#050 初めての運動会1
サブタイは次話以降の内容次第で変わるかもしれません。
心配されていた天気の崩れもなく運動会当日。
我が子の活躍を見ようと、グラウンドを囲むように大人たちが所狭しと集まっている。中には後ろの方で脚立に乗ってカメラを構えているお父さんもちらほらと。校舎の屋上も解放され、双眼鏡を手にしている人もいる。
母上ももちろんいる。頭一つ抜けたミツヒサさんと一緒にいるため、すぐに見つけることができた。
他にも後藤家、吉倉家と一緒にいるようだ。後藤家と吉倉家に関しては、年長組に子どもがいるので慣れた様子だ。
だがそこにミオさんの姿はない。
出産間近で体調が安定せず、人ごみの中に混ざるのも危険ということで、ハルコおばあ様とお留守番だ。
ミツヒサさんも心配そうにミオさんに付き添いたそうにしていたが、「すーちゃんとまーくんの頑張ってる姿を私に……」とビデオカメラを託され説き伏せられていた。ちなみにカメラは母上に。
そんな親たちの沢山の視線の中、園児たちは練習してきた行進でグラウンドに入場し、開会式が始まる。年長組の代表の子による選手宣誓の後、準備体操と園歌斉唱をして、一旦全員が退場する。
そして午前中の初っ端の競技は、年少組によるかけっこ。
年少組はグラウンドの外で、入場のために三列に並んでスタンバイする。
隣のスズカは何時にもまして気合の入った様子だ。ぱっと見の表情はいつもとあまり変わらないが、生まれた時から一緒にいるのは伊達ではないのだよ。
何か言葉を掛けてあげたいが、良い言葉が思いつかないのでそっと見守ろう。
というか、一応僕も競争相手なのでどう声を掛けても変な感じになる気がする。スズカからも「まーくんほんきだす」って言われているし。本気なんだけどね? 追いつけてないけど。
今までの練習から言えば、大本命はやはりジュン。
だがスズカも最後の一回だけはジュンに勝っているので、実力としてはほぼ一緒なんだろう。
そして大穴は僕だが、チャンスがないわけではない。
二人の走るクセはわかった。カーブではやや膨らみがちになるので、僕が勝てるとすればアウト・イン・アウトのラインを……。
なんて考えながら、先生の先導の元「いちに、いちに……」と練習を重ねてなんとか様になっている行進で入場する。
トラックの中に入り、座って自分たちの順番になるまで待つ。
幼稚園の運動会と言っても、本番はやはりドキドキする。母上が見ているからだろうか。それともただただ本番に弱いタイプだからだろうか。十中八九、後者のような気がする。
僕は短く息を吐き出し、先生たちに案内されるままスタートラインに立つ。インコースからジュン、スズカ、僕の順だ。
ジュンはわくわくが抑えきれないといった様子で、緊張した面持ちはない。コイツはたぶん緊張とかしないタイプなんだろうな。事あるごとに「勝負しようぜ!」と言うくらいだし。
そしてなんだかんだでマイペースなスズカだが、ちょっと緊張気味だ。誰かとの競争、加えて一発勝負は初めてだろうからか。そしてミオさんのために頑張りたいという気持ちが一番大きいだろう。
ミオさんは一番になることに拘ってはいなかったが、この年頃になると誰かと競争することを覚え始める頃だ。やっぱり一番になりたいんだろう。
『ここからばら組の子たちが走ります』
前のクラスが走り終わり、いよいよ僕たちの番になる。
本部テントできく組副担任と入れ替わりでリコ先生がマイクの前に座る。続いて走る子の名前が読み上げられるので、順番に手を上げて返事をする。
『今井純ちゃん』
「はい!」
『戸塚鈴華ちゃん』
「はい」
『八代誠くん』
「はい」
さて、いよいよだ。年甲斐もなくドキドキしている。
進行役の先生のアナウンスでスタートの合図が始まる。
『いちについてー……、よーい……』
――パァン!
ピストルの音が響き、煙が上がる。
一番最初に飛び出したのはジュンだったが、気が急ったのかフライング気味であったため、一瞬だけ勢いが止まる。
が、先生からのストップはかからないため、そのままレース続行。二番手につく。
そして一番手はスズカだ。
ほぼ完璧なタイミングで飛び出すことができた。ジュンの頭を押さえてトップを走る。
で、その様子を冷静に分析できる僕はもちろん三番手。
一番外側のレーンはピストルの位置が近いんだって。他の二人と大差はないかもしれないけど、思ったより音が大きかったんでびっくりして……。
『スズカちゃんが一番手、続いてジュンちゃん。マコトくんは音にびっくりして出遅れてしまったか!』
親御さん向けにアナウンスの声が響く。
懇切丁寧に説明しなくていいから! わかってるから!
そうこうしているうちにカーブに差し掛かる。
ここで僕のアウト・イン・アウトを……
……。
……実行できない。
一番手のスズカは予想通り外側へと膨らんでいるのだが、それに続くジュンがインコースを塞いでいる。
今までジュンが一番手以外でカーブに侵入したことが無かったため、これはちょっと想定外。スズカが前を走ることによって、外側に膨らむことが出来ないようだ。
スズカとジュンによる通せんぼ状態となり、どうしようもなくなった僕は、インコースを丁寧に走りながら二人と一定の距離を保つ。
まだ諦めてはない。ここは我慢の時間。我慢はそこそこ得意なんだから。
偶然にもインコースを走ることになったジュンは、カーブから抜ける頃にはスズカとほぼ並んだ。
残るは最後の直線、十数メートルを競り勝った方が一番だ。
『カーブを抜けてスズカちゃんとジュンちゃんが横並び! マコトくんも頑張って!』
思わぬデッドヒートに、先生によるアナウンス実況に熱が入り、親御さんたちも固唾を飲んで見守っている。他の園児たちの「がんばれー」の声援の中に、「捲れ捲れ!」「そこだ差せ!」なんて大人の声まで聞こえて来る。
そしてアナウンスの最後。僕はもはや”ついで”感が漂っているがまぁしょうがない。僕としても二人のどちらが勝つかの方が楽しみだ。僕も最後まで全力で走るけどね?
……念のために言っておくが、これは幼稚園年少さんのかけっこの様子だ。
読んでいただきありがとうございます。
サブタイ書いててようやく50話、と思いましたが、インデックスは0始まりだったので前回で50話でした。そして連載を開始してから二ヵ月が経ちました。
おかげさまで、ここまで書き続けることができました。ありがとうございます。
今後も引き続き、スズカたちの成長を見守ってもらえると幸いです。
まぁ、こんなに物語の進みが遅いとは私も予想してはいませんでしたが…。
まだ双子生まれてないんですね…。20話目くらいで出せたらいいな、なんて思っていた頃が懐かしいですね。
改稿履歴
2020/12/17 20:55 サブタイトル変更




