#047 習い事
本日2話目を投稿しています。ご注意ください。
前話が消化不良という方も居られるかと思いますので。
現在、八代家は戸塚家と合同で家族会議中だ。
と言っても会議をしているのは大人たちだけで、僕とスズカはじゃれて遊んでるだけだが。
議題は習い事。
夏休みに入ってからというもの、夏休みの宿題やお勉強ドリルをやったり、公園に遊びに行ったりという毎日を過ごしている。
が、やはり時間と体力を持て余し気味ということで、母上とミオさん、ミツヒサさんが頭を抱えながら、何をさせるべきかと悩んでいる。
今候補として上がっているのはピアノとスイミング、英会話教室。他にもそろばんや習字、学習塾、体操クラブといろいろと出たが、この3つまで絞り込まれた。
本当は全部やらせたいのだろうが、送迎だったり金銭的問題だったりと簡単には決められない。
それと夏休みの間だけなのか、それとも夏休みが終わっても続けていくのか。その辺りも悩みどころだった。
もういっそ幼稚園の夏季保育行けばいいんじゃないかなとも思うが、普段できないことを経験させたいとのことだった。スイミングについては、僕たちの元気の発散場所という目的だと思われるが。
すでに決まっていることと言えば――
「すーちゃん何がやりたい?」
「まーくんといっしょならなんでもやる」
というやり取りで、スズカと二人揃って通うことくらいか。やる気に満ち溢れられておられる。
「まーくんはやりたいこととかある?」
「えっと……」
……難しい質問だ。
スズカにとって何が良いのだろう。
将来を見据えれば英会話だろうか。
だが翻訳機の成長も早い。いやだからと言って勉強しないという答えにはならないが。
ピアノも捨てがたい。
脳の活性化や集中力を鍛えるのに良いというし、ピアノの発表会で着飾るスズカも見てみたい。
スイミングだっていい。
体力だってつくだろうし、水着姿のスズカは可愛いし。
決められない……。
黙り込む僕に対し、母上がいたずらを思いついた表情で問う。
「Makoto. What do you want to do?」
「I wan…………え、なんて?」
思わず答えそうになったが、慌てて誤魔化す。
まだお披露目するタイミングではない。
「まーくん英語好きだよね?」
……いや好きというよりも、今後のためというか何というか。
「お母さん、英会話番組録画して見てるの知ってるんだけど?」
……バレてた。
母上が出勤してから幼稚園に出るまでの間に勉強してたのに……。
まぁ堂々と録画予約してるし、録画一覧見ればわかるんだから当然と言えば当然なんだけど。
母上の驚く顔が見たかったんだけどなぁ。
「え、まーくん英語話せるの?」
「へぇ、すごいじゃないか! というか録画予約できるのかお前……?」
まだ話せるとは言ってないんだけど……。
そしてミツヒサさんの疑問については黙秘権を行使。できる三歳児がどこかにいても不思議じゃない。
「まーくん、正直に教えて?」
「えっと……」
「(すーちゃん、まーくんに教えて?って頼んで!)」
「(コクリ)。 まーくんおしえて?」
……母上とスズカにお願いされたら、もう正直に言うしかないよね?
「少しだけだよ?」
うん、少しだけ。英語にすると A little.
「まーくんの自己紹介聞きたいな」
「え? うん……」
ニコニコと母上が聞いてくるので――
「My name is Makoto Yashiro. I'm three years old. I go to Hinomori kindergarten. I play with building blocks as a hobby……」
こんな感じだろうか。
「……まーくん、これ英語で何て言うかわかる?」
「Table」
「こっちは?」
「Chair」
「じゃあこっち」
「Cabinet」
「最後にこれは?」
「Pear」
「「「…………」」」
「……?」
大人たちは言葉を失い、スズカは聞いたこともない言葉にポカンとしている。
……やってしまったかもしれない。母上が嬉しそうなのでついつい調子に乗ってしまった。
「はいちょっと大人集合」
ミオさんがミツヒサさんと母上をちょいちょいと手招きし、口元を隠して話し始める。だがその内容は丸聞こえだ。
「ねぇアカリ。まーくんの英語力どうなってるの?」
「私もここまでとは想定していなかったというか……」
「で、最後の”梨”ってぺア?で正解なの? みーくんは知ってる?」
「今調べたけど、合ってたよ」
「…………」
いやでも本場の三歳児だってこれくらいは……
「まーくんがなにいってるのかわかんないの……」
スズカがきゅっと僕の服の裾を掴んで、寂しそうな表情に……。
かっ、可愛いとか思ったらいけない場面だよね。
「すーちゃん、まーくんが何言ってるか知りたい?」
「うん」
「まーくんは英語って言葉を話してたんだけど、勉強してみる?」
「すーもえーごはなす!」
「英会話教室ってところで勉強できるけど行ってみる?」
「うん、いく」
とんとん拍子に話が進んでいく。
まぁ小さいころから英語に触れる機会があるのは良いことだよね。
「ところでマコトは英会話教室に通う必要あるのか?」
「「…………」」
ミツヒサさんの何気ない疑問に、母親たちが僕の顔を見て固まる。
いやまぁ、簡単な日常会話くらいなら何とかなるだろうけど、やっぱりちゃんと誰かに習った方がいいと思うんだ。
It would be impudent to say that I can speak English at my current level:-(
「まい、ねいむ、いず……」
「……まーくんわざとらしいわよ?」
「うっ……」
どないせいっちゅうねん。
「すーちゃん、まーくんに英語教えてもらう?」
「うん! ――まーくん、よろしくおねがいします」
「え、うん……」
スズカにお願いされて思わず頷いてしまったけど、さすがに教えるのは……。
「和英辞典が欲しい……」
「「「…………」」」
ポロっと出てしまった僕のつぶやきに反応する親たち。三歳児が和英辞典なんて知らないよね。黙秘権!
というわけで、習い事候補から英会話教室が脱落。
「もうさ、習い事は”まーくん”でいいんじゃない?」
「そうしてみるか。マコト頼んだぞ」
「まーくん頑張ってね」
……え、嘘だよね?
その後、小一時間ほど会議は続き、夏休みの間だけピアノ教室とスイミング教室に通うことになりました。
そして”まーくんの英会話塾”。
生徒はスズカとミオさん。時々ハルコおばあ様とミツヒサさんと母上。
”まーくんの”って付いてるけど、家で一緒に録画した英会話番組や、いつも見てるアニメ映画の字幕版を見たりするくらいなんだけどね。
読んでいただきありがとうございます。
習い事の様子を書くかどうかは考えていません。
スイミングは幼稚園のプールと被るし、ピアノはどうせ二人で一緒の椅子に座って練習しているくらいかと。
英文間違ってたら誤字脱字でこそっと知らせてもらえると助かります。
マコトができる前世知識チートは、今回の話のような基礎学力の先取りと大人の対応、その他くらいだと思ってもらえると幸いです。
改稿履歴
2021/01/11 03:31 Pearという単語について、アカリは知っている形に会話を修正しました。




