対等な戦い
守春は 木の枝を高く放り投げた――
その瞬間、白い影が 素早く枝を持ち去る。
「……あれ? 消えた?」
『おい、貴様。我の邪魔をするか』
声の主に目を向けると、シルフとは 別のシルバーウルフ が、気まずそうにお座りしていた。
そのウルフは 耳を伏せ、縮こまりながら謝罪する。
『すっ… すいません! つい体が反応してしまいっ!』
シルフは ドスの効いた声 で睨みつける。
『気持ちは分かる。だが、次はないよいな?』
『はっ、はいぃぃ……!』
シルバーウルフは 猛スピードで逃げていった。
シルフは一呼吸置き、守春へ向き直る。
『すまない。あやつも 本能 に従っただけだ。許してやってくれ』
「お、おう。気にしてない」
――今のやり取りを見た守春は、シルフが短気だった ことに驚いていた。
しかも、怒りからの 切り替え速度が異常に速い。
(なんか… 一瞬で冷静になったぞ、こいつ…)
守春は 少し引きつつも もう一度枝を投げた。
「じゃあ、もう一回行くぞ?」
『あぁ、頼む』
今度はしっかりと 地面に落ちる。
削られていた方が シルフ側 に向いていた。
『我からか……では、二回戦を始めよう』
「おう」
シルフが 本気で噛みついていたら、守春の戦闘体は 一撃で砕けていただろう。
だが、それでは 本体が噛みつかれた場所に現れてしまう――
それでは 守春の言った「死なないなら」に背いてしまうため、シルフは 爪による攻撃 を選択した。
――深く切り裂く鋭い一撃。
しかし――
『やはり、この程度では倒れんか』
守春の 気力回復 により、傷は 次々と再生 していく。
シルフは 改めて守春の耐久力の異常さを認識 した。
(こやつ、何度攻撃しても傷が癒えていくな)
「よし、俺のターンだな」
守春は ファイティングポーズを取る。
「いくぞ」
守春は 記憶を頼りに正拳突きを放った――!
次の瞬間にはシルフの戦闘体が 閃光のような光を放つ。
戦闘体が砕けている。
「…えっ?」
『…なぬっ』
守春もシルフも動揺を隠せなかった
守春の攻撃力は 狂戦士の効果 により、 600 に跳ね上がっていた。
それは LV50の戦士クラス の圧倒的な破壊力。
それに加え、ついさっき守春が考えた
”素早さが高いなら防御が低いはず” という予測。
守春は それを否定していた――だが、まったくの正解だった。
加えて、シルフは この地で長年無敵だった ため、そもそも ダメージを受ける機会がほぼ皆無 だった。
その結果、シルフの防御力は 年月とともに低下 し、かつての頑強さを失っていた腹部に
守春の拳が 深くめり込んだことで決着がついたのだ
…少したった後のこと
守春は 戦闘の余韻を感じながら 言う。
「じゃあ、魔法を……あっ、補助系があればそれを頼みたい」
『補助系か? 例えばどんなものだ?』
「えぇっと……能力系とか、移動系とか?」
『我は前者だと 加速 と 硬化、後者だと ポータル と エリア転移 の4つであれば
教えることができる』
守春は考え、答える。
「なら……ポータル がよさそうか」
シルフは静かに頷き、魔導書を取り出す。
『これは ポータルを覚えるための魔導書 だ』
守春は その本を受け取り、ふと疑問に思う。
「……え? 狼って本読むの?」
シルフは わずかに微笑し、答える。
『いや……お主なら 本が良いか と思って作ったものだ』
「今の 一瞬で?」
『そうだが?』
守春は 苦笑しながら本を開く。
しかし――
「……読めねぇ」
シルフは 満足そうに守春を見つめながら 言う。
『礼は要らぬ。もともと そういう賭けだった だろう』
守春は 本を片手にシルフへ向き直る。
「ありがとう、シルフ。…そういえば、お前は 俺の行動を見守る って言ってたよな?」
『先ほどの ポータル で、お主を見て 暇つぶしをしたかっただけ だ』
守春は しばらく考えた後、静かに微笑む。
「それくらいなら引き受けるぞ」
『いいのか? お主が良ければそうしたい が』
守春は 深く息を吸い込み、シルフと視線を合わせると、しっかりと右手を差し出した。
「……シルフ。これからもよろしく頼む」
シルフは 力強く右前足を守春の手に重ねる。
『あぁ、スバル。我もお主と共に歩もう』
守春とシルフの絆は、ここに刻まれた。
そして、守春の腕には 盟友の腕輪 が現れていた。
シルフはそれをじっと見つめながら、静かに口を開く。
『盟友の腕輪……これは、我とお主が 正式な盟約 を結んだ証だ』
守春は腕輪を触りながら、じっと考えた。
「……盟約、か」
シルフは ふと懐かしむような目 をして言った。
『この腕輪は、互いに 誓いを交わし、友人と認識した者同士 の間に現れるものだ』
守春は眉をひそめる。
「そういうのが、異世界には普通にあるのか?」
シルフはゆっくりと首を振る。
『いや、これは 極めて珍しい現象 だ。我の記憶では、
過去に盟友の腕輪を持った者は ごくわずか しかいない』
守春は腕輪を見つめながら、少し考え込む。
「……なんか、すげぇな。これ」
シルフは満足げに微笑む。
『つまり、我らは 異世界においても特別な絆を持つ存在 ということだ』
守春は 無言のまま腕輪をじっと眺める。
――異世界で、誰ひとり知り合いがいなかった。
――孤独に 毒キノコとカエルの毒を飲んで生き延びていた。
だが、今――
守春には、この世界での「友」ができた。
守春は 深く息を吸い込み、
シルフと視線を合わせると、しっかりと右手を差し出した。
「……シルフ。これからもよろしく頼む」
シルフは 力強く右前足を守春の手に重ねる。
『あぁ、スバル。我もお主と共に歩もう』
二人の腕輪は、まるで反応するように 淡い光を放つ。
守春とシルフの絆は、ここに刻まれたのだった――
稿頻度はバラバラで、作品に関することであればコメントにて
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最新 2025/05/23