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百年の恋の物語  作者: 雨乞猫
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最悪の初陣

私が加入して最初のクエストは森に現れたヒドラの退治。


いよいよ実践で私の能力を試す機会が訪れたのだ。標的のヒドラを目の前にするとまずその大きさに衝撃を受ける


三本の首を激しく動かしこちらを威嚇するように唸り声をあげた


そして感情の無い無機質な目がこちらを見た時、緊張からか手に汗が出てきて自然と鼓動が高まる


心の中で〈緊張するな〉と自分に言い聞かせればするほど逆に緊張感が高まり体が強張る、これが実践なのか⁉


そんな時、私の肩にそっと手を乗せてくれた者がいた、リーダーのハインリヒである。

 

「君なら大丈夫だ、フォローは俺達がするから思う存分やってくれ、頼りにしているよ」

 

優しく語り掛けてくれるハインリヒの言葉に大きく頷き、何かが吹っ切れた私は大声でメンバーに指示を出した。

 

「ローランドは前進、ヒドラの攻撃を受け止めて。


メリンダはローランドに防御力強化の補助魔法を放った後に弓で遠距離攻撃を


弓を二、三射したら移動して相手にマトを絞らせないように


カーマインはヒドラの攪乱をお願い。誰か一人にヒドラの注意が集中しない様に


中距離で動き回って注意を引き付けつつ適時攻撃を加えて


ハインリヒとボブは側面から攻撃、倒す事より弱らせること重視して


ヒドラが弱った所を私の魔法でとどめを刺すわ‼」


「いきなり呼び捨てかよ」


「ヒュ~やるじゃん」


「最後のおいしいところを自分でって……新人の癖に中々じゃない」


「……指示には従う……」


「みんな、アメリアのデビュー戦だ、派手に飾ってやろうぜ‼」

 

ハインリヒたちはさすがの動きで私の期待通り、いや期待以上の力を見せつけた。


私の想定した通りに戦闘は進みあの凶暴なヒドラが成すすべなく弱っていく。


もはや私は〈どうやって派手に倒すか〉という事だけをを考えていた時


見事な連携の前に一方的に攻撃され、もはや倒されるのも時間の問題か?


と思われていたヒドラだったが突然首を後ろにそらすと勢いをつける様な仕草を見せた後、いきなり口から炎を吐いたのである。

 

「パイロヒドラ⁉聞いてない……そんなこと聞いていないわよ‼」

 

予想外の事態に頭が真っ白になり硬直してしまう私だったが


メンバー達はそんなヒドラの攻撃に動揺することなく引き続き攻撃を続けていた。

 

「アメリア、指示はどうした⁉」

 

「俺達はこれからどうすればいい?」

 

「何とか言いなさいよ、アメリア‼」

 

「……指示無い……」

 

するとハインリヒが一瞬険しい表情を見せて皆に向かって叫んだ。

 

「フォーメーションB、各自判断は任せる‼」

 

するとメンバー達は私の指示とは全く違う動きをし始めたのだ


盾持ちのローランドが後方に下がったり突如攻撃を加えたりする


他のメンバー達も同様で皆激しく動き回りヒドラに的を絞らせない抜群のコンビネーションであった


凄まじい連続攻撃がヒドラを襲い炎を吐く暇さえ与えない


その動きは私が指示していた時よりも遥かに強力で理にかなったモノであった。

 

「何よコレ……何なのよ……」

 

その時ハッキリとわかってしまった、これが本来の〈ドラゴンファング〉の実力なのである


つまり私のデビュー戦の為にあえて指示に従っていただけだったのだ


私の指示よりも効率よく相手を倒すことができたのにワザと……

 

次の瞬間、右前足を切断されたヒドラが悲鳴を上げながらもんどりうって倒れた。

 

「今だ、アメリアとどめの魔法を‼」

 

私に向けたハインリヒの声が響く。ここまで来て、まだ私に花を持たせようとしているのである……


惨めだった、こんなお情けの手柄をもらっても屈辱でしかない、私は動けなかった。 


それを見越したかのように槍遣いのボブが苛立ちまぎれの声で叫んだ。

 

「嬢ちゃんはダメだ、俺がとどめを刺す‼」

 

「ちょっと待っ……」

 

ハインリヒが制止する前にボブはヒドラの心臓に槍を突き刺し、トドメを刺していた。


 

完全に動かなくなったヒドラを前に談笑しているメンバー達


その笑い声がまるで私を笑っている様に思えてきて無性に腹が立った。

 

「コイツが火を噴いた時は少し焦ったけど、まあ楽勝だったな」

 

「ちょっとですって?アンタ結構ビビっていたじゃない、言い訳は見苦しいよ、ローランド」

 

「そうだな、俺もそう思ったぜ、結構ビビりだな、ローランド」

 

「ビビりのローランド……確かに……」

 

皆の集中攻撃を浴び、黙っていられなくなったのか目を吊り上げて反論するローランド。

 

「テメーら、黙って聞いていれば好き勝手言いやがって、誰のおかげで皆が安心して戦えて いると思っているんだ⁉」

 

「誰のおかげって……俺だろ?」


「いやいや私じゃん、どう考えても」

 

「……俺……」

 

じゃれ合いの様なやり取りをしているメンバー達を少し離れたところで見ている私


この仲良さげな会話が私の疎外感を増幅させ、居てもたってもいられなくなってしまう


惨めで情けなくて消えてしまいたい気分だった。

 

そんな時、私の肩を軽く叩く手があった。振り向くとハインリヒが優しく微笑みかけてきたのだ。

 

「お疲れさん、そんなに落ち込む必要はないよ誰だって初陣はそんなもんだよ、徐々に慣れていけばいいさ」

 

そんな慰めの言葉が余計に私の惨めさを際立たせる


慰められるとか同情されるのが人に下にみられている様で何より嫌いな私は反射的にハインリヒの手を払いのけ拒絶した


私自身のプライドの高さが許さなかったからだ。

 

「同情なんてして欲しくない、私を馬鹿にして‼︎


私が指示した作戦より貴方達が勝手にやった方がずっと効率よく動けるじゃない、私を笑い者にしたかったわけ⁉」

 

感情任せに口から出てしまった言葉、こんな事言ってはいけないと頭ではわかっている


でも感情が抑えられない自分の未熟さと惨めさを隠したくてハインリヒに当たっているだけだと自分でもわかっていた。

 

「いや、そんなつもりは無いんだ。君は初めての戦いだったし、作戦内容を見てみたかっただけなんだ


メンバー達の動きも知ってもらう為にあえて君の指示に従っていただけで悪気はないよ


ただ誤解を与えてしまった事は謝るよ、ゴメン」

 

私の八つ当たりに近い発言に何故か頭を下げるハインリヒ


いっそ反論してくれるか怒ってくれればまだ良かったのだが


そのどこまでも大人の対応が私を余計に惨めにさせた、そこからはよく覚えていない


私は感情のままに滅茶苦茶な言いがかりでハインリヒに当たり散らしていた、困った表情を浮かべて戸惑うハインリヒ。


そんな時、しばらく黙って聞いていたメリンダが私の前に歩いて来ると


もの凄い形相で睨みながら私の服の胸ぐらを掴んできた。


「黙って聞いていれば好き勝手言いやがって、ウチらのリーダーに向かってこれ以上の暴言は許さないよ


そもそもアンタがビビって固まっちまったのが悪いんだろうが⁉

 

少し想定外の事が起きたぐらいでウロこきやがって、どれだけお勉強が出来たのか知らないけど


自分の失敗を棚に上げて逆切れでヒス起こすとか最悪だ、実戦は遊びじゃないんだよ‼︎」


正論だった、正にぐうの音も出ないとはこの事で一言も反論できなかった


口惜しさと惨めさで唇が震え涙が溢れてくる、人前で涙を流すなんて私が一番軽蔑していた女性像なのに……


「はっ、泣けばいいと思っている女ほどタチが悪くて始末に負えない奴はいないよ


それで男は同情してくれるかもしれないけどね


女の涙っていうのは同性からすると腹が立つだけなんだよ、良く覚えておきな‼」


吐き捨てる様にそう言った後、背中を向けて立ち去るメリンダ


その後ハインリヒが必死でフォローしてくれていたが何も頭に入ってこなかった


私は冒険者として考えうる限り最悪のスタートを切ってしまったのである。


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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