#095 ご褒美のお泊り
始業式後は教室に戻り、皆で輪になって座って自己紹介。
自分の名前と年中さんでの目標(春休みの宿題)を発表をした。
ひと悶着あったが頼りになる先生方のご活躍もあり、これで新学級初日の日程は終了だ。
半日だけではあったけど、久しぶりの幼稚園かつ新しい環境だったせいか結構疲労感がある。
これは早めに癒しが――
「――まーくん!」
願ったら来た。
靴を履き替え玄関から出て、自分が乗るバスに向かおうとすると、僕を呼ぶ声とともに背中に衝撃が走る。
「――ぉっと……、すーちゃん危ないよ……」
飛びつきぶら下がるスズカによろけそうになりながらも、根性だけで姿勢を維持する。ミツヒサさんと一緒に体幹トレーニングを始めるべきだろうか。いやでも身長が……
「……ん!」
反省したのかどうかわからない返事をしたスズカは、僕の隣へと並んで左腕をがっちりと抱え込む。
「お疲れ様。新しいクラスはどうだった?」
「……まーくんがいない」
「……そうだね」
間違ってはいない。スズカにとっては重要事項なのだろう。
だが聞きたいのはそういうことじゃない。
ひとまず友人たちに「またね」と手を振り、幼稚園バスに乗り込む。
スズカの圧が朝よりも強いのはお察し。
「今日は誰と一緒に遊んだの?」
「……えっとね。しーちゃん、こっこ、はーちゃん、ななちゃん、ゆみちゃん、みちるくん、たくまくん…………」
指を折りながら名前を上げていく。
ただやはりというか、元ばら組だったメンバーしか登場しない。
「新しいお友達はできた?」
「……ううん、できなかった」
まぁ流石に初日から早々にできるものでもない。
急いで作るものでも作れるものでもないしね。
それに仲の良い子がたくさんいると、積極的に新しい子と接することもないのかもしれない。
元クラスメイトが少ない僕でさえ、ちゃんと関わったのはユウマたちだけだからね。いやむしろ少ないから固まるのだろうか。団結して身を守る的な?
「そっか。僕もできなかったよ」
「まーくんも?」
「うん、一緒だね。あし……明後日からお互い頑張ろっか」
「うん」
明日は入園式。在園児に役割はないため一日空く。
スケジュール上は今日から年中ではあるが、実際のところは明後日が本格的なスタート。明日はまた戸塚家だ。
「ひつじ組は楽しかった?」
「……うん」
「そりゃよかった」
ちょっと引っかかる肯定ではあるけど、年中初っ端は乗り切れたかな。
今後は……仲の良いシホちゃんたちや色々と僕らの事情に詳しいリコ先生もいるから、うまくやってくれることを願うしかない。
「でもまーくんいたらもっとたのしいとおもう」
「……ほらまぁ、幼稚園終わったらいっぱい遊べるから」
「~♪」
つまり今からいっぱい遊べる、と理解したスズカはご機嫌になる。
うまくはぐらかしながら、徐々に慣れていってもらうしかないので。
◇◇◇
幼稚園から帰ってくると、まずは戸塚家に混ざってお昼を取って昼寝をする。
日課の洗濯物たたみやお風呂掃除をして、おやつにはミオさんお手製の焼きプリンをいただいた。
自転車に乗って公園までお散歩に出かけたり、絵本を読んだり塗り絵をしたり、一緒に居られなかった時間を取り戻すように遊んでいると、あっという間に日が傾いていく。
そして夜。
日が落ちる前に母上が帰ってくると、始まるのはお泊り会。
パジャマやらなんやらと大事そうに荷物を抱えてやってきたスズカを招き入れる。
晩御飯はすでに戸塚家にてご馳走になったので、やらねばならぬはお楽しみタイム。
スズカと母上と一緒にお風呂に入り、みんなで仲良く洗いっこ。
そして湯船に浸かって、幼稚園での出来事を日本語で報告する。
それらが終われば、あとは寝るだけ……の前に。
「まーくんこれみる」
「……なにそれ?」
「しゃしんしゅう!」
忘れてた。
そういえばそんな話もしたね。
しかし初めて見た。
結構戸塚家にお邪魔しているはずなんだけど、どこにしまってあったのだろうか……
ちなみに表紙には――
”まーくん 3さいのきろく”
と書かれている。
そして右下端っこにはご丁寧に――
”撮影:戸塚美緒/八代朱里”
”編集:戸塚鈴華”
……どうやら母上も携わっていたようで。
「すーちゃん、こういうの何冊あるの……?」
「……これだけ」
手をパーに。多いな。
そこそこ分厚いハードカバーのやつがあと四冊も……
「でもね、あたらしいのはまだへんしゅうちゅうってママいってた」
まだ僕の四歳は始まって四か月弱だから、つまりそういうことなのだろう。
ゼロ歳の頃からあるとすればだが……
「きょうはさんさいのひ」
「……毎日見てるの?」
「うん! まーくんがいっしょじゃないひはみてからねる!」
なんというかよくもまぁ飽きないというか……
「すーちゃん、私も一緒に見たいなぁ」
「いいよ!! あかりさんここどうぞ!」
「ありがと、お邪魔します」
母上も食いついてきた。
手をぱんぱんとたたき、隣に座るように母上に促すスズカ。
「まーくんはこっち」
「えぇ……」
そして有無を言わさず僕も自分の写真集を見せられることになる。
だが十数分後。
写真集を開きながら船を漕ぐスズカ。
お昼寝はしたものの、早くも睡魔がやってきたようだ。
決して僕の写真が眠気を誘っているわけではない。そんな目ばかりだけども関係ない。
日中たくさん遊んだからだ。
「すーちゃん、そろそろお布団入らない?」
「…………みる」
僕の声に反応して写真集のページをめくるも、再び舟をこぎ始める。
それを何度か繰り返し、いよいよ限界になったところで母上が苦笑いしながらスズカを説得する。
「すーちゃん、明日は幼稚園お休みだからさ。今日はもう寝て明日のお楽しみにしよっか?」
そうしてようやく写真集を見るのを諦めるスズカ。だがしかし。
「…………みのむし…………やる」
そういえばそれも言っていたね。
もう目も開けるだけの力も残っていないのに……
ほんとスズカは欲張りな子になってしまって……
誰のせい? 僕のせいか? いやそんなはずは。きっと血筋なんだよ。
スズカの願い事を聞いた母上の手によって、二人まとめて掛け布団で簀巻きにされる。
「すーちゃん、おやすみなさい」
「…………お………………さい」
スズカは満足げな表情で夢の世界に旅立った。
そして僕もスズカの体温にあてられて、うとうととし始める。
「まーくんもおやすみ」
「……おやすみなさい」
もちろんおでこにキスもお忘れなく。
こうして色々あった一日は終わ――
(あっ……寝る前のトイレ行ってない。僕も……、すーちゃんも……!!)
読んでいただきありがとうございます。
ようやく年中初日は終わりです。
書き方に迷走した結果だいぶ長引いてしまいました…
初心に戻って雑でもテンポよくを目指そう…
どうせうまく文章書けないんだから…ノリでごまかすしか




