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【旧】転生先が現代日本人ってふざけんなっ! って思ったけどそれが普通だし案外充実してる  作者: せん
幼稚園年少

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#057 暗躍

遅くなり申し訳ございません。

 アカリが休みを取るために関係各所に電話を掛けている頃。


 八代家のお隣では、スズカにマコトが幼稚園を休むこと伝えることが出来ないまま、早数十分が過ぎていた。


 幼稚園のバスがやってくる時間は刻一刻と迫ってきている。

 どうしても行きたくないとスズカがごねるようであれば、無理をさせずに休ませることも考えてはいるのだが。


(いつもいつもまーくんが一緒、って訳にもいかないもんね……)


 もちろん今までにもマコトと別行動となったことは何度もある。

 スズカもマコトも風邪を引いたことが無いわけではないし、お互いに移さないように数日間会わないこともあった。戸塚家だけで出かける時もそうだ。


 毎回大変ではあったが。


 ただ、マコトが一緒にいない時は必ずミオかミツヒサが傍にいた。

 だからミオも、ミツヒサも、マコトも、アカリもいない場所で長時間過ごすというのは、スズカにとって生まれて初めてなのだ。


 今回も一段と大変になりそうだとミオは考えていた。


(もうちょっと猶予があれば……。まーくんめぇ……)


 恨むのはおかしいと分かっているものの、そうせずにはいられなかった。




「ママじかん」

「え、もうそんな時間……?」


 リュックを背負って準備万端のスズカが、くいくいとミオの服の裾を引っ張る。

 マコトが休むことを伝えられないまま、家を出る時間となってしまった。


 ミオは双子をあやしているミツヒサと視線を交わすが、お互いに妙案は捻り出すことはできていないようだ。


(……えぇい、女は度胸!)


 ミオはスズカに向き合い、視線の高さを合わせる。


「ママどーしたの?」

「えっとね、今日まーくんお熱出ちゃったみたいでね……」

「……」

「幼稚園お休みするんだって……」

「……」

「……すーちゃん?」

「……うん、わかった」


 スズカはそう言うと、ミオの手を引いて玄関へと向かう。

 

 ミオの位置からはスズカの表情はわからないが、気落ちした様子は見られない。


 そのままバスの停留所に着いたが、マコトがいないことを認識しても幼稚園に行く意志は変わらないようだ。


 そしてバスがやってくる。


「……いってきます」

「い、いってらっしゃい……」


 スズカは先生にぺこりと挨拶をして、一人バスへと乗り込んでいく。


「…………あれ?」


 ミオは娘が乗ったバスを見送る。

 昨日までマコトにべったりだったというのに、あまりにもあっさりと幼稚園に旅立ってしまった。


(さてはまーくん、何かしたわね……?)


 見え隠れする策士の陰を疑うが、今は無事に送り出せたことに安堵するミオであった。



 

◇◇◇



 広い座席に一人、ポツンと座って着いた幼稚園。


「…………おはよ」


 スズカは消え入りそうな挨拶と共にばら組の教室へと入る。

 そもそも教室に入ってくる際に挨拶ができる幼稚園児は稀だ。マコトがやっていてマネをする子が多いばら組でさえ半分もいない。

 

 そしていつものようにクラスメイトが群がってくる。

 だがそれは残念ながらスズカを求めているわけではない。いつも一緒にいるはずの男の子が目当てだ。


「あれ、まことはー?」

「いないのー?」


 子どもたちの無邪気な質問が飛んでくる。


「……まーくん、おやすみ」


 それほど大きな声ではなかったが、やけに鮮明に聞こえた。


 そして固まる。


 先生たちが。


 聞かされていないわけではない。朝礼でマコトが休みという情報は共有済みだ。


 だが、それを子どもたちに伝えるのは慎重にいきたかったというのが本音。マコトが休みだと知った子どもたちが、情緒不安定になったりしないかと心配だった。

 


 しかし――



「ジュン、おにごやるぞー!」

「えっ?」

「はやく!」

「えっ?」

「いろんはみとめない……?」

「えっ?」

()()のめーれー?だ!」

「お、おぅ?」

「「「じゃーんけーん……」」」

「「「「「ぽん!!」」」」」

「まけたー!?」

「じゅんがおになー」

「ぼすのいったとーりだったなー……」

「くっ……。いーち、にーい、さーん……」


 とある子どもたちは元気に外へと駆けだし――


「ユウマー、なにつくるんだー?」

「えぇっと……。()()()()()()()()()()()()()()()()…………えんとつ!」

「わかったー!」

「こっちこっち……」

「もっといたもってくる!」


 とある子どもたちは仲良く積み木を積み、その高さを競った。


(((あれ…………?)))


 思っていたものと違う子どもたちの反応に、肩透かしを食らう大人たち。


 こうしてマコトのいない一日は、大人たちの予想とは違った形で始まった。




◇◇◇




 場所は変わって八代家。

 マコトは水分補給をして再び布団へと潜る。


 熱はある。身体も怠いしほてりも感じる。

 先ほどアカリが様子を見に来て体温を測ったときは38度を超えていた。


 だが苦しいというほどではない。体は動くし意識もはっきりしている。


 幼稚園に入る前まではそれなりに風邪を引くことが多かったこともあり、大事にならないようにと安静にしているマコトだったが。


(…………暇だ)


 病人という自覚があるため大人しくしているが、なかなか眠れずにいた。


 だがぼーっとして時間を潰すのは慣れている。

 前世で培った休日の過ごし方がここで生きてくる。無駄ではなかったようだ。


 時計の針をひたすら眺めていると、アカリが再び様子を見に来る。

 熱を測り相変わらずの数字ではあったが、思ったよりも元気そうなマコトに安堵するアカリ。


「お昼おうどんだけど食べられそう?」

「うん、大丈夫」


 アカリはマコトを強制的に抱き上げると、そのままリビングへと向かう。

 いつもなら隣り合って座るはずだが、マコトはなぜかアカリの膝の上に座らされ、後ろから抱きかかえられるような体勢に。


「ふぅー、ふぅー……」


 アカリはマコトの頭の横から顔を出し、うどんを冷ますために息を吹きかける。


「はい、あーん……」

「……えっと、自分で食べられるよ……?」

「いいからいいから。早くしないとおうどん落ちちゃうから……」

「う、うん。あーん…………」


「――大丈夫? 熱くない?」

「うん、大丈夫。おいしい……」

「よかった。まーくん風邪ひいてる時くらいは甘えないとダメだよ?」


(甘えるというよりこれは過保護では……?)


 マコトは満足そうにしているアカリの言われるがままになっていた。




◇◇◇




 場所は再び幼稚園に。

 そしてマコトのいない一日は終わっていた。


 リコはバスに乗り込む子どもたちを見送る。


「スズカちゃん、またね?」

「……さよーなら」

「うん、さよーなら」


 小さく手を振るスズカを見たリコは、安堵の笑みを浮かべる。


(マコトくんがお休みでも、なんとかなりましたね……)


 マコトがいないことによって、荒れるかと思われていたばら組。

 しかし大人たちの予想は裏切られ続け、何事もなく一日を乗り越えることができた。


 確かにマコトがいる日と比べるとまとまりはなかった。

 それでも他のクラスに比べ、遥かに落ち着いた様子だったようにも思う。


 いつもやんちゃな子たちは、妙な一体感でジュンを抑えるべく奮闘していたのが印象的だった。


 マコトにべったりだったスズカも、シホをはじめとしたお友達と一緒で、それほど暗い様子もなかった。


(みんなちゃんと成長してるんですもんね……)


 リコは改めて実感する。


 マコトの妙な賢さばかりに目が行っていて、他の子どもたちの成長が見えていなかったのかもしれない。


 マコトに依存していたのは子どもたちではなくて、先生(自分)たちだったのかもしれない。


 そう気付かされた一日だった。


「りこせんせー、あしたはまことくる?」

「明日は幼稚園もお休みだから月曜日だね。レンくんがお休み中に良い子にしてたら来てくれるかな。もちろんシュンタくんもね」

「じゃあ良い子にする!」

「おれも!」


 それでも、マコトがばら組のみんなに好かれていることには変わりない。

 そして、子どもたちを誘導するためにマコトの名前が便利だということも。




◇◇◇




「おかえり、すーちゃん」

「……ただいま」


 バスから降りると、まっすぐに走って抱き着いてくるスズカをミオは抱き上げる。


(やっぱりまーくんと一緒じゃないから寂しいよね)


 朝家を出る時は気丈に振る舞っていたようだが、今は甘えたいオーラが出ている。ミオはそんなスズカの頭を優しく撫でる。


「幼稚園楽しかった?」

「……まーくんがいない」

「そうだね」

「まーくんにあいたい」

「まーくんが元気になったらね」

「……うん」

「すーちゃんは我慢出来て偉いね~」

「すーはおねーちゃんになるから」

「ふふっ、そうだね。だけどおねーちゃんでも辛かったら言わなきゃだめだよ?」

「うん」

 

 いつの間にか精神的にも大きく成長している娘を誇らしく思う。


(まぁ、裏でまーくんが絡んでるだろうけどね……)


 ミオは隣の家で寝ているであろう男の子を思い浮かべ感謝した。





 そして二日後。


(……復活!)


 熱は翌朝には下がっていたが、様子を見てもう一日安静にしていたマコト。

 そのため、スズカと会うのも丸二日ぶりだ。


「――まーくん!」


 玄関を開けると勢いよく飛び込んでくるスズカ。


「すーね、ひとりでよーちえんいけたよ?」

「よく頑張ったね、すーちゃん、偉い偉い」

「…………むふぅ」


 頭をぐりぐりと胸に押し付けてきて少々痛かったが、それだけスズカから愛されていると思えばなんてことはない。


「まーくん……」


 名前を呼んで上目づかいで見上げて来るスズカに、マコトは「わかっている」といった様子で問う。


「何が良いか決めてきた?」

「えっとね、ほっぺにちゅーがいい」

「…………えっ?」

「……だめ?」

「えっと、……うん、すーちゃん頑張ったもんね」


 マコトはご褒美を頂戴とほっぺたを突き出してくるスズカに苦笑いしながら、しかし慣れた様子で唇をくっつける。


「………………むふぅ」


 そしてスズカは満足そうに再びマコトに抱き着いた。二日間会えなかった寂しさを埋めるように。



読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 根回ししておくとか天才すぎる
[良い点] 幼いすーちゃんはずっと見ていたい。でも小学生とか中学生とかの生活も見てみたい
[一言] まさかの平和だった まことがやったのだろうけどどうやったんだ…?
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