理不尽と嫌悪
目的地のマケデン村に着くと村の村長が出てきて説明を始めた。
「先月から無数のベアウルフが現れ村人や家畜を襲い酷い被害が出ているのです
このままでは我々は死ぬのを待つしかありません、どうか助けてください」
丁寧に頭を下げ懇願する村長、するとギドは自分の胸をドンと叩きニヤリと笑って見せた。」
「俺達に任せておきな、ベアウルフなんざ一ひねりしてやるからよ
で成功した暁には酒と女を用意してくれ、とびきりの女をな……言っている意味は分かるよな?」
ギドは村長の肩を抱き寄せいかがわしい表情を浮かべた
村長は少し驚いた表情を見せたが、すぐに苦渋の表情を浮かべ目を閉じ小さく頷いた。
「わかりました……精一杯のお礼は用意させてもらいます……」
するとギドは村長の肩をバンバンと叩き上機嫌で仲間に告げた。
「聞いたかお前ら、これでやる気百倍ベアウルフなんざ軽く蹴散らして今夜は酒池肉林だ‼」
そんな事を言いながら異様に盛り上がるメンバー達……
ゲスが、人の弱みに付け込んで最低な連中……でもお金がいるのだ
私は複雑な思いを飲み込んで仕事と割り切る事にした。
私たちは夜になるのを待った。ベアウルフは夜行性、特に月の出ている時が最も攻撃力が高まる為
満月の今夜は必ず出てくるはずである。すると案の定、森から現れる黒い影。
ぽつりぽつりと徐々に数を増やしていくベアウルフ
低い唸り声をあげながらダラダラとよだれを垂らし、既に戦闘態勢に入っている様子であった
奴らにしてみれば人間など空腹を満たす為の餌でしかない
その無慈悲な眼差しと鋭い牙が月夜に照らされゆっくりとこちらに近づいてくる。
「打合せ通りやるわよ、皆作戦は頭に入っているわよね?」
「わかっているって、何度も言うな、小うるさい女だな」
私が最終的な確認を取ると露骨に面倒臭そうな表情を浮かべるギド
苛立つ気持ちをグッと抑え私はベアウルフを待ち構えた
ベアウルフたちも匂いと殺気でいつもと違う事を感じたのか、キョロキョロと辺りを見回し警戒している
我々が息を潜めて隠れている地点まであと30mという所まで接近してきた
その瞬間、ベアウルフの足元に巨大な魔法陣が発生する
光り輝く魔法陣の中から無数の触手が現れてベアウルフに巻き付き動きを止めた。
私は身を潜め隠れていた草むらから立ち上がり、皆に大声で指示を出した。
「今よ、各自左右に展開、半包囲をしながら逃げ出さない様に敵を牽制して、私の攻撃魔法を放った後に敵を掃討……えっ⁉」
私は目の前の男たちの行動に愕然とした、当初決めていた作戦を完全無視して各自バラバラに斬りかかって行ったのだ。
「ヒャッハー、コイツ等動けないぞ、こいつはいいや、殺せ、殺せ‼」
「楽ちん楽ちん、無抵抗の獲物狩りとか最高じゃねーか⁉」
「早くコイツ片付けて酒と女だ‼」
まるで殺戮を楽しむ様に狩りを始めるメンバー達。
「ダメよ、その魔法はもうすぐ効果が切れる、そうしたら……」
私が声を発すると同時に魔法の効果が切れ動き始めるベアウルフ。
「一時後退して、私が援護するから、その隙に……」
しかし私のいう事など聞こえていないのか、それとも聞く気が無いのか
各自バラバラに戦い始めるメンバー達、混戦での戦いでは私の魔法は使えない
何度も後退を指示支持するがまるで聞く耳を持たない
綺麗な満月の下でベアウルフと男たちの死闘はくり広げられた。
やがて戦いは終結した。結局各メンバーが個人技でベアウルフを撃退しクエスト自体は終結した
傷だらけになりながらも談笑し帰って来るメンバー達。
「いや~参った、参った、急に魔法が切れて動き出すんだからなアイツら」
「でも何か思っていたのと違うというか、魔法とか意外と使え無いっすね、リーダー」
「まあそう言うな、最初の一分ぐらいは役に立ったじゃねーか」
「それより酒と女ですよ、命がけで戦った後の酒と女は最高ですからね、さあ今から女相手に第二ラウンドと行きますか⁉」
好き勝手な事を言いながら下卑た話を楽しそうに話しているメンバー達。
「アナタたち一体どういうつもりよ‼」
私は到底納得できないこの結末を感情むき出しのままで問いかけた。
「あ?何だテメエ、勝ったんだからどうでもいいだろ⁉」
明らかに面倒臭そうに答えるギド、しかし私は引き下がらなかった。
「どうでもいい訳ないでしょ、なんで最初決めた事を守らないのよ‼」
「うるせー、酒がマズくなるから失せろ‼」
そう吐き捨てる様に言い放ったギドはイラつきながら足早に私の前から立ち去った
後ろからついていく部下達はご機嫌取りの様に話かけていた。
「何ですかあの女?自分が役に立たなかったことを八つ当たりしているんですか?」
「自分が活躍できなかったからヒスっているとか?」
「生理でも来ているんじゃねーのか?面倒臭い女だぜ全く……」
まるで私が全面的に悪いと言わんばかりの会話である、何よこの連中は……
まるで問答にならない、というより会話ができない、原始人以下の低能で下劣な人種
こんな奴等と仕事なんて二度としたくない、でももう少しの我慢、少しお金が貯まったらこんな連中とはもう……
戦いが終わり夜中の宴会が始まった、村の人々が酒と料理でギド達をもてなす
十名ほどの若い女性が連中の酒の相手をしていた、村長もやり切れないといった表情を浮かべ黙ってうつむいている。
酌をさせられている女性たちは明らかに嫌がっており、上機嫌なのはギド達だけだった。
「私は疲れたので先に休ませてもらいます」
こんな所にいても胸糞が悪くなるだけなのでさっさと休むことにした
村長が用意してくれた小屋で床にはいるが、しばらくすると隣の部屋から物音と声が聞こえ始める。
「止めてください……嫌です……」
「へっへっへ、いいじゃねーか、俺達のおかげで助かったんだぞ、いわばギブアンドテイクってやつだ
村長とは話が付いているんだからよ、諦めて楽しみな……」
どこまでも下種で卑劣な連中、不快の一言である
隣から女性の喘ぎ声とすすり泣く声が聞こえてくる、いたたまれない気持ちだったが私にはどうすることもできない
私は耳を塞ぎ布団に潜り込んで時が過ぎるのを只々願った。
翌朝になると連中は〈昨夜の女はどうだった?〉とか楽しそうに会話をしていた
朝からとても気分が悪い、彼らには軽蔑という言葉しか出てこない、そうして私たちは村を後にした。
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