#041 授業参観(下)
遅くなり申し訳ありません。
授業参観をどう終わらせようか全く思いつかず…。
授業参観。
ばら組は何事もなくその過程を消化していく。
チラチラと親を気にしながらも朝の会を終えたばら組。
最初の授業はひらがなのお勉強。
黒板に張られた50音表を先生が指さしながら、「あいうえお」「かきくけこ」「さしすせそ」……とみんなでそろって発音練習。
歌を歌うように音で覚えたものを口にだしているだけの子もいる。ま行あたりからちょっと声が小さくなるのはご愛敬か。
その後、先生が作ったオリジナルのプリントを使ってひらがなを書く練習をする。
机について黙々と勉強する子どもの姿に、何人かの親は驚いているようだった。
「まーくんできた」
「さすがすーちゃん」
「しほもできたー」
「しーちゃんもよくできました」
「えへへ~」
良いところを見せようと普段以上に頑張る子もいれば――
「ジュン、調子悪いのか?」
「……かーちゃんこっちみてないか?」
「……見てる。すっごい見てるよ」
「……」
親の視線にビビりながら普段以上に頑張る子もいるようだった。
お勉強の次はちょっとした遊び。
折り紙で動物の顔を折ってクレヨンで目や鼻を描く。そしてスズカが作った作品にシホは首を傾げる。
「すーちゃん、それなぁに?」
「ちゃしぶ」
「?」
「ちゃしぶ」
「??」
「ちゃし――」
他には紙飛行機を作って模様を描き、外へ出て実際に飛ばして遊んだり。
「ユウマの紙飛行機よく飛ぶね」
「うん、おとうさんがいってた。うしろをこうやるといいって」
「なるほどなるほど」
ユウマは紙飛行機の後ろを少し跳ね上がるように曲げ、マコトもそれを真似するように自分の紙飛行機に手を加える。
「まことー、ゆーまー、どっちがとーくにとばせるかしょーぶしよーぜ!」
「うん、いいよ!」
作った紙飛行機を手に、ジュンがマコトとユウマに声をかける。
ジュンは力いっぱい投げるが、地面へと急降下し墜落。反対にマコトとユウマの紙飛行機はすーっと滑るように飛んでいく。
「つぎはほんきだす!」
そう言ってジュンは勝手にマコトとユウマの紙飛行機も回収しに走る。
子どもたちは紙飛行機がくしゃくしゃになるまで、紙飛行機を追いかけ走り回った。
最後は体育館でマット運動。
四か所に別れ並んだ子どもたちが、順番に次々とでんぐり返しを繰り返していく。苦手な子は先生の補助を受けながら、体に動きを覚え込ませていく。
「まーくんに、どーん……」
「すーちゃん早いよ」
お手本のようにマットの隅まで転がり終えたマコトに、後ろから追いついてきたスズカが抱き着いてくる。先生たちもいつものアレかとすでに他の子へと視線を移す。
「……む、ふぅ……」
「大丈夫?」
「ぉー……まーくんが……ぐるぐるー」
目が回ってマコトを掴んだままコテッっと尻もちをつくスズカ。
マコトはとりあえず後続の邪魔にならないようスズカを移動させ、そのまま電車ごっこで肩に手を乗せさせてスタート地点まで戻ってくる。
「すーちゃん着いたよ?」
「まだぐるぐるー………………むふぅ」
(なんか視線をすごい感じる……)
授業が終わればマットの両端を持ってみんなで協力してお片づけ。
ほとんど先生が持ち上げ、子どもたちは紐を掴んでいるだけではあったが。
幼稚園に通い始めて2ヵ月と少し。
楽しそうに幼稚園生活を送る我が子の姿を、親たちは少し離れたところから見守る。
「良いクラスですよね」
「そうですね。子どもたちもみんな仲良さそうです」
マユミとアカリは先生方の指示を素直に聞く子どもたちに感心する。
ちょっと元気すぎる子もいるが、良いムードメーカー的な存在というレベルに収まっている。
吉倉夫妻や今井早苗とも挨拶を交わしたが、良心的な親御さん方でアカリたちも一安心だった。
「ヒナちゃんが年少さんだった頃はどうだったんですか?」
「こんなに平和ではなかったですよ。もっと大変そうでした」
「そうなんですか?」
「ええ。ここは躾をしっかりしてくれはしますが、それでもやっぱり年少さんですから」
ミオの質問に、マユミはシホの二学年上にいる姉――陽菜が年少の時の授業参観を思い出す。
「ちょっとしたことで喧嘩になってしまったり、突然泣き出してしまって、それが他の子にも伝播していって……。先生方もなだめるのに苦労されてました」
「そうだったんですか……?」
「ええ、親が見ていて普段と違う環境で落ち着かない子も結構……。そこに親御さんが口を挟んだりしてクラスのムードが険悪になってしまって、さらに子どもが泣き出しちゃったり……」
マユミの疲れた表情に、アカリとミオはその光景を思い浮かべ苦笑いをするしかなかった。
「それに比べて今年のばら組は上手くコントロールされてますよね。さすがセイコ先生のクラスですよね」
陽ノ森幼稚園でもベテラン中のベテランであるセイコは、保護者達の間でも評判だった。ヒナの授業参観のこともあり、マユミもシホの担任にセイコの名前があってホッとしたとかしないとか。
「それに、マコトくんが頑張ってますよね」
「そうですよね。まーくんはなんというか……」
「”セイコ先生の手先”って感じですよね」
「ぷっ……」
微笑ましそうにするマユミと、お腹を抱えて口元を抑えるミオ。
お腹の子に障ったのかと後ろでミツヒサが心配そうにするが、ミオはそれを手で制する。ただツボに入っただけのようだった。
確かに見ていると、マコトは特に目立ったり問題を起している様子は見受けられないが、セイコや副担任のリコと会話をする回数が多いように感じる。
アカリは息子のそんな評価に、誇らしいやら何やら。
「はぁ、はぁ……。まーくんが賢い人気者ってことだって。素直に喜べばいいんじゃない?」
「うん、そうね……」
アカリはそんな我が子を眺めていると、ふと顔を上げたマコトと視線がぶつかる。気付いたマコトが小さく手を振る姿に、アカリも相好を崩して小さく手を振り返した。
親たちは子どもたちの成長をこの目で見て、嬉しく思いながら、ばら組の初めての授業参観は平和に幕を閉じた。
読んでいただきありがとうございます。
続き(直後)の話が思いつかない時って、やたらと別の話が出てきて邪魔をするんですよね…。




