ヘイテッド ラフィン
こうして二人で組むこととなった私は早速オスカーに問いかける。
「ねえ私たち二人だけどチーム名とリーダーはどうするの?」
「どうでもいい、アンタがやりたければやればいいだろ、名前も好きにしてくれ」
どこまでもいい加減ね、というより投げやりって事かな?どうせ私とも上手くやれないだろうからどうでもいいって事⁉
ムカつくけどここは我慢、我慢よアメリア……
「じゃあ歳で決めない?年上がチームリーダーで名前も決める、それでどう?」
「ああ、それで構わない」
「私は現在十九歳、十月で二十歳になるわ」
「俺は先月二十歳になった」
「へえ~同学年って事ね、でもあなたの方が少し早く生まれているからリーダーと名前は、あなたがお願い」
オスカーは軽くため息をつき、面倒臭そうに呟いた。
「しょうがねーな、チーム名とか適当だからな、後で文句言うなよ」
「もちろんよ、じゃあお願いね、よろしくリーダー」
私は引き続き精一杯の作り笑顔でそう告げた、今の自分の姿を鏡で見たら死にたくなるかもしれない
でもここで職を失うと本当に餓死しかねないからだ。
私がこんなに頑張っているのにも関わらず、完全なマイペースのオスカー。
どうせ英雄の息子って事で金持ちボンボンなのでしょう?私と違ってお金はあるんだろうけど
貴方だって私と組まされるって事は、もう後が無いのよ、わかっているの?
何か虚しくなってきたのでこれ以上考えるのは止めた、私はオスカーに別れの挨拶をして、その日は帰った。
次の日から朝一で冒険者ギルドに顔を出した、ここのシステムは他国と違って
チームレベルと仕事内容によって、冒険者ギルドの方がそれに適していると思えるチームにクエストを斡旋するのだ。
昨日チーム登録をしたばかり、しかもたった二人のパーティでは本当に仕事が回ってくるのかどうかもかなり怪しい
だから私たちへの仕事だけではなく、もしかしたら〈他チームへの助っ人としても参加できるかもしれない〉
という期待も込めてここに顔を出しているのだ。
「おや、今日も早いですねアメリアさん」
「ええ、私ここの雰囲気好きなんです、それに仕事の依頼が来たらすぐに動けるようにと思いまして……」
メルゲーコフが声を掛けてくると私はにこやかにそう答えたがもちろん嘘である。
食料もパンが残り二個だけになり切迫した食糧事情に加え、寝泊まりしている宿泊施設はとにかく寒いのだ
ここも寒いがまだあのオンボロ宿泊施設より十倍マシだからである。
初日はただ一日ボ~っと待っていただけであったが、二日目にはもう初仕事が回ってきた。
「アメリアさん、クエスト依頼です。中々難しいクエストかもしれませんが貴方達でしたら十分こなせると思っていますよ」
来た、チームとして念願の初仕事‼︎オスカーがどんな馬鹿のボンボンでも私が一人で頑張れば少々の敵なんか……えっ⁉
私はメルゲーコフからの依頼書の内容を見て愕然とした。
【南部のデリガンド森林に出没したポイズンワーム三頭の討伐】 賞金340000フィル
何よこれ……ポイズンワーム三頭とか、難易度特Aクラスのクエストじゃないの⁉
ポイズンワームとは体長約8m、大きいものは10mを越すモノすらいるという巨大モンスターである
口から毒液を吐き、それに触れると余程の毒耐性が無いと装備すら溶かしてしまう
しかも体液にも同様の毒が含まれており斬った際にも毒を浴びてしまうという厄介極まりない相手である
どう見積もっても重装備の前衛が十五人以上、攻撃魔法の使い手が十人は必要な案件のはずだ。
「あの……これは何かの間違いではないのですか?」
さすがの私も手違いか何かだろうとメルゲーコフに問いかけた。
「いえ間違いではないですよ、貴方達なら可能だと判断しました」
ニコリとそう答えるメルゲーコフ統括長。
いやいやいや馬鹿なの?アンタそれでも統括長⁉
はっ、まさか厄介者の私たちを合法的に葬り去るつもりでこのクエストを……
いや、いくらなんでもそんな……でもそうとしか……
そんな時、オスカーがひょっこり顔を出した。
「おう早いなアメリア……おっ、早速依頼のクエストか?」
呑気な態度で私の持っている依頼の紙を覗き込むオスカー。
「ちょっと聞いてよ、この依頼いくら何でもおかしいでしょ?今問い合わせていたとこなの」
するとクエスト内容を見たオスカーはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「面白いじゃねーか、じゃあ早速行くか‼」
何だコイツ?完全な馬鹿だ、全然わかっていない。
「ちょっと、待ちなさいよ、あなたわかっているの?ポイズンワームよ、しかも三体も⁉」
「だからいいんじゃねーか、ようやく面白いクエスト持ってきたなジジイ」
統括長に向かってジジイとか、さすが世間知らずのボンボン、私だって口に出したことは無いのに……
いや、今はそんな事考えている場合じゃない、何とか言って聞かせないと……
「嫌なら俺一人で行くぞ、そのかわり当然賞金は独り占めするけどな、それでもいいんだな?」
うっ、それは困る。賞金340000フィルという事は半分でも170000フィル
あの格安パンなら一万七千個買える……って違う、そんな事じゃない‼
その時、メルゲーコフが私たちに向かって嬉しそうに話しかけてきた。
「チーム〈ヘイテッド ラフィン〉の初陣ですね、ご武運を‼」
私は耳を疑った。何かの聞き間違いではないのだろうか?そうであって欲しい。
「今、チーム名……何て言いました?」
「ええ、ご登録用紙の記入通り〈ヘイテッド ラフィン〉で登録しましたが何か?」
私は反射的にオスカーの胸ぐらを掴んでいた。
「何でそんな名前にしたのよ‼」
「何でもいいって言ったじゃねーか⁉」
「何でもいいとは言っても限度ってモノがあるでしょうが‼なんでチーム名に
〈嫌われているならず者〉とか付けるのよ、意味わかんないわよ‼」
「意味わかっているじゃねーか」
「ネーミングセンスの事を言っているのよ、馬鹿なのアンタ⁉」
激しく食って掛かる私を見てクスリと笑うオスカー。
「何がおかしいのよ‼」
「いや、ようやく本性を見せたな、と思ってな。こっちが本当のアンタだろ?」
一瞬言葉に詰まってしまった、どうやら見抜かれていたようだった
慣れないことはするモノじゃない、あっという間に化けの皮がはがれてしまった
どうやら私には女優の才能は無かったようだ。
「四の五の言っていないでさっさと行くぞ‼」
私の意見も聞かずにさっさと歩き始めるオスカー。
「もうどうなっても知らないんだからね‼」
半ばヤケクソ気味で出発した私、チーム〈ヘイテッド ラフィン〉の初陣であった。
目的地のデリガンド森林までは一日半かかった。
私的には手持ちの食料も尽きこのクエストを成功させなければ本当に餓死が待っているのだ。
目的地であるデリガンド森林に到着し奥へと入って行くと何本もの木が倒され半分は溶かされていた
間違いなくポイズンワームの仕業である、私は覚悟を決めゴクリと息を飲んだ後、最終確認の為オスカーに話しかけた。
「わかっている?作戦通り最初は距離を取って回避することに専念して
相手に毒液を吐かせて体力を消耗させるの、私が遠距離攻撃魔法で弱らせるから
動きが鈍くなったところでトドメをお願い、体液を浴びても危険だから急所を一撃で仕留めてね」
「ああ、わかった」
そっけない返事で返すオスカー。わかっている、どうせコイツも途中から好き勝手やりだすに決まっている
その時どうやって私が上手く立ち回れるかが問題ね……
そんな事を考えながら、たった二人でとんでもない強敵を相手にするという
無茶を通り越して無謀ともいえるこのクエストに挑む覚悟を決めた私は少しやけになっていたのかもしれない。
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