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#004 天使との一日(午前の部)

長くなったので分割します。

「まーくん?」

「なに?」

「……」

「……」

「むふぅ」


 これが最近のスズカがお気に入りの遊び。

 僕を呼んで、黙ってじっと見つめて、最後に我慢できずに照れて抱き着いてくる遊び。

 我慢しているときに口端がぴくぴくと震えているのがわかる。


 正直言ってこれに何の意味があるのかは分からないが、可愛いので問題はない。可愛いは正義。


「まーくん?」

「ん?」

「むふぅ」


 何度やっても飽きることはないようだ。僕もない。可愛いは無限。

 ちなみに見つめる距離が短ければ短いほど、我慢できる時間が短くなる。今日も天使様は絶好調だった。


 スズカはきゃっきゃするような赤ん坊ではなく非常に大人しい。興味のあるものをじっと見つめ、観察しているタイプだ。

 それが今まさにその状況。

 僕が今遊んでいるおもちゃをじっと見つめている。


 丸や正方形、三角形などのブロックを穴に通すおもちゃ。正六面体の各面にそれぞれの形の穴があり、特定の形のところにしか入らないので、形状認識や空間認識が培われる……と思われる、幼児教育としてはよく見るやつ。


 なぜ僕がそれをやっているのかというと、


「すーちゃん、やる?」

「うん! やるぅ!」


 スズカにこのおもちゃをやらせてあげるためだ。

 どうもスズカは僕がやっていることに強く興味を示し、同じことをやりたがる。可愛いやつだ。


 僕からおもちゃを受け取ったスズカは、「うぅん、うぅん」と可愛らしく唸りながら、ブロックの中の鈴を鳴らす。そして全部のブロックを入れ終える。


「できた! まーくんできた!」

「よくできました、すーちゃんすごい! えらい!」

「むふぅ! むふぅ!」


 僕はスズカの頭を撫でると、スズカは僕の腹に抱き着いてくる。身長はほとんど変わらないので、座ってる僕を枕に寝ているような体勢になる。




 そうやって遊んでいると、スズカの様子が少しだけ変わる。もじもじしている感じに。


 察した僕は手元にあるベルを鳴らす。そうすると家事をしていたミオさんが顔を出す。


「あら、どうしたの?」

「まま、……おしっこ」

「よく言えたね~。えらいえらい。それじゃあ、おててつないで行こっか」

「うん」


 スズカが少しだけ恥ずかしそうに言う。


 全部はやってあげることはない。スズカが言い出しやすいように舞台を整えてあげるだけだ。赤ん坊にあれもこれもとしていると、何時まで経っても成長しないのだから。特にトイレは。


 戸塚家のトイレには、幼児の僕たちでも一人でトイレができるように、便器まで上がれるように踏み台と、落ちないように便座の幅を狭くするやつが合体したものが備え付けられている。いやぁ、世の中便利なものがある。

 ミオさんも使って……るわけはないよね。うん。当たり前だろ。誰だ今ちょっと考えたやつ? 正直に手上げな。


 もちろんそれがあれば僕も一人でできるが、スズカはまだ不安なようだ。まぁ確かに、便座っていざ座ると高さがあるもんね。足付かないし。

 なのでミオさんがサポートしながら練習中だったりする。


 すると終わったのか、トテトテと走ってくる天使――もといスズカ。相変わらず表情が薄いが何やら口元がぴくぴくしている。


「まーくん。あのね、ひとりでできた。おしっこ、ひとりでできたよ」

「おぉ! すーちゃん、えらいね! よくできました! これですーちゃんもトイレマスターだ!」

「むふぅ! といれましゅたー! むふぅ! すぅー、といれましゅたー!」

「こらまーくん。女の子になんて言葉言わせるの!」

「いたっ!」


 ミオさんから笑顔のデコピンを食らう。といっても痛くはない、愛のあるデコピン。

 母としてもスズカがトイレが一人でできるようになって嬉しいのだろう。僕とミオさんは一緒になってスズカを褒めまくった。


「すごい! すーちゃん! えらい!」

「頑張った! すーちゃん! えらい!」

「むふぅ! むふぅ! むふぅ!!」






「それじゃあ二人とも、お昼にしよっか」

「「うん!」」

「手洗ってきてね?」

「「はーい」」


 ミオさんに言われて、僕とスズカは洗面所に移動する。

 すでに僕たちは一人で手洗いうがいはできるようになっている。踏み台は必要だが。


「まーくん、みててぇ」

「うん、みてる」


 と言ったものの洗面所の踏み台は一人乗り。なので スズカがちゃんとできるかを踏み台の下から見る。落ちないようにフォローするのも忘れない。


 泡で出てくる石鹸をつけて、一生懸命に手を洗う姿はなんとも可愛らしい。

 スズカお気に入りのピンクのコップでうがいをし、踏み台を下りてくる。


「できたぁ」

「よくできました、えらいね、すーちゃん」

「むふぅ」


 僕はスズカに手と口を拭くようにタオルを渡す。いま抱き着かれると濡れる。


「まーくん、すぅーみてる!」

「うん、みてて」


 今度は僕が手を洗う。スズカはタオルを持って僕の姿を目に焼き付けている。なんかちょっと恥ずかしい。

 まぁ僕の手洗いうがいは誰も興味ないだろう。割愛する。


「まーくん、えらい」

「ありがと、すーちゃん」

「むふぅ」


 スズカが僕にタオルを渡してくれる。なんかアレっぽい。部活でマネージャーがタオル渡すやつ。手洗っただけだけど。二歳児だけど。


 リビングに戻ってきた僕とスズカは、いつもの席に着く。すでに食事は用意されていた。


 スズカの隣にミオさんが隣り合って座る。ミオさんはスズカのフォローをする。

 僕はミオさんの隣の辺?に座っている。一人で食べられるから。


 ちなみに箸はまだ持てない。手の機能が発達していないのか、手が小さくて指の間に箸を挟むだけのスペースができないのか、うまく持てない。握り箸ならできるが、それでは箸である必要がないので基本はスプーンだ。


「いただきます」

「「いたーだきます」」


 ミオさんの号令にあわせて僕とスズカがそれに続く。


 今日のお昼ご飯は、ごはん、小さめの唐揚げ、野菜、そしてスズカの好物ポテトサラダ。デザートはいつものように3人でミカン一つを分ける。

 いつも思うが、ミオさんの料理スキルは高い。赤ん坊の僕らのことを考えて、薄味になっているのが分かる。


 おいしかった。


「ごちそうさまでした」

「「ごちそーさまでした」」


 何事もなく昼食は終わる。

 スズカもだいぶ一人で食事ができるようになっているので、ミオさんも満足そうだ。


「ほんとまーくんがいて助かるわ~。この年頃になるといろいろと難しいって聞くけど……。まーくんがすーちゃんを見てくれるお陰で楽ちんだしすーちゃんも素直に育って……。ありがとねまーくん」

「どういたしまして」

「それにしても……、すーちゃんの方がお姉ちゃんなのに、まーくんの方がしっかりしてるのよねぇ……。ほんとにまだ二歳? 歳ごまかしたりしてない?」

「……うん、ぼくにさい……」


 バレてる? というか聞いちゃうの?


読んでいただきありがとうございます。


次回⇒#005「天使との一日(午後の部)」2020/10/15 21:00更新予定(サブタイは予告なく変わる可能性があります)


改稿履歴

2021/11/07 22:27 キャラクターの口調を微修正。

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[一言] イヤイヤ期前かな。可愛い
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