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(3).衝撃の告白


 ビュンビュンとがむしゃらに振り回わされる短剣の軌道を見切り、すかさず殿下のモチモチお肌をひっぱけば、「ひゃん!?」よ思いのほか可愛らしい悲鳴と共に、殿下の身体が簡単に崩れ落ちた。


 とりあえず危ないので短剣は没収するとして、気遣うように殿下の下に駆け寄ればその大きな瞳に大粒の涙が溢れ出した。


 うん、正直、弱い者いじめしているようで罪悪感がすごいです、ハイ。


「殺す。お主を殺して余も死んでやるうううウうう!!」


「いや、殿下。いくら何でも確かにノックせず入ってきた私にも非はありますが今回ばかりは鍵を掛けなかった殿下にも非があるのではないでしょうか」


「うっさいわばーか。そもそも貴様がこんな夜更けに無断で余の寝室に入ってこなければ、こんなことにならなかったであろうが!! なにが王国最強の騎士じゃ。人の寝こみを覗き込むケダモノではないか!!」


「あーもうそれじゃ、私の所為でいいですからとりあえず泣き止んでください。次期国王がみっともない」


「みっともないとはなんじゃ!?」


 そうして懐から手ぬぐいを引っ張り出せば、殿下の顔に優しく当ててチーンさせる。

 ぐじゅぐじゅになった顔もこれで少しは見れたものになったが、


「というかその反応、女装趣味で去勢したとかそういうことじゃなく本当に女の子だったんですね」


 そっと大きなため息をついてやれば殿下の肩が激しく上下する。


 嫌な沈黙が室内を支配し、問い詰めるように殿下の方を見れば、あからさまに視線を逸らされてしまった。

 まぁ言いたくないのはわかるが、見てしまったものは仕方がない。


 殿下にも並々ならない事情があるのもわかるし、相手は王族。

 武芸一つで成り上がってきた貴族の娘にはわからない事もきっと多いだろう。

 でも――


「いい加減この私にもわかるように説明してください殿下。いくら幼少のころからの付き合いとはいえここまで見てしまったからには限度がありますよ」


「ううっ、お主には、婚約者のお主にだけは知られたくなかったのに……」


「私は貴女に忠誠を誓った身。どんなことでも受け入れる覚悟があります。ですからどうか真実をお話しください」


 そう言って恭しく膝をつけば、むむっと唇を横に引き絞る殿下。

 その口から諦めのため息が漏れ聞こえたかと思うと、観念したかのようにポツリポツリと真実が語られた。


◇◇◇


「お主も知っての通り、我が国は王族が竜の血を受け継ぐことによって繁栄しておる。

 竜の血が途絶えぬ限り我が国は永遠の繁栄を約束されている訳だが……実は先々代。祖父のロイ・ローゼンクライツの代から子が生まれにくくなっているいう話を聞いたことはあるか?」


「い、いえ。私たち騎士団はどんなことがあっても王家ローゼンクライツの御子をお守りするために存在するとおじい様から聞かされてきましたが、まさか――ッ!?」


「そうじゃ、呪いじゃよ。マルリク帝国の奴らは我がローゼンクライツに(おのこ)が生まれぬよう呪いをかけておったのだ」


 竜の血脈は代々子に引き継がれる。だが、それはあくまで世継ぎが男であることが条件だ。


 キリシュ殿下にも竜の血は引き継がれているだろうが、その特異なチカラは歴代の王に比べてずっと弱い。


 竜の血脈が薄まることは国の衰えを意味する。


 今までは国土の豊かさと竜の加護によって他国の侵略を撥ね退けてきたが、世継ぎができないのであれば話は変わってくる。

 マルリク帝国はそのことを見越して、百年にも及ぶ無謀な戦争を仕掛けてきたのだろう。


 全ては竜の加護によって守られたこの土地を奪い去り、自分たちが竜と契約を結ぶために。


「念願叶った御子が女子(おなご)と知って父上もだいぶ気が滅入ったであろうな。

 望まれた御子が女子と知れば民だけでなく兵士の士気にも関わってくる。余が生まれた頃から帝国は我が国と戦争をしていたからのう。我が国に弱体化の兆しありと知れば、奴らは間違いなく攻め込んでくるであろう。

 だから父上は次の御子が生まれるまで余の性別を偽ったのじゃ」


 だが陛下の容体が急変。

 そのまま新しい世継ぎを作ることなく眠るのように息を引き取られた。


「結局、父上の正統後継者は生まれず、余は男として育てられ、いずれ生まれてくるであろう男児のための繋ぎとして生きていくことなった。仮初の王とはいえ余は女じゃ。子は生せる。

 あとは余の身体が成長すれば終わりじゃったのじゃ。じゃが――」


「じゃが?」

「生理がの、その――来ないんじゃ」

「え? ……ええッ!?」


 たまらず椅子から立ち上がれば、若干俯いた殿下の口から消え入りそうなほどか細い声が聞こえてきた。

 顔を真っ赤にして語られる衝撃的な告白に思わず、顔にモーニングスターを喰らったような心地にさせられる。

 え、なに? それはつまり――


「まだ陛下は処女と言うことですか!?」


「処女言うな愚か者!! いま気にすることはそこか!? もっちっと余の悩みに気を使え!!」


 いや、だって――ねぇ?

 殿下の婚約者としては気になるじゃないですか。


「まったく……まぁ話を戻すが、この状況は十中八九、マルリク帝国の呪いの所為じゃろうな」


「というと?」


「奴らは他国を呪って栄えてきた国じゃ。

 ちなみにこれは腹心の宰相であるバルセルクにも言っておらん」


「それは、なんというか不味いのではないですか?」


「うむ、不味い。余が生きている間はまだ持ちこたえられるだろうが、余が死んだあと。この国がどうなるのかは余自身にもわからぬ」


 殿下との初の顔合わせの頃「実はお主との婚約も本来ならば父上がするはずだったのじゃ」と聞かされてかなり驚いたことがあるが、これはそれ以上の衝撃だ。


 殿下が抱えていることを全部話してくれと言ったが、なんだこの重さは

 と言うかそれで私が陛下の妾として婚約される予定だったのですか。

 てっきり、殿下の護衛役とし採用されるための冗談とばかりに思ってましたけど……


「それもあるがお主は剣聖である前に聖女としての性質も持ち合わせている。父上はお主と交われば、マルリクの奴ら呪いも平気なのではと考えたのだろうな」


「というとやはりこの呪いは王族のみに掛けられた呪いなのですね」


「そのようじゃの。まぁお主に竿でも生えておればまた違った結果になったのだろうが。どのみち余の卵が死んでおっては意味がないか」


「いや、タマゴとか生々しい表現辞めてください殿下!!」


 ほら、種だけ蒔けばあとは勝手に育つじゃろ、と言ってみせるあたりかなり吹っ切れてますね。

 まぁなぜ性別を偽ってまで生活しなければならないのかは分かったが、

 

「だったらなんで女装など。国に殉ずる覚悟をするのでしたら女物の服を着るなど未練にしかならないのでは……?」


「それは、その――国に全てを捧げたとはいえ余の身体と心は女じゃ。たまには人目に憚らずオシャレを楽しんでもおかしくはなかろう」


 そう言って、その可愛らしい頬が羞恥とは別の意味で真っ赤に染まりはじめる。

 なるほど、そういうことですか。

 でしたら何も私にだけでも打ち明けてくださったらよかったのに。


「それはならぬ。どこに患者が紛れ込んでいるかも知れぬし、王家の威厳が乱れれば国が乱れる。余はこの国の最後の王族として無様を晒すことはできぬのだ。それはお主が一番よくわかっておろう」


「……でしたら私との婚約はどうするつもりだったのですか。私はこんな(なり)でも殿下と同じ女です。肝心のお世継ぎが作れないのでしたら、婚約の意味も……」


「ああ、その辺はぬかりない。世継ぎの件は南方に位置する女部族の村に伝わる秘薬を使うことになっておる。寿命をだいぶ削ることになるだろうが、まぁ背に腹若得られぬ。これも王族の勤めよ」


「――っ!! まさか、竜と交信するですか!?」


 ある種の覚悟の灯った眼差しに、思わず食い入るように殿下の肩を掴み上げる。


 南方に位置する女部族の秘薬――アマゾネス。

 聞いたことがある。

 たしか年に一度だけ、精神体である霊魂と交信するため用いられる秘薬だとか。


 まさか殿下はその秘薬を使ってもう一度、竜と再契約をし直そうというのか。


 竜種と交信した者は一度だけ願いを叶えることができる。

 だけど願いによって消費される代償は、莫大なまでの魔力と生命エネルギーとされており、

 元々、魔力の少ない殿下にとっては竜と交信しただけで命が尽きてしまう可能性がある。


「陛下がそこまでなさることはございません。騎士派閥に働きかければ国民の情操などいくらでも――」 


「相変わらず余には甘いのぉお主は。じゃがこれは余なりの意地じゃ。男として育てられて十八年、余は男として文字通り全てを捧げてきたのだ。今更、性別がどうので自分の生き方を曲げるつもりはないのじゃ」


「で、殿下……」


 あのお子様で我が儘な殿下がまさかここまで成長していようとは。

 昔はエルザ、エルザと可愛らしく私の周りをついて回っていたのに。

 いつの間にか立派な王様になってしまわれて……

 

「うう、このエルザ・エインヘル。感嘆の涙で前が見えませぬ!!」


「よ、よさぬか大袈裟な奴じゃの。余とお主は三つしか違わぬくせ……」


「それでも私にとっては貴女は可愛い弟分、いえ妹分です。まさかあの殿下にそこまで深い考えがあったとは露とも知れず、立派になられまして」


「そ、そうかの? 余は立派に父上のあとを継げておるか?」


 はい。それはもう立派に!!


「そうか、お主がそこまで言うのであれば……そうなのであろうな」


 そう言って私の言葉に照れくさそうに、微笑ましげに頬を掻いてみせるキリシュ・ローゼンクライツ殿下。

 ああもう、なんて愛らしいのだ。

 こんな状況でなければいますぐ抱きしめてよしよしして差し上げたい!! 


「ではな、その――こんな婚約者のお主にこんなことを言うのもあれじゃが……その、な。エルザ。お主に一つだけ我が儘を聞いてもらいたいのだが、よいか?」


「もちろん一つと言わずいくらでもご命じください!!」


 貴女さまのためならこの命いくらでも使い潰していただいて構いません!!


「そうか。ではその――今すぐ余と契ってはくれぬか」


「…………………へ?」



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