#065 ヘルプ
「あっ! ……あっ! あぅっ!」
「……まーくんよける」
「……まことあぶないっ!」
三方向から声が飛んでくる。
しほちゃん、スズカ、ユウマだ。
彼女らは手に汗握り、ハラハラドキドキといった様子で見守っている。
「……大丈夫だって」
安心させるように、と言うよりは独り言に近い。
今の彼女たちには言葉ではなく、行動で示さねば意味がない。
僕は冷静に相手の出方を見る。
飛んできた攻撃をギリギリのところで、しかし確実に吸い込む。
三人がほっとするような表情に変わる中、僕はすかさず攻撃に転じる。
吸い込んだものを吐き出してダメージを与える。
……が、相手の体力ゲージはほんのちょっと減っただけ。
あと20回以上同じことを続ける必要がありそうだった。道のりは長い。
「まことくん! こっちきたッ!?」
「あっちいって!!」
「きゃぁ~~~ッ!」
そして今度はスズカたちとは別の方向から悲鳴が。
念のために言っておくが、汚物のような扱いをされているのは僕ではない。
僕は味方なんだから……
「えぃッ!」
「あっ、まって!!」
「あぅぅ……」
相手の攻撃が三人へと迫る。
どうにかしてあげたいのは山々だが、どうにもできないことが世の中にはたくさんあるのだ。健闘を祈る。
ユウマからのヘルプを受けて途中参加したのは、最近吉倉家で流行っているとあるゲーム。ピンクのボールのキャラクターたちを動かして遊ぶ、横スクロールアクションゲームだ。
Mの帽子の元配管工のオジサンのものに似ているが、救いの要素が多く盛り込まれていて小さな子どもたちにも易しい仕様となっている。
四人で協力して一緒にプレイできるのも特徴だ。
しかし、易しいと言ってもゲームはゲーム。
簡単にクリアされてはたまるかと、厄介なお相手が待ち構えている。
そいつを倒すために、今日僕は招集されたようだ。
クリスマスはおまけかもしれん。
まぁクリスマスなんて、騒ぎ遊ぶための口実だよね。信者さんたち以外にとっては。
お母さんグループはお高めのお茶と茶菓子でつかの間の休息を。
お父さんグループはそこから少し離れた和室で、炬燵を囲んでジャラジャラと牌を……
そして子どもグループは55インチの大きなテレビでゲームに熱中。
子どもの頃に難しかったゲームも、大人になって改めてやってみると案外簡単に思えたりするよね。
今やっているゲームも、みんなにとっては難しくても、僕にとってはそれほどだ。前世の経験が生きているのかもしれない。
お父さんお母さんの手は借りたくないという子どもたちの些細な意地の中、僕はゲーム上手な男の子として頼りにされ、三人の女の子との協力プレイで大活躍中だ。
1Pを操るのはグレーの襟付きワンピースで上品な雰囲気のミユお姉さん。
姉弟揃って整った顔立ちで、今日もポニーテール姿。フリフリと揺れるのを見るとどうしても視線が。母上もよくしてるよね。今日は下ろしてるけど。
体調を崩しがちなユウマのことも子どもながらに気にかけていて、面倒見が良くて優しい。姉グループの中心的存在。
2Pを操るのは坂柳さん家の葵お姉さん。
デニムのオーバーオールの裾を捲くってオシャレに着こなす、ショートカットでクールな雰囲気の女の子。兄がいる影響か、運動もゲームも姉グループの中では随一。姉グループの中では、一番趣味嗜好が合う気がする。
そして3Pを操るのは被弾率の最も高いヒナお姉さん。
姉妹揃ってほんわりした雰囲気で、大き目の白いニットのセーターもお揃い。何というか、思わず守ってあげたくなるような雰囲気を醸し出してくる。ただゲームは非情。
そんな姉グループの黄色い声に包まれながら、華麗なキャラクター捌きを披露する僕。
……うらやましい?
姫プレイならぬ…………、えっと、姫プレイの反対って何? 姫の反対は王子? でも王子の反対って王女……。漢字的には彦か。
……彦プレイ?
……
流行らんな。
接待プレイ(受けるのは僕)が適切か。
まぁ女の子に限らず、子どもたちから頼りにされるのはまんざらでもない。
調子に乗らないように気を付けなければならないが。
というか活躍しないとクリアにならないからね。頑張るよ。
そうして十数回ほど吸って吐いてを繰り返し、ようやくボスの体力ゲージが残り僅かに。
最後はヒナお姉さんが放った攻撃が上手い具合にヒットし、ステージボスが倒されてクリアとなった。
「やったー! たおしたー!」
「ぶい」
「がんばったー」
みんなやり切った顔で、満足そうに互いの健闘を称え合っている。
うん、本当にやり切った。正直なところ、他のキャラクターを使わせて貰えればもっと早かった。何で僕のキャラだけ能力なしでボスに突入しているのか。
「すご~い」
「さすがまことっ!」
「……まーくん、おつかれさま」
「ありがと」
同年組からの労いと賞賛の言葉をいただく。
右隣には、ぱちぱちと拍手をしているしほちゃん。
その反対側には自分もやりたそうにうずうずとしているユウマ。
コントローラーを渡して選手交代。
そして、ソファを背もたれにしてふかふかの絨毯に直座りしている僕の頭を抱え込んでいるスズカ。
僕の頭はアナログスティックじゃないからね? 頭をコキッって傾けてもそっちの方向には動かないからね? もっと言えばこのコントローラーにアナログスティックは付いてない。
そんな感じで、僕たちは姉グループと仲良くきゃいきゃい言いながらテレビゲームに興じる。
年少グループは自分でやるのも楽しいけど、見ているだけでも楽しいようで、一つのコントローラーを交代で回しながら。
決して年功序列に甘んじているわけではない……はず。
動くキャラクターたちに合わせて、一緒に左へ右へと体を傾かせたり、隙間を跳び越す際に上半身だけぴょんと飛び跳ねたりと楽しそうにしてるしね。
……と言うか、アイツはまだ来ないのか。
読んでいただきありがとうございます。
吉倉家でのクリスマスは次回で終わります。
もう少々お付き合いください。
ハーレム≒彦プレイ
…流行りませんね




