#005 天使との一日(午後の部)
昼食後。
歯磨きを終えたら、お待ちかねのお昼寝タイム。
僕とスズカと……ミオさんで。
そりゃあ主婦だって昼寝しますよ。結構な重労働なんですから。家の中をあっち行ってこっち行って子ども抱き上げて面倒見て。ほんとうにお疲れ様です。
そういうわけで川の字に並んで布団の上。
並び順は僕、スズカ、ミオさん。最初はミオさんを真ん中にしていたのだが、ある時を境にスズカが割り込むように間に入ってきて、その順番に落ち着いた。
スズカは右見て左見て右見て「むふぅ」。
ミオさんと僕のどちらかに抱き着きながら寝るのが習慣となっている。
あっ、今日はミオさんだ。ちょっと寂しい。けどその大きなお胸に埋没……。
……今けしからんこと考えたやつ。僕はそんなこと考えてないからね? というか性欲みたいなのはまだないから! 二歳児だぞ? それに何度も見てるよ! 飲んでるもん! くれるんだもん! 羨ましいだろ! 最近は回数減ってきたけど……
話が逸れた。
というわけで、そんな可愛い天使とその向こうに美人母。
もうね、死んでもいいかなって。あ、ちょっと待って。今はもう生に執着してる。女神様脳裏にちらつかないで!
なんてことを考えているとすでに二時半。いつの間にか眠っていたようだ。
すでにミオさんは起きているらしく、一人の時間をくつろいでいた。絵になる。そして僕に気付く。
「まーくん、よく寝た?」
「うん」
「あら、もうこんな時間なのね。夜寝れなくなると困るから、すーちゃん起してもらえるかな?」
「うん、わかった」
「おねがいね」
僕は隣で幸せそうな顔で寝ている天使を……起せない。なにこの寝顔。何度見ても癒される。マジ天使。写真! カメラは! スマホは!?
そんな僕の心情を読んだのか、ミオさんの声が聞こえてくる。
「大丈夫よ~。寝顔の写真は撮ってあるから~」
さすがミオさん、仕事が早い。あとで見せてもらおう。プリントアウトして部屋に……。いや、そもそも自分の部屋なんてない。
「まーくんの寝顔もあるわよ~」
なんで!?
「アカリに送らないとね~」
母上様……。まぁミオさんのことは信用しているけど、それとこれとは別なんだよね。うん、自分の子どもの写真欲しいよね。
「それにすーちゃんも見るんだから!」
なんですと!? 変な顔してないかチェックせねば……。とその前に、そろそろ起こさねば。眠りが浅いであろう今を逃したくはない。
「……すーちゃん。……起きてすーちゃん!」
僕の声にスズカが反応を示す。
「………………まぁー、くん……?」
目を覚ます。寝ぼけまなこで僕を見上げ、名前を呼ぶ。
「まぁーくん…………むふぅ」
寝返りをうって僕へとくっつくと、いつものようににへらぁと相好を崩す。
今日も天使様の寝起きの機嫌は良さそうだった。
昼寝が終われば次はおやつの時間。
おやつを侮るなかれ。これを食べないと意外と体力が持たない。赤ん坊の体、思ったより燃費が悪いのだ。あと普通においしいから。
ミオさんは普段の食事もそうだが、おやつももちろん僕らのことを考えて選んでくれている。栄養価があって、合成着色料とかがないやつ。たまに手作りだったり。
今日は残念ながら市販のカルシウム豊富なウェハースだ。いや、おやつ作るのも楽じゃないししょうがないよね。うん、ウェハースおいしい。
スズカは両手でウェハースを持ってカリカリと食べている。
とにかく可愛い。食べちゃいたい。うん、今のはナシ。ウェハース食べます。
そうやって見ていれば、当たり前のようにスズカと目が合う。すると、スズカがウエハースを持ってトコトコとこちらに向かってくる。
「まーくん。あーん」
狙って……ました。うん。スズカは僕と目が合うと、おやつを分けてくれる。別に食い意地とかじゃないよ? もうね、この「あーん」が聞きたいだけ。食べちゃおう。
「……………(ゴクリ←おやつ飲み込んだ音だよ?)。ありがと、すーちゃん」
「むふぅ」
「はい、すーちゃんもあーん」
「ふぅ、あーん」
小さな口を開けて待つひな鳥。いや天使。破壊力がヤバい。
僕の手からウェハースをぱくっと咥えて、上目遣いでもぐもぐと……。
ごちそうさまです!
色んな意味で、ごちそうさまです。
そしてミオさん仕事が早い。写真撮ってる。あとで絶対貰おう。
僕とスズカはヨーグルト風味の乳酸菌飲料を飲みほす。ちゅーちゅー吸う姿もまた可愛い。ミオさん、写真お願いします!
そうして僕は母が帰ってくるまで、天使の遊び相手を務める。いや、務めさせていただいている。スズカに断られるまでは続ける予定だ。
ところでスズカは人形遊びとかしないのかって?
してるよ?
おもちゃの人形を使ってないだけ。
ほら僕の右腕が勝手に上がっていく。
そしておもちゃのトマトを口に当てられる。
「どうじょ!」
どうする!?
「……いただきます」
まぁ慣れたもので、僕はスズカの差し出す手を両手で包んでトマトを隠し、口を近付けて食べたふりをする。手を放すときにスズカの手からトマトを摘み取る。そして背後に隠す。
「……ごちそうさまでした」
「むふぅ!」
これが正解らしい。
抱き着いてきたスズカが僕のほっぺたをぺちぺちと触って、にへらと笑顔になる。
「まーくん。まーくん。むふぅ」
僕がお気に入りの人形っぽい。
あれかな、頭の角度で目の開き具合が変わるあの人形。45度くらいにした時の目が僕に似てるのかもしれない。
釈然としないがスズカの人形になれるなら、その役目、喜んで引き受けさせていただきます。
読んでいただきありがとうございます。
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