#062 クリスマス会
クリスマスイブ。
この言葉を巡って、色んな議論があるだろう。
イブは前日ではなく"晩”という意味だから、イブイブは意味が分からないとか。
”evening”の語意は”日没から就寝時間まで”(英英辞典参照)となっているから24日の日中はイブではないとか。
イブは”evening”の同義の古語である”even”が元になっているから、正確には”evening”ではないとか。
イブには”eve”という単語がもうあるんだから、”even”も”evening”も引っ込んでろとか……
でもまぁ、そんな小難しいことはどうでもいいじゃないか。
信者さんでもない限り、拘るだけ悲しくなってくる。
大人しく企業の商戦に乗っかって、経済を回していこう。それが大人のクリスマス。ちょっと卑猥に聞こえるけど、そういう意味ではない。
それに――
「まことー! すずかー! めりーくりすますいぶいぶいぶ!」
「おはよ、ジュン」
「……いぶいぶいぶ!」
教室に入ると、元気よく挨拶?をしてくるジュン。
冬場は寒いから、長袖長ズボンの設定がある体操服での登園が認められているんだけど、ジュンはなぜかいつも半袖半ズボン。寒くないのだろうか。
そしてスズカの「いぶいぶいぶ!」は挨拶と言っていいのだろうか。
他の子たちもクリスマス独特の雰囲気にテンションが上がっているようで、いつもより教室内が騒がしい。
――ね?
イブの正確な意味なんて、子どもたちの楽しそうな姿の前には些細なことでしかない。
子どもたちの笑顔のためにも、ここは一つ、広い心で見てあげられないだろうか。
というわけで、”いぶ”の回数から分かる通り、今日は12月22日。
なぜこの日にクリスマスの話題かって?
今年は24日が土曜日で、23日は天皇誕生日で祝日。そして幼稚園は毎年12月25日からお休みに入るみたいだから、クリスマス会をできるのが今日しかないんだよ。
ちょっとどうなんだ?と思うかもしれないけど、こればっかりはしょうがない。
たぶん10年もすれば23日は休みじゃなくなるかもしれないから……
……気を取り直して。
少し前から幼稚園のエントランスにも、3メートル近くありそうな大きなクリスマスツリーが飾られていて、登園した僕たちを出迎えてくれている。
戸塚家でも1メートルくらいのツリーがあって、先日スズカとミツヒサさんと一緒に飾りつけをした。
ベビーベッドもあるせいか、だいぶ家が狭く感じるようになってしまった。自然とスズカとの距離も……
ちなみに我が家には小さな卓上ツリーが飾られている。
幼稚園の授業も、午前中はクリスマス一色。
最初はみんなで教室の飾りつけ。
画用紙を使ってクリスマスツリーや星の形になるように切り貼りして壁に貼る。
他にも折り紙で輪っかを作って、それを全員分つなげて教室をぐるっと一周分飾ったり、サンタ帽子を作って被ってみたり。
それが終わると、練習した「赤鼻のトナカイ」を歌ったりして、続いては宝探しゲーム。
年少組では普段行く機会の少ない図書室と多目的室がある園舎が舞台。ちなみに他の学年は別の場所で開催されている模様。
あらゆる場所に隠してある折り紙で作ったタマゴを探し出してサンタさんに持っていくと、クリスマスプレゼントもらえるらしい。
サンタさんは男性の先生が仮装していた。
子どもたちは先生がやっていることに気が付いているのかいないのか、サンタさんにまとわりついている。さすがサンタさん。人気者だね。
絵本やアニメでもそう描かれることが多いから、子どもたちにとってはサンタさんのイメージはやっぱり男性なんだよね。白いお鬚が欠かせないから。
ただ大人になると、女性のサンタさんの方が人気なんだよね……
……
それに我が家のサンタさんは母上……
……
さて、宝探しを始めようか。
宝探しと言っても幼稚園児の遊びなので、謎解きが必要とかそういったことはない。
本と本の間に挟まっていてちょこんと顔を出していたり、ちょっとした物陰を覗き込めばそこにあったりと、ふと立ち止まって注意深く見て行けば探し出すのはそれほど難しくない。
子どもたちの様子を見ていると、早速見つけた子もいて、サンタさんから折り紙で作られた首飾りを掛けてもらっている。そしてまた探しに……
ちなみにお宝は子どもの人数より多く用意されていて、3回までは探しに行ける。
先生も準備大変だったんだろうな……。隠したり景品用意したり……。
子どもたちの笑顔のためにありがとうございます。
ジュンは予想通り足で探すタイプみたいだ。
忙しなくあっちへ行ったりこっちへ行ったり。室内だから走れなくて、頑張って早歩きをしている。
ただ、すぐ傍にあるのにことごとくスルーしていっているようで、発見能力は低いようだ……
ユウマは近場から注意深く探している。
――おっ、本棚のフラップ扉を開けて見つけたみたいだ。
しほちゃんはと言うと、あっちへふらふらこっちへふらふら。
終いには気になった絵本を手に取って読み始めて……。他にも似たような子がいるが、無くなる前に見つけられることを祈っている。
そしてスズカは……
「すーちゃん、探しに行かなくていいの?」
楽しそうに探し回っている子たちを他所に、なぜか僕の隣にいた。
スズカも好きそうなイベントなのに、どうして――
「……ひろった。こっちはまーくんにぷれぜんと」
「……ありがとね」
「……むふぅ」
心配するまでもなく、いつの間にか見つけていたようだ。
しかも二つ持っていて、一つは僕にと……
断るのもどうかと思うので、ありがたくもらっておくことにしよう。
全員がお宝を見つけてしばらくして、宝探しゲームは終わった。
僕もちゃんと自分で見つけたよ。
サンタさんの背中に張り付いていたやつ。やけに壁に背を向けることに拘っていたから怪しくてね……
その後、午前中の最後は園児全員が体育館に集まり、先生方の出し物――人形劇や手品を楽しんだ。
手品は園長先生と我らが副担任のリコ先生が大活躍だった。
給食もクリスマスにちなんでケーキが出されて、子どもたちのテンションは上がりに上がる。
先生方も特別な日と言うこともあって、少し大目に見ているようだ。
そんな感じで幼稚園のクリスマス会は終わる。
そして午後は終業式。
クリスマスの熱気はまだ続くけど、僕たちは正月休……じゃなくて冬休みに突入した。
読んでいただきありがとうございます。
物語を作るって難しいですね…
前話が国語の問題として優秀なのか、シンプルに私の描写力が無さすぎるのが問題なのか…。
きっと後者なんですよね…
改稿履歴
2021/01/13 00:29 諸事情により、今話の日付を修正しました。正確な年がわかってしまうかもしれませんが、心の中に秘めておいてもらえると助かります。




