二層でのいざこざ
攻撃の通じない幽霊魚との死闘を終え、
ようやく二層への扉が開かれた。だがスバルにとって、
新たなステージの最初の試練は、予想外の方向からやってきた。
「うちのパーティに入ってください!」
「抜け駆けすんなよ! こっちのが先に声かけたんだ!」
「は? なに言ってんの、この人はウチが誘う予定だったんだけど!」
三方向から同時に浴びせかけられる勧誘。周囲の視線も混ざって、
騒がしさはもはや市場レベルだ。スバルは小さくため息をついた。
「……悪いが、今のところはソロで行くつもりだ。
申し出はありがたいが、断らせてもらう」
すでに十分すぎるほどの断り文句を繰り返していたが、
彼らには通じていなかった。
決闘で勝負を決めようとしてきた者もいたが――当然、拳であしらった。
とはいえ、それでもなお人の波は途絶えない。
「……メテオストライク」
スキルを唱えたが、町中であるために発動はキャンセルされた。
今さらながら、町内では攻撃系スキルが制限される仕様を思い出す。
(……クソ、こいつら他人の都合も知らないで)
一応物理攻撃は可能らしいが、
手を出せばレベルが一時的に下がるという重いペナルティが待っている。
無暗に手を出すのは得策ではない。
(……待てよ、バーサークは攻撃スキルじゃなかったな。
なら、発動できるはず)
「――狂戦士」
発動と同時に身体が熱を帯び、視界の縁が赤く染まる。
能力上昇とともに、周囲の雰囲気も一変した。
集まっていたプレイヤーたちが一歩、また一歩と後退していく。
「……あ、あんたって、プレイヤー……だよな?」
「あ゛?」
「いえ、なんでもありませんっ」
「さっさと消えろ、ごみ共」
にじみ出る殺気。言葉の端に込めた感情は、
もはや理性のそれではなかった。群がっていた者たちは
蜘蛛の子を散らすように去っていき、ようやく静寂が戻ってくる。
スキルを解除してふぅと息を吐いた彼は、ふと首を傾げた。
(……あれ、俺って、あんな口調だったっけ?)
思い当たる。バーサークの効果のひとつに、
理性を狂わせるというものがあった。
確認のため、ステータス画面を開く。
【狂戦士】
- 攻撃力が最大5倍に上昇/防御力が半減/30秒ごとにHP10%減少
- 命中時に対象をひるませ、確率で“恐怖”を付与
- 理性が狂暴化する
- 味方からの回復効果を無効化
(1、2、3までは知ってたが……4は初めて見たな)
とはいえ、彼は現在ソロ。味方からの回復効果を受けることもないし、
自身の持続回復は問題なく機能する。実質的な影響はない。
(……だが、いずれパーティを組むこともあるかもしれない。
こういう副作用持ちは、しっかり調べてから使うべきだな)
ようやくたどり着いた二層だったが、当面はダンジョンどころではなさそうだった。
プレイヤーの多さと、執拗な勧誘の嵐。
まさに“人の壁”というステージが、彼の前に立ちはだかっていた。
こういうのって面倒ですよね
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最新 2025/06/30




