#008 とある休日
待ちに待った休日!
学校に行くわけでもなく働いてもない二歳児が何を待つか、だって?
そんなもの決まっている。
母上がお休みなのだ!
一日中一緒にいられる日だぞ?
わーいわーい。
え? マザコン?
……マザコンじゃない二歳児はたぶん生きていけないぞ?
それにこんなに頑張っている美人母を嫌うとかあり得ない。それこそ死んでも、だ。
そういうわけで、本日はお休みの母上と一緒に遊ぶ日だ。
母も同じように楽しみにしているようなので、張り切っていきましょう! 疲れた目のままなのはしょうがない。そういう仕様だ。
そういうわけで今僕らは公園にいる。
家から徒歩5分。人工小川と池のある公園。遊具は少なめだが、ちょっとした広場がある。
周回1kmほどの池の周りは木が植えられており、散歩している人たちもちらほらいる。
そして僕は現在、公園のベンチに座る母の膝の上に座っている。
何してるかって?
座ってるだけだよ?
そもそも中身30のオッサンが、公園ではしゃぐと思うか?
アスレチックみたいな遊具ならまだ興味はあるけど、二歳児が遊具とか危険だからまだできない。
かといって、そこら辺の草とか花とか蟻の行列眺めてるのもちょっと……。
というわけで、母との触れ合う時間を大切にしている。
別に公園でのはしゃぎ方がわからないわけじゃないよ?
小川で遊んでいる子供(年上)たちを眺めているほうが心休まるんです。年寄り臭いがしょうがない。
母も自分からガンガンと話をするタイプでもないようなので、僕の頭を撫でながらゆっくりと流れる時間を楽しんでいる。
「まーくんは、走り回ったり砂場で遊ばなくていいの?」
「うん、だいじょーぶ。おかーさんといっしょにいるだけでいい」
「そ、そう……?」
そう言われて、母は嬉しそうに微笑むが、子どもの教育としてどうなのかと少し戸惑っている様子。
すまない母上。運動は適度にするから。
というか、この後遊ぶことになるから。
ほら、もう来たよ。
名残惜しいが、母と二人っきりの時間は一旦ここまで。
「こんにちは、まーくん、アカリ」
そうしてやってきたのは戸塚母娘のスズカとミオさん。
「まぁーくん、……むふぅ」
あぁ、今日のスズカも可愛らしい。
淡い水色のTシャツにサイドに二本の線が入ったジャージっぽい七分丈の黒ボトム。Tシャツの裾にはヒラヒラしたやつ。
遊ぶためにか、髪の毛はヘアバンドみたいなので上げて留めてある。
おしゃれ度高ぇ。
平日スーツ休日部屋着、普段着なにそれ?だった前世の僕とは住む世界が違う……。
その立役者であるミオさん。今日も美人ですね! あ、もちろん母上もですよ?
ミオさんは白のダボっとしたTシャツにカーディガン、ロングスカートと上品だけれども動きやすそうな服装。センスの塊。
ちなみにうちの母はファッションに疎い。僕も当然疎い。
だけども、今着ている服はそれほどダサくはない。
なぜなら僕らの服はミオさん監修の元で選ばれている。
母はロングTシャツにワイドパンツ。どこかキャリアウーマンの面影を残した服装。
他にもいろいろあるけど、性格に引っ張られるのか、落ち着いたパンツルックを選ぶことが多い。
僕もいろいろあるけど……。
え、いらない?
男のファッション解説とか興味ない?
つれないなぁ……。
でもこれだけは言っておかねばならない。
ペアルックなのだよ。
スズカ様とのペアルック。
ヒラヒラはさすがについてないけど。
服を買いに行くときは、八代家は必ず戸塚母娘と一緒に行く。
というか必ず付いてくる。ミオさんが。
曰く「アカリに服選ぶの任せたら、地味な服を何着も同じのを買ってくる」って。
ちなみにミオさんが服を選ぶとき、僕と母上はぼーっとしてるだけ。
僕はいいとして、母上はもうちょっと興味持った方がいいような気がするけど、どうも学生時代からそういった節があった模様。
だから八代家の洋服はすべてミオさんが掌握している。もちろんインナーも。
今日僕が着てる服もミオさんセレクション。
それに合わせてきたんだよね。ちょっと恥ずかしいけど嫌いじゃない。
「まーくん、どう? 今日のすーちゃん。ちょっと気合いれたんだよ~」
ミオさんがスズカを僕の前に下ろして、ニヤニヤした顔で僕に聞いてくる。
分かってます。子どもでも女性ですもんね。分かってます。
「すーちゃん、かわいい」
「……みゅふぅ」
照れてるスズカ超可愛い。ちょっと鳴き方違う?
「すーちゃん、かわいい!」
「みゅふぅ、みゅふぅ、みゅふぅ」
「すーちゃん、とってもかわいい」
「みゅふぅ、みゅふぅ、ふっ、みゅふぅ、みゅふぅ、ふっ、みゅふぅ、みひぅ」
「すーちゃ――」
「まーくん、すーちゃんで遊ばないの」
「……はーい」
ミオさんに怒られてしまった。
照れるスズカが可愛いのが悪いよね。
というわけで、今から戸塚母娘が合流して公園で遊ぶ。
母はミオさんと僕らを見守りながらおしゃべり。
基本的にはミオさんがしゃべって母が聞く。いや、母も仕事の愚痴とかいろいろ言ってたわ。
あと僕らの写真撮ったり。盗撮バレてるからね?
それより僕らが何して遊ぶかって?
僕はスズカの傍にいるだけだよ? ボディーガードだよ。変な虫が寄り付かないようにね。
スズカはぽけーっとして見てて危なっかしいから。
まぁ母とミオさんいるから僕の意味はあんまりないけど。
「まぁーくん、こっち」
「あいさー」
だから僕はスズカの行動に付き添うだけ。
ぽけーっと花眺めたり、ぽけーっと蟻の行列眺めたり、ぽけーっと小川の水面を眺めたりするのを傍で眺めてるだけ。
だって僕の服の裾を掴んで離さないんだもん。
きゅっと。小さな手で。
おっと鼻血出そうだ……。
まぁ傍から見れば連れまわされてるだけなんだけどね。
そして服伸びるんだけどね。
それが楽しいのかって?
うん、楽しい。
ぽけーっと眺めた後、僕に振り向いてにへらぁと笑うんだよ。
……。
はい、もうね、それだけでお腹いっぱい。
誰にもこのポジションは譲れないよね。
そんな感じで僕らの休日は過ぎていく。
読んでいただきありがとうございます。
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