#061 働く母の悩み
遅くなり申し訳ございません。
予告していた内容と若干ズレます…
カッチカッチと鳴る左折の合図が終わり、窓越しに風景が流れ出す。
イルミネーションで彩られている店や一軒家もだんだんと増えてきて、見慣れていたはずの街並みが、また違った表情を見せている。
テレビでも連日特集が組まれていて、世間はクリスマスムード一色。
かく言う私も、親友でありママ友でもあるアカリと一緒に、子どもたちへのクリスマスプレゼントを買いに行くために車を走らせていた。
ちなみにクリスマスプレゼントはすでに決めてある。
母親である私たちがこうして二人っきりで出かけられているのは、夫であるみーくんが子どもたちのお世話を引き受けてくれたお陰。今頃は家で子どもたちと一緒にクリスマスツリーの飾りつけをしているんじゃないかな。
みーくんは積極的に家事や育児を手伝ってくれる。
どうやら、すーちゃんが産まれたばかりの大変な時期に、私に押し付ける形になってしまったことを気にしているみたい。
世界的に経済が混乱していて会社も大変な時期だった事は理解していたし、お互いに話し合って決めたこと。お母さんやアカリもいて手伝ってくれていたから全然気にしていないんだけどね。
そういった事もあって、今回は育児休暇を取れるだけ取ってくれている。
たまに会社から連絡がきたり、どうしても外せない作業があって駆り出されることもあるんだけどね。
可愛い娘たちとの別れを惜しむんだけど、すーちゃんから「パパがんばる。いってらっしゃい」とバッサリ応援?されて、複雑な面持ちで仕事に向かったり……
ともあれ、子どもたちとの時間が多く取れて、みーくんも楽しそうにしている。私も負担が減って自由な時間が作れるので、何かと助かっている。ありがとね。
だけどアカリはそういうわけにもいかない。
親友で隣人で協力して育児をしている仲の私の子だからと言って、休暇を取ることはできない。当たり前だけど。
「仕事忙しいんだから、休みの日くらい家でゆっくりしててもよかったのに……」
「ううん、大丈夫。心配してくれてありがと」
それに、ここ最近は年末で決算期やら異動やらで特に忙しそうにしている。
まーくんと接する時間も上手く取れていないみたいだから、一緒に居たいはずなんだけど……
「……あの話?」
「うん……」
いつもと違うアカリの雰囲気に、私の声のトーンも一段下がる。
溺愛するまーくんとの時間を削って、あえて子どもたちがいない状況にしてまで話したい事。仕事の話だ。
御存じの通り、アカリは銀行員。
銀行員というと窓口業務等を担当する一般職と、営業や融資といった専門的知識が必要となる総合職の二種類がある。アカリは後者。
両親からの強い薦めで、その職業を選んだと聞いている。
薦められて就ける職業でもないと思うけど、さすが昔っから真面目で几帳面で努力家だったアカリと言うしかない。
給料は魅力的だし、福利厚生だって充実している。社宅は色々あって利用していないけど、片親であるアカリにとってはこの二つは重要。
それと同時に問題もあった。
総合職はとにかく忙しい。
ノルマ漬けの毎日だし残業も多い。付き合いでの飲み会も毎週のようにある上、資格取得のための勉強も欠かせない。私なら三日で音を上げる。
アカリが最後までまーくんを産む決断をしきれなかった理由はここにあった。残念ながら、銀行員の総合職は育児をするには難易度が高い。片親で女性ともあればなおさら。
私に相談してくれた時も、産むことは諦めていて、おろすことへの責任に悩んでいたしね。
私もその時は若かったというか(今もまだまだ若いけど!)、私がアカリの子も育てればいいと考えていた。実際、幼稚園教諭資格は持っていたし、二人くらいならどうとでもなると。
結果は御覧の通りで、まーくんが賢過ぎて普通にやれてしまった。
なので現在、アカリが仕事で多忙という点についてはなんとかなっている。
だけど大きな課題が残っている。
転勤。
銀行員にはこれがつきもの。転勤族と言えば、まっさきに思い当たる職業の一つが銀行員。
まーくんを身籠ってからは、たまたま家から通える支店勤務で、かつ支店内での部署異動だったから転勤がなかった。
しかしアカリ曰く、同じ支店に勤められるのは長くても5年。それより早く転勤になることも当然あるし、むしろそうなることの方がほとんど。
アカリが転勤することになれば、私たちの状況は大きく変わる。
アカリたちは……まぁ上手くやると思う。
まーくんは四歳児とは思えないほどしっかりしているし、お留守番も問題なくできちゃうんじゃないかな。実際やっている。そして転校した先でも人気者になる気がする。
私たちは……すーちゃんがね。
まーくんのお手伝いが無くなるのは痛手だけど、依存しているわけではないよ?
ただすーちゃんは大きなショックを受けることになる。
すーちゃんのまーくん大好き具合を見ていれば一目瞭然。
なんならまーくんを戸塚家で預かってもいいんだけどね。アカリもまーくんが望めばもしかしたら預けてくれるかもしれない。
現実的じゃないのは分かっているけどね。
それにまーくんは絶対にアカリに付いていく。
ここ最近のまーくんを見ていると、そう確信させられる。
みーくんが育休で家にいるようになって、すーちゃんはみーくんと一緒に遊ぶ時間が増えた。
それに、ふーちゃんときょーちゃんのお世話をやりたがって、お手伝いをしてくれるようになった。妹たちの様子をじっと見つめていることも多い。
そうなると、すーちゃんはまーくんと過ごす時間が減る。
まーくんはその状況を利用して、それとなく存在感を消して、自分が居ない状況にすーちゃんを慣れさせているようにも見えないこともない。
まるで、もうすぐ転校することを予見しているかのように。
……考えすぎかもしれないんだけどね。
だけど、まーくんなら不思議はない。
どれだけ賢いのかを確認するために、実験的にアカリがプレゼント(もちろん長くまーくんの為になるもの、という意味もある)した電子辞書。
その検索履歴を消しているような子なのだ。
どういう意図があってそうしているのか、はたまた偶然なのかはわからないけど、まーくんは私たちが想像している以上に物事を考えている、と女の勘が告げている。
まーくんが行動を制限して自由な成長の邪魔をしてしまうんじゃないか、とアカリが危惧して、これ以上の探りをさせてはくれないけど。
アカリが転勤して一番ダメージが大きいのは、八代家ではなく戸塚家のような気がしている。
私自身もアカリと会いづらくなるのは寂しいし、まーくんだって我が子のように思っている。
きっとアカリも同じ気持ちを抱いている。
「するの?」
「うん」
「そっか。みーくんに伝えとくね」
「うん、お願い」
「やっぱり不安?」
「それはもちろん。環境が変わるんだから……。分からないことだって多いし……」
「困ったら言ってよ?」
「うん、色々とありがと」
真面目な話を終えて、話題は子どもたちのことへと変わる。
私たちの中心は、やっぱり子どもたちだからね。
読んでいただきありがとうございます。
物語を作るって難しいですね…
幼稚園年少が終わったら一度全話見直すかもしれないです。
主に設定面を充実させるために…




