隷属と不穏な影
木田との決闘を終えて戻ったスバルの目に映ったのは――
クラスメイトたちの首元から、黒い靄が立ち昇る光景だった。
それは、《隷属の誓い》というスキルの束縛が解除された瞬間。
このスキルは「決闘勝利時に対象の行動を制限する」という条件下で発動し、
さらに《暴君》という支配系スキルを重ねることで、
木田はクラスの主のように振る舞っていた。
幸いにも、スバルとケイは単独行動が長かったため、
その支配対象から外れていた。
それゆえに、自由な拳を振るえた。
そしてそれこそが、“反撃の始まり”となった。
『よくやった、わが友よ』
『ありがとう、スバル君!』
『ふん!褒めてやらないこともないんだからっ!』
『…ありがと』
クラスメイトたちは、長らく“NPC”のような扱いだった。
ダンジョンに潜っても、ゴールドを稼いでも、装備を整えても――
全て木田とその仲間たちに剥ぎ取られてきた。
「おっおう、そうか、よかったな」
中にはスバルがほとんど話したことのない者も多く、
急に懐かれたことに戸惑っていた。
「……よかったね、つかP。人気者じゃん」
「うるせぇ!にやにやすんな!」
その輪の外で、数人がスバルを睨んでいた。
あの視線は、かつて拳をふるった木田派の残党たちだ。
(あいつら……また仕掛けてくるな。いつでも返り討ちにするが)
スバルは、転移前は暴力に耐えるだけの日々を過ごしていた。
だが、ここは“PVPが許される世界”。
法律という盾が意味を持たない空間なら、
拳を振るう者には、拳で返していい。
(法律を盾に拳をふるう奴に、慈悲は不要。俺が勝手に守ってただけだ)
とはいえ、リアルなら体や精神に限界がある。
のびのび過ごす者には“できない事情”があることも理解していた。
「で?お前らはこの先どうするんだ?」
『あっ、確かにどうするんだ?』
「質問に質問で答えるな。まぁ、行くあてがないなら――
ギルド拠点の裏手に仮設したシェアハウスがある。必要なら使え」
『おおー!さすがスバルだな!仕事が早ぇ!』
結果的に、スバルはクラスメイトたちの生活基盤を一時的に預かることになった。
それは義務ではなかった。ただ、“やるべきだと感じた”だけだった。
───そして、場面は変わる。
???の観察者たちの視点
『ほう……あの連中、だんだん馴染んできたな』
『えぇ。石谷スバルとやら、抗っておりますね』
『それに比べて……木田匠とやらは、順応できずにいるようだ』
『はい。彼は、変化を拒んだのでしょう』
『……面白い。この木田とやらに、“もう一度”チャンスを与えてみようか』
――――――――――――――
空の向こうから、“運営者でない存在”が何かを見ていた。
この物語は、ゲームを超えた何かに触れ始めていた。
???は誰の事でしょうかね
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最新 2025/07/21




