輝かしい未来を目指して
「どいつもこいつも馬鹿ばっかり‼」
私は手にしていた杖を思い切り壁に投げつけた。
感情任せに放り投げた杖は壁にぶつかり、カラーンという乾いた音が無人の部屋に鳴り響くと
私の目からは悔し涙が溢れ出してきた……
私の名はアメリア・テイラー、十九歳になる女子。魔法学校を卒業しもう一年半が経つ
〈こんなはずじゃなかった、こんなはずじゃ……〉心の中でそんな言葉が何度も繰り返された。
私は国立ミランダ魔法学校の第24期卒業生。
この学校は〈深淵の魔女〉と呼ばれた大魔法士ミランダが後生の魔法士育成の為に設立した学校である。
世界では魔族と人間の戦いが百年以上続いており、その魔族との戦いの為
毎年各国に優秀な魔法士を何人も輩出しているのがこの学校なのである
私はそんなミランダ魔法学校の在学中一度も主席の座を譲らず
生徒の中でも特に優秀な者のみに与えられる〈優秀賞〉を三年連続で獲得し
在学中に国際A級魔法士の称号を取得するという、この学校でも過去三人しかいないという偉業を成し遂げた
皆から将来を嘱望されここから私の明るい未来が始まると思っていた、この時点では……
学校を卒業した生徒には二つの選択肢が与えられる。
どこかの国に所属し国家専属魔法士となるか、フリーとなって冒険者となるかの二択である。
当然の事ながら国家専属魔法士になるにはオファーが来なくては成立しない
つまり一部の優秀な生徒のみがその権利を行使でき、成績上位者から順番に好条件の選択が可能となる。
当然私の元にも各国から好条件でのオファーがあった。
大国からは非常に高額の給金とそれなりの地位を提示されたし
中堅国家からは次席幕僚の地位を用意するとも言ってきた。
しかし私はその全てを蹴ってフリーの冒険者になる事を選択した
一見勿体無いと思える選択であるがそれにはちゃんとした理由がある
通常の成績上位者であれば好待遇での国家専属魔法士の道を選ぶのが自然な流れである
それが成績上位者に与えられた特権ともいえるからだ。しかし天才と呼ばれた者は更にその上を目指すのである。
過去在学中に国際A級魔法士の称号を獲得した二人の先輩はフリーの冒険者になる事を選んだ
当時は周囲から随分と反対や疑問の声が上がったそうだが二人はそんな声を無視し
フリーの冒険者を選択し仲間と共に旅をしながら経験を積み、見聞を広め、無数の手柄を上げてきた
その実績を引っ提げて改めて国家専属魔法士となったのである。
〈コンバット・プルーフ〉戦闘証明済みという意味である。
いくら魔法学校の成績優秀者といえど卒業したてで世間知らずの若者では国家の重鎮にはなれない
だからこそ冒険者として手柄を立て、その実績をもって国家の重鎮として迎えられるのである
今やこの二人はそれぞれ大国の首席幕僚と国王付き参謀魔法士として国家の中枢を担っている
私もこの先輩たちの成功例に倣ったのだ。自信はあった、魔法なら誰にも負けない
戦略、戦術理論においても在学中に他の生徒に負けたことは無い、やれる、私なら先輩二人と同様、いやそれ以上に……
そんな期待と夢に胸を膨らませながら私は世の中に出た。
しかし現実はそんなに甘くはなかった。私は大きな事を見逃していたのである
冒険者として活躍するという事はパーティメンバーと共に行動し連携をとって戦わなくてはならない
そこには当然コミュニティーというモノが存在する、わかりやすくいえば〈仲間たちと上手くやる〉という事だ
しかし私にはそれができなかったのである……
冒険者として活動するためには各国にある冒険者ギルドという所に登録しなければならない
私は大陸一番の大国であるストーリア帝国という所で冒険者を始めることにした。
「アナタがアメリアさんですか⁉お噂は聞いておりますよ
何せ史上三人目の在学中に国際A級魔法士を習得した天才
貴方であればどんなパーティであろうが選び放題、引く手あまたのはずですよ‼」
ストーリアの冒険者ギルドを統括する男、ジョセフ・カルロスがニコニコしながら話しかけてきた
冒険者ギルド側としても優秀な魔法士は大歓迎である、何故ならそれ目当てで優秀な冒険者も集まってくるし
当然全体のレベルも上がる。そして冒険者ギルドとして功績も増え
るという相乗効果も見込めるからである
例えその人物が冒険者を引退して将来どこかの国家専属魔法士となったとしても
〈〇〇国冒険者ギルド出身〉という肩書はギルド側としても名誉な話であり
その人物が専属魔法士となった国ともコネができる。つまりいいことだらけなのである。
「それでジョセフ統括長、私に来ている勧誘はどのくらいありますか?」
私の質問に対し、待っていましたとばかりに大量の資料を持ってきたジョセフ。
「これだけの勧誘が来ておりますよ、優秀な魔法士はどこのパーティでも喉から手が出る程欲しい人材ですからね
天才魔法士と呼び声高いアナタには当然とも言えますな」
気持ちが悪い程ニコニコしながら愛想振りまくジョセフ。どことなく信用の置けない人物にも見えるが
チヤホヤされ特別扱いされ持ち上げられる気分は正直悪くなかった。
そう私は選ばれた人間。エリート中のエリートなのだからこのくらいの待遇は当然だと思っていたのだ。
数枚の資料に目を通すと、そのパーティの実績やメンバーレベルが載せられていて
どの資料を見ても目移りするような優秀なパーティばかりでどれを選んだら良いのか決めかねていた。
「う~ん、どれがいいのか良くわからないわ、ジョセフさんから見てお勧めのパーティとかありますか?」
私の問いかけにニヤリと笑うジョセフ。
「どこのパーティも優秀ですが、私のお勧めはこのチームです」
ジョセフは一枚の資料を出してきた、その資料を見て私は思わず目を見張ってしまう。
「何よコレ、凄いじゃないこのパーティ……」
その資料に乗っていたのはチーム〈ドラゴンファング〉
メンバー全員A級ライセンスを取得しており、実績もクエスト達成率も他チームを圧倒していた。
「どうですか?この〈ドラゴンファング〉は⁉︎我がストーリア冒険ギルドNo.1
いや大陸一番のチームであると断言してもいいでしょう。
なにせ国王自ら〔是非我が国の軍に入ってくれ〕と熱烈なラブコールを送られているチームですからね」
「国王自らですか⁉それは凄いですね。でもなぜその誘いを受けないのですか?」
するとジョセフは嬉しそうに答えた。
「〈ドラゴンファング〉のリーダーであるハインリヒは少々変わり者でして
〈国の為の軍ではなく困っている人々の為の剣でありたい〉という理想を持っているのです
かなりの好待遇を提示されたようですがそれを蹴ってしまったようです
正直冒険者をやっているより高給でしょうし危険も少ないはずなのですが……
まあおかげで国に引き抜きをされる事なく我がギルドに所属し続けていてくれるのですから
こちらとしては大歓迎なのですけどね」
「それは……凄い話ですね」
「ええ、そんなリーダーに心酔しているメンバー達も思いは同じようでして
ですから実力だけではなく、彼らは人格的にも保証しますよ」
まるで自分の事の様に自慢げに話すジョセフ。そういう事であれば迷う必要はないだろう
私のデビューを飾るにふさわしいチームだ。
ただチームリーダーであるそのハインリヒという男の考えは正直理解できない
正直言って馬鹿だと思った。いくら凄いとはいえ所詮冒険者は冒険者である
安定したクエスト依頼があるとは限らないし、いくら強いとはいえ少数パーティーでは限界があり
国の持つ組織的な軍事力とは比べ物にならないだろう
確かに国軍に入るということは王の命令は絶対であり、行動に制限もつく
自分の意思や理想とは別の行動を強制されることもあるだろうが
その分だけ安全だし待遇も破格だろう。
私なら国からの好条件での引き抜きが来た時点でさっさと鞍替えする
もちろん今回の〈ドラゴンファング〉に加入するのも単なる腰掛け程度のつもりだ
私のキャリアを積み重ねる為に必要な単なるステップ、そんな事を考えながら私は〈ドラゴンファング〉に入る事になった。
「やあ初めまして、俺がこの〈ドラゴンファング〉のリーダー、ハインリヒ・キルヒマンだよろしく」
リーダーのハインリヒは爽やかな笑顔で握手の為の右手を差し出してきた
私にとっては少し苦手なタイプの人物だが舐められるのは嫌なので恐縮しながらも握手に応じた。
「は、初めまして、私はアメリア・テイラーと申します」
彼は笑顔で大きく頷いた。
「じゃあ他のメンバーもざっと紹介するよ、盾持ちのローランド、見た目は怖いが根はいい奴だ
弓使い兼補助魔法の使い手メリンダ、口は悪いけど彼女の弓の腕と料理は絶品だぜ
暗殺者のカーマイン、無口で何を考えているかわからないだろうが動物好きの優しい男だ
そして槍使いのボブ、槍も速いが女に手を出すのも早い……というのは冗談だが細かな気配りができるいい男だ
そして最後に〈ドラゴンファング〉のリーダー、俺、正義を愛する心優しき男だ、よろしく‼」
明るくメンバー紹介をしてくれたハインリヒ、すると他メンバーが和やかに口を挟んできた。
「何だよリーダー、その紹介は?見た目は怖いが……とか女に手を出すのも早い……とか
随分と余計な慣用句が付いているじゃねーか⁉」
「自分だけは〈正義を愛する心優しき男〉とか言っちゃって、バランスおかしくないか?」
「全くよ、誰の口が悪いって⁉大体男っていうのはおしとやかでつつまし気な女がいいとか
どうしようもない幻想持っている馬鹿共ばっかりじゃない⁉
アンタらが私の女の魅力がわからないボンクラ揃いってだけの話じゃないか
まあ今までは紅一点だったけど女同士、仲良くやりましょう」
「紅一点とか……そういえばメリンダって女だった事、今思い出したぜ
君が入ってくれたおかげで今度から本当に紅一点になるという事だな、よろしく」
「ああ⁉今なんて言ったボブ、アンタたまに私の事いやらしい目で見ているじゃないのよ‼
バレていないとでも思ったのかい⁉」
「な、何言っているんだ、俺はお前の事そんな目で見た事ないぞ
ほらカーマインも黙っていないでなんか言え‼」
「……よろしく……」
「まあこんな感じのドタバタメンバーのチームだけど、今日から君も仲間だ、仲良くやっていこう‼」
微笑みながらハインリヒが話をまとめた、すると後ろからハインリヒの首を絞める仲間達。
「何いい感じで閉めているんだリーダー、いつもおいしいところを持っていきやがって‼」
「そうだそうだ、俺達はお前の引き立て役じゃないぞ‼」
「リーダー……ズルい……」
そんなメンバー同士の一連のやり取りを私は苦笑いでやり過ごす
そんな私に唯一の女性メンバーのメリンダが近づいて来た
ショートヘヤ―の赤い髪に豊満なボディ、妖艶さを感じさせるその目は私を嘗め回すようにジッと見つめてきた。
「何ですか?」
「いや、アンタ、化粧っ気のない地味な感じだけどよく見ると結構イケてるじゃん
背も高いし、スレンダーなボディ、黒髪のロングって好きな男多いしね~
つり目だから一見キツく見えるけど、そのダサい眼鏡を止めたらかなりイケてると思うよ」
何だこの人、初対面なのに随分と失礼……というかズケズケとモノを言う……
「私は見た目とかどうでもいいんです、女だからとかそういうのが嫌なんです」
私はきっぱりと言い切ると一瞬空気が凍り付く。やってしまった……
私の家庭はあまり裕福でなかったし今までも勉強一筋で生きて来たためオシャレとか気にしたことがない
髪は染めたりしないため子供の頃から黒髪ロング、つけているメガネもファッションというより機能性重視なので
ずっと地味な黒メガネである、昔から背が高いが痩せ気味で
そのコンプレックスもあり、猫背気味の上目遣いで見つめる癖があるのであまり女っぽくない
そして自分の能力に自信があったのでナメられたくないという気持ちもあったのである
それが最初の間違いだと気が付いたのは随分と後になってからだった……
私が加入して最初のクエストは森に現れたヒドラの退治であった
難易度Aクラスの危険な仕事だったが自信はあった
私が任されたのは後列での戦闘指揮と支援の攻撃魔法
ヒドラの特性は頭に入っている、大丈夫いけるはず。
こうして私は初めての実戦、いわゆる初陣を迎えたのである。
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