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【旧】転生先が現代日本人ってふざけんなっ! って思ったけどそれが普通だし案外充実してる  作者: せん
幼稚園年少

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#045 願い事

 七夕物語。


 いちゃいちゃして仕事をほっぽり出した織姫と彦星が、罰として天の川を隔てて引き離され、お情けで一年に一度、夜の間だけ逢瀬を許された日。


 とまぁ、リコ先生が読み上げる紙芝居を要約するとそんな感じだろうか。


 好きな人と一緒にいたいなら仕事やら勉強(やること)やれよ、という教訓と捉えることもできるだろう。


 大丈夫、()()僕は幼稚園児。やらねばならないことは幼稚園に通うことだ。問題ない。


 ……だからスズカよ、ちょっとだけ抱き着く力を緩めてもらえないだろうか。息が苦しいんだが。お星さまになっちゃう。



 というわけで、今日は七夕だ。

 お昼のデザートでは星や月の形をしたフルーツが入った七夕ゼリーを食し、天の川を見立てて並べた布団を飛び越えたりして遊んだが、やはり七夕にはこれをやらねば。


 笹飾り。


 折り紙を切り貼りして飾りつけをするのはもちろんのこと、願い事を短冊に(したた)め飾る。


 みんな一生懸命に願い事を考えながら、覚えて間もないひらがなを短冊に書いている。文字が上手く書けない子は、先生に書いてもらったひらがなをお手本にしながら。


 さて、どんな願いを書こうか。


 配られた短冊は2枚。

 つまり二つお願いごとを書かなければならない。


 できれば子どもらしい願いを書きたいのだが、子どもらしい願いとは何だろうか。


 早く大人(物理)になりたい、とかか?

 確かに早く大きくなって母上の力になりたいという思いはあるが、願ってどうにかなるものでもない。そっちは自分でどうにかするしかないだろう。


 それに、もう少しこの平穏な毎日を堪能したいというのもある。

 成長すれば、きっとスズカと一緒にいられる時間は減るだろうし、抱き着いてくれることも減る……減るかな?


 僕は隣で短冊に向かうスズカを見る。

 ぼーっとした様子で、何を書こうかと悩んでいるであろうスズカ。……両手に鉛筆持ってるけど、もしかして両手でそれぞれ書く気なのだろうか。


「――かけたよ!」


 固まっているスズカを他所に、早くもお願い事を書き上げたのはしほちゃん。短冊を見せてくれる。

 幼稚園児らしい筆跡だ。頑張って書いたのがわかる。余白にはお星さまが描かれていて可愛らしい。

 そしてその願いは――

 

 ”おりひめさまと ひこぼしさまが あえますように”


「えっとね、おりひめさまとひこぼしさまね、ちょっとしかあえないからかわいそうなの……」

「しほちゃん……」


 なんて純粋な子なんや……。これは応援するしかないだろう。

 

「会えるといいね」

「うん!」


 にぱぁと笑顔を見せてくれるしほちゃん。

 JA◯Aあたりに頼めばどうにかならないかな。無理か。


「もう一枚は、なんて書いたの?」

「けーきやさん!」


 うん、しほちゃんって立派に幼稚園の女の子やってるよね。

 願わくば、このまま純粋なまま育っておくれ。やれあの女がどうとか、この女が妬ましいとか給湯室で語り合うような人には……。



「どうしたジュン?」


 遠い目をしているであろう僕の目の前でそわそわしている子が一人。


「オレのはみないのか?」

「うん大丈夫」

「しょーがねーな! オレはこれだ!」

「大丈夫なんだけど……」


 日本語って難しいよね。

 ジュンがドヤ顔で短冊を見せびらかしてくる。そこには――


 ”かーちゃんにかつ!”


「かーちゃんなのか?」

「あぁ!」

「とーちゃんやにーちゃんではなく?」

「かーちゃんがいちばんつよいからな!」


 今井家の力関係がはっきりしたね。母は強し。女は強し。


 で、もう一枚は……。


 ”ひめたちからをてにいれる”


 これは、兄上(マスミ)殿の影響か?

 これ以上は問わないでおこう。ジュンはもう深淵に足を踏み入れてしまっているのかもしれない。



 気を取り直して、今日は元気に幼稚園に来ているユウマ。

 将来イケメンになりそうなこの幼稚園男児はどんな願いを書くんだろうか。


「ユウマはなんて書いたんだ?」

「ボクはこれ」


 ”ようちえんに まいにちいく”


 ”おとうさんみたいになりたい”


 ユウマも大概いい子だよね。お父さんもこれ見たら目頭熱くなるよ。


「……ユウマ、応援してる」

「うん! ありがと!」


 しほちゃんに続き、純粋な子や……。



「すーちゃん書けた?」

「うん」


 スズカは満足気に短冊を見せて来る。


 ”まーくん()いっしょ”


 ス、スズカ!

 もう一枚は――


 ”まーくん()いっしょ”


 …………おや?

 あぁ、一瞬同じ内容かと思ったが、よく見たら助詞が違った。


 いやぁ、愛されてるね、まーくん。

 そして、まーくんは僕。

 ……ふへっ。


 しかしこの二枚、どう違ってくるんだろうか。


「すーちゃん、こっち(との方)ってどういう意味なの?」

「……まーくんといっしょにいたい」


 スズカがいつもと変わらない表情で淡々と言う。

 面と向かって言われると照れるね。顔がにやけそうになるが、まだ質問は終わっていない。落ち着け。


「じゃあこっち(がの方)は……?」

「……まーくんがいっしょにいたいってかんがえる」


 ふむ、僕がスズカと一緒にいたいと考えていて欲しい、ということか。


 ……。


「…………………………むふぅ」


 スズカは口元をにまにまさせるが、我慢できなくなったのか、表情を見られたくないと言わんばかりに僕のお腹に顔をうずめて抱き着いてくる。


 ……もちろん考えてる。スズカが可愛過ぎてツラい。




「……まーくんのもみせて」


 表情が戻ったスズカが聞いてくる。

 しほちゃんやジュン、ユウマにその他の子たちもわらわらと。


 いや、大した願い書いてないし、そんなに興味をそそられるものでもないしょ……って先生方まで!?


 というかなんかスズカのを見た後に見せ辛い……。

 だって――


 ”みんながえがおですごせますように”


 ”にほんがげんきになりますように”


 ……普通過ぎて申し訳ないんだって。








***



「りこせんせーはなんてかいたのー?」


 子どもの一人が聞く。


「みんなが元気でいられますように、かな」


 リコは笑顔で園児の頭を撫でながら答える。

 そしてもう一つの短冊には――


 ”この子たちと一緒に、成長できますように”


 先生として成長したいという願いが込められていた。

 そこに深い意味はない。

読んでいただきありがとうございます。


次回の話は糖度がないかもしれません。補給はお早めに…

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― 新着の感想 ―
[一言] 幼稚園で教わって驚いた、七夕に関する雑学をひとつ。 七夕は、遊んでばかりで働かなくなった織姫と彦星を戒め、働くことを条件に年に一度だけ再会することが許された「七夕伝説」をもとに、技芸の上達…
[気になる点] じゃくさよりもなさにたのんだほうがいいとおもいました
[一言] (๑╹ω╹๑ )先生のアレはもう成長しないと思います?
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