し始めた。
「まあオスカーさんはやや変わったところはありますが、彼の能力自体は凄かったでしょ?」
「ええまあ、それは……でも私だって凄く頑張ったのよ、それなのにアイツは感謝するどころか
いきなりダメ出しをして来たのよ⁉しかも私の事を30点って言ったのよ、信じられる⁉」
「ほぅ30点ですか、それにダメ出しも……さすがですねアメリアさん」
「どこがさすがなのよ、人を馬鹿にしているの⁉」
私は食い気味に反論し、メルゲーコフを睨みつけ理由を問いただした。
「オスカーさんは能力が高すぎて他人と協力できないのです
しかもあの性格ですから一度組んだ人とも二度と組みません。
私が〈どこが悪かったのでしょうか?〉と聞いても
〈どこがどうとかいうレベルじゃない、0点だ、アイツらとはもう二度と組まない〉
その一言なのです、オスカーさんが点をつけたのもダメ出しをしたのもアメリアさんが初めてなのですよ
だから凄いと言ったのです、貴方を推薦した私の目が正しかったことが証明 されて嬉しいぐらいですよ」
目を細め、にこやかに微笑みながら嬉しそうに話しかけてくるメルゲーコフ。
褒められているのであろうがどうにも釈然としない
そんなモヤモヤした気持ちのまま鬱憤を晴らせずにいた時、メルゲーコフがおもむろに金の入った袋を奥から持ってきた
その中身の詰まった重そうな袋を私の目の前の台に乗せるとゴソっという重そうな音がした
大量のお金が入っている事は疑いなかった。
「今回の貴方の報酬分です、170000フィルなのですがキスロ共和国金貨350枚ですからね
見ての通りかなり重いです。一度に持ち帰りますか?それとも私らの方で一時お預かりいたしましょうか?」
私はゴクリと息を飲み、あくまで冷静を装いながら落ち着いた口調で答えた。
「金貨20枚だけ持っていきます、後は預かってもらえますか?」
「わかりました、ではオスカーさんとの契約は続行でよろしいんですよね?」
「まあ……そうですね……一度で断るのは礼儀に反しますし、もう少し様子を見てもいいと思っています」
「そうですか、それは良かった、では〈ヘイテッド ラフィン〉の今後のご健闘を祈ります」
その名前を聞くと一瞬チーム解消を考えてしまったが、今はそれどころではない
私は空腹を満たす為に町で一番と評判のレストランへと足を向けた
なにせこの二日ほどマトモな物を口にしていない、もはやダイエットを通り越して断食の領域に入ってしまっていたからだ。
私は思いつく限りの贅沢な料理を注文し心行くまで食欲を満たした。
「ああ幸せ……」
衣食足りて礼節を知るとはよくいったモノで、お腹が満たされると心も穏やかになっていく
今までのイライラが嘘の様だった。これで当分食べる物に困ることは無いだろう
私はあの宿泊施設も出る事を決め、ギルド本部の近くにアパートを借りた
壁も薄くない、床もきしまない、何より隙間風が入ってこない為寒くない、刑務所を出て豪邸に住んでいる気分であった。
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