スカウトのための準備
スライムの巣窟にたどり着いたスバルは、何度か拳を握り直していた。
衝撃耐性を持つスライムたちは、彼の高火力に
一応は耐えてくれる相手だった。ほどよくHPを削れて、
ようやくスキル【テイム】の適用条件を満たしていく。
ポン、ポン、と順調にスカウト成功の光があがる。
スライム、跳ねスライム、毒スライム……
種類ごとに“スバルダンジョン”へ送り出されていく姿に、思わず呟いた。
「スライムに感謝する日が来るとはな……」
これでようやく第一階層のモンスターが揃った。
次はボス――スライムロード。その存在に挑むときが来た。
かつてブルーローズと共に踏み込んだあの扉の前。
今度は彼一人きりだった。
「邪魔するぜぇ~」
口調はなぜか居酒屋テンションだった。
扉が開いた瞬間、スライムロードが姿を現す。あの頃と何も変わっていない。
「久しぶりだな……元気だったか?」
問いかけても返事があるはずもなく、水属性魔法とプレス攻撃が叩き込まれる。
「ま、会話できないよな」
装備《ソロモ=チェスト》に備わる“魔物語理解”スキルは
今のところ発動する気配すらない。
「スラッシュ!」
一閃でHPが約六割まで削れた。
(前は確か三割だった。……成長したな)
スバルはスキル使用を極力控え、拳と間合いでじわじわHPを削り続けた。
そして、あと一撃で沈む――その直前で、
「テイム!」
発動と同時に、スライムロードの身体が弾ける光に包まれ、
ダンジョンへ送られていった。倒すでもなく、逃げるでもなく。
彼は腰を崩すように座り込んだ。
「はぁ~~……疲れた。手加減スキルでも掲示板で探すか」
軽く検索はしてみたが、プレイヤーが“攻撃力を抑える”ための
方法を真面目に議論しているはずもなかった。
(まぁ、誰が自分のステータス下げるかって話だしな)
意気消沈しつつも、二層に戻るのは面倒だったので、一層の町をプラプラすることにした。
『……アンちゃん、ちょっと来な』
「ん? 俺か?」
『そうだぜ、アンちゃん』
声をかけてきたのは、ごろつき風の妙にダミ声な男だった。
案内されるままについていくと、小さな店に辿り着いた。
『らっしゃい、アンちゃん』
そこには、呪われてそうな武具や怪しげなアイテムが所狭しと並んでいた。
「ここは……?」
『俺の店だ。なんか困ってそうだったからな』
(案外親切だな……見た目はクセあるけど)
『で、アンちゃんはどんなモンを探してるんだ?』
「攻撃力を抑えるような……何か、ないか?」
『抑える? 上げるじゃなくてか?』
「ちょっと事情があってな。攻撃力を下げたいんだ」
その言葉に、オヤジ風の男はぽかんと口を開けた。
そんなこと言う奴、見たことなかったのだろう。
『とやかくは言わねぇが……呪われてるモンだぜ?』
そう言って棚から持ってきたのは、手錠に輪をつけたような奇妙なアクセサリー。
『俺が防具作ってた時の、深夜テンション産の逸品だ』
「見ていいか?」
『もちろんだぜ』
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【サクリファイスパワー】
- 防御力:+100
- 攻撃力:50%減少
- 呪い効果:ダメージ-100
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「これ、攻撃させたくないアクセじゃん」
『耳が痛ぇな……やっぱ夜は寝るもんだな』
「いくらだ?」
『え、ほんとにそれでいいのか? ごみ武器だぜ。金なんて取れねえよ』
何度かやり取りを繰り返し、最終的には300ゴールドでの取引に落ち着いた。
材料費は500ゴールド超だったようだが、スバルは自分の信念で押し切った。
「それと、学生の俺から忠告。徹夜は、いい仕事とぴちぴちお肌の敵だぜ」
『受験生に言われたら仕方ねぇな。気を付けるぜ』
こうして、スバルは「べギル」という名の武器屋とフレンド登録を交わし、
念願の“火力抑制アイテム”を手に入れることができた。
スバルのダンジョン構築は、またひとつ進展を見せる。
正攻法では手に入らない、裏ルート的な解決法――それこそが、彼の進み方だった。
やっぱり準備するのは大切だなぁ
いつものやつお願いします
最新 2025/07/14




