#053 初めての運動会4
運動会午後の部。
最初の競技はクラス対抗玉入れだ。
子どもたちは籠を中心に群がり、足元に転がっている玉を拾っては投げ拾っては投げを繰り返している。
万が一にも籠が倒れることが無いよう、先生が頑張って支えているのだが、園児たちの投げる玉から必死に耐えている姿が……。
上手に上方向に投げられない子も多く、結構な頻度で先生へとストレートに玉が飛んでいく。
あぁ、後頭部にクリーンヒット……。誰か完全に狙ってないか……?
先生だけじゃなく、中央付近に陣取って投げている子たちにも、クラスメイトから援護射撃をもらっているが、投げるのに夢中になって気にならないようだ。
かく言う僕は、あの中に入っていく勇気はないため後方支援に徹する。
子どもたちから一歩離れ、明後日の方向へと飛んできて転がった玉をかき集める。
そしてその玉はスズカとしほちゃん、ユウマの手によって再び籠へ向かって放り投げられる。
いや、投げる際にぴょんとジャンプするスズカが可愛くってね? ついつい玉拾い専門に。
スズカたちはちょっと遠めから投げていることもあり、籠にほとんど入ることはないようだが、三人とも楽しそうなので僕としては満足だ。
結果は三クラス中三位だったけどね。まぁ皆よく頑張ったよ。頑張って先生に一番当てられたんじゃないだろうか。……お疲れ様です。
子どもたちが競技を終えると、今度は親たちによるクラス対抗玉入れだ。
籠の位置も大人用へと調整される。と言っても限界はあるので、背の高い人が手を伸ばしてジャンプすれば届いてしまいそうだ。
自分たちのお父さんお母さんが参加している事もあって、子どもたちも立ち上がってその様子を応援している。
こうやって親たちが自分たちと同じ事をしている姿を見ることで、大人も自分たちと同じ人であり、成長の先にあるということを知っていくんだろうか。
……いろいろ気を付けないとね。
さぁ、気を取り直して。
親たちの玉入れの結果は、ばら組の無念を晴らすように一位だった。
ミツヒサさんが大活躍だったよ。背が高いのは羨ましいね。
ただぽんぽん入るもんだから、どれだけ籠からこぼれさせないように乗せるかの勝負になってたけど。玉入れじゃなくて玉乗せだね。
それを終えると、お次は親子競技。
各学年で内容が異なるのだが、年少組は”親子でキャタピラーリレー”だ。
段ボールで作ったキャタピラーの中に親子で一緒に入りハイハイで進み、対面で待ち構える次の親子と入れ替わる。
子どもたちはつい最近までハイハイマスターだったので何の問題もなさそうだが、親たちはなんだか大変そうだ。キャタピラーがバトン代わりのはずだが、親たちにとっては膝当てがバトン。
膝、というとスズカが怪我をしてるので大丈夫かなと心配だったが、お尻をツンと突き出して膝を付かずに上手くやっていた。そして早かった。
むしろ窮屈そうにキャタピラーの中に収まるミツヒサさんの方が大変そうだ。背が高いのも時と場合によるね。キャタピラーに入る機会がそうそう来るとは思えないけど……
リレーはなかなかの盛り上がりを見せた。
キャタピラーは前が見えない分、真っすぐ走るのが意外と難しい。体格の全く違う親子が並んで動かすため、どうしても子どもがいる側へと曲がりがちになる。
「まことー、みぎだー!」
「え、右?」
周りから声援と共にどっちに逸れているとアドバイスを受けるが――
「ぎゃくだー!」
――とご指摘を受ける。対面から見て右なのか、僕から見て右なのか……。逆に混乱する。母上も苦笑いしてらっしゃるが楽しそうだ。
そんなこんなで終わったキャタピラーリレーは二位でゴール。
一位になれなかったのは残念だったが、子どもたちは親と一緒に参加できて楽しそうだったので良いんじゃないでしょうか。
これで年少組が参加する競技は終わりだ。
残りは年長組のクラス対抗リレー、親(有志)リレー、そして地区対抗選抜リレー。
親リレーはお父さんが圧倒的に多いのだが、中には気合の入ったお母さん方もちらほらと。サナエさんもぎっくり腰で欠場となった旦那さんの代わりに参加している。ミツヒサさんもだ。
こう言っては失礼だが、お二人ともあまり若くないほうなので、怪我だけには注意してほしい……。
そんな心配を他所に、親リレーはつつがなく終了した。
ミツヒサさんもサナエさんも、特に見せ場を作ることなく……。いや、幼稚園の狭いトラックを大人が全力で走ったらあっという間だし、横滑りに気を付けると迫力も今一つだし……。転んだ人は迫力凄かったけどね?
まぁ大人たちは大人たちで楽しそうだったので、良いんじゃないでしょうか。
最後の地区対抗選抜リレー。陽ノ森幼稚園に通っている子どもたちを、住んでいる地区ごとに6つに分かれてリレー対決。
学年に関係なく、それぞれの地区で足の速い子を体力測定のタイムから選抜してしるわけだが、やはり年長さんが圧倒的だ。一人二人年中さんが混ざっているが、年少さんはさすがに選ばれてはいなかった。
自分の住んでいる地区、つまり一緒にバスに乗っている子が走っているという事もあって、そこそこ盛り上がったんじゃないだろうか。
僕らの地区は残念ながらブービー賞だったが。うん、来年頑張ろう。
こうしてすべての競技と閉会式も終え、初めての運動会は無事に幕を下ろした。
◇◇◇
「あれ、ミツヒサさんは?」
解散となり、親たちの元へと戻る子どもたち。
僕も同様に、スズカと一緒に親の元へと戻るのだが、母上と一緒にいるであろう人物がいない。そのお陰で母上を探すのに少々時間もかかってしまった。
スズカもミツヒサさんの姿が見えず、きょろきょろとしている。
「ミツヒサさんはミオの応援に行ったよ」
母上はしゃがみ込み、スズカに目線を合わせながら頭を撫でる。
どうやらミオさんの方で動きがあった模様。
予定日は週明けあたりかと言われていた気がするが、少しばかり早まったようだ。
ミツヒサさんが昼過ぎから妙にそわそわしていたのはそれが理由だったのかな……
「すーもいく」
スズカは疲れて眠そうになりながらも、ミオさんの応援に行きたいと言い出す。
「じゃあまずは一旦お家帰って綺麗になろうね」
さすがにこのまま病院へ直行というわけにもいかない。動いて汗はかいたし、転んでいるので砂埃も付いている。
と言うことで、僕たちは皆への挨拶も早々に帰路に就くことになった。
そして案の定、三人でお風呂に入った後、夕食を摂るも体力切れでベッドイン。
ミツヒサさんもハルコおばあ様もミオさんに付きっ切りということで、スズカは八代家にお泊りとなった。
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