#037 豆の力
幼稚園というのは予想以上にイベントが多い。
ついこの間山を登ったと思ったら、今度は畑。
ということで、今日は農業体験だ。
体操服に着替えて、幼稚園の近くに畑を持っている農家さんのさつま芋畑にお邪魔している。
すでに畝は整えられ、等間隔に苗が置かれており、僕たちは先生たちに連れられて苗の前にスタンバイ。
そして先生からの指示が飛ぶ。
「10センチくらい――みんなのパーの手の大きさくらいまで土を掘ってくださ~い」
子どもたちがパーの形に開いた手を掲げて、みんなで深さを確認。
スコップは無いので素手で掘っていく。
「とぅっ! お、はまった! まこと、はまったぞ!」
左隣のジュンは豪快に畝に手を突き刺してはしゃいでいる。いや掘るんだよ?
反対側のスズカ、その向こうのしほちゃんは、うんしょうんしょと真面目に穴を掘る。砂場での特訓が生きてるね。
「まーくんできた」
「上手にできたね。完璧だよ」
「しほもできたー」
「しーちゃんも上手上手!」
「えへへ~」
満足そうな顔のスズカと、ニコニコ笑顔のしほちゃん。癒される。
それに対して。
「まこと! どうだ!」
「……掘り過ぎだよ」
「えぇ~~」
手の平の大きさだというのに、掘れるところまで掘ったジュン。それだと苗が完全に埋まるんだけど。畝も崩壊しかけてるじゃないか。
僕も手伝ってなんとか土を戻させる。
「次は苗を穴の真ん中から寝かせてあげてくださ~い。そしたら土をかぶせてあげます」
苗を畝と平行になるように寝かせて土をかぶせてあげる。
隣でスズカとしほちゃんが小さな手でパンパンと叩いて埋めている。あぁ、癒される。
「まこと! どうだ!」
「……うん、頑張ったね……」
なんかジュンのところだけ一段下がってる気がするけど、問題があれば後で大人がどうにかしてくれるだろう。
「最後にお芋さんにたっぷりとお水をあげてくださ~い」
そして小さな如雨露で水やり。
「「「おおきくなぁれ~、おおきくなぁれ~」」」
畑は今日も平和だ。
ジュンのところだけ水しみ込んで行かず溜まったままだけど……。
そして午後。
今度はひたすらそら豆を剥いてる。
茎のまま置かれているものを手に取り、莢をもぎ取って剥く。
「まことー! どっちがたくさんできるかしょーぶしよーぜー!」
「100個持ってきたら受けるよ」
「わかった! まってろ!!」
ジュンは相変わらず勝負好きだね。適当に言ってしまったけど100まで数えられるのか……?
そんな僕の心配をよそに黙々と剥き始めるのでとりあえず放置。
「まーくん、じょーずにできない……」
すると、スズカが莢を手に助けを求めて来る。
頑張って裂け目に爪を入れようとしたが、上手にできず滑った跡が見える。小さな手だとなかなか難しいよね。
「こうやれば簡単にできるよ」
僕はそら豆のを両端を掴んで、雑巾を絞るようにねじる。そうすると半ばから裂け、豆がポロリと落ちてくる。あとは裂け目を指を広げて、残りの豆を取り出す。
「おぉー。まーくんすごい」
尊敬のまなざしで見つめられる。うむ、悪くない。
スズカは僕に言われたとおりに莢を捻る。すると簡単に莢が裂け、豆がポロリと落ちて来る。
「できたー」
「上手上手!」
その後もスズカは僕の隣にぴったりとくっつきながら黙々と剥いていく。ちょっと作業がし辛い……。ちょっと横にずれると、スズカはそれに付いてくるように座り直す。
「すーちゃん、近くない?」
「……?」
「まぁ、いいんだけどね?」
最近距離がちょっと近いんだけど、どうしたんだろ?
剥いたそら豆は、新鮮なうちに先生が湯がく。
そうして出来上がったそら豆は、紙皿に乗せられ子どもたちに配られる。おやつだ。
パクパクと食べだす園児たち。一部苦手そうな顔している子もいるけど頑張って食べている。
そんなに野菜好きだっけ?という勢いで食べているが、自分たちで何かした野菜は別なのかもしれない。
だがここに食べようとしない子が。
「あれ、ジュンは食べないの?」
どっちが沢山食べられるか勝負!とか言い出しそうなのに、一向に手を付けようとしない。
「まめくったらおなかからはえてくるって……」
「「!?」」
黙々とそら豆を食べていたスズカとしほちゃんがピシッと固まる。
おい、なんてことを! しほちゃんが不安そうな顔に。
「それ誰に教えてもらった?」
「こーにーちゃん……」
今度はコウさんか……。
「生えてこないからね?」
「ほんとーか?」
「うん、ほんとほんと」
「んーーーーー」
そら豆とにらめっこを続けるジュン。
あぁ、そういえば。
「ジュンは大福好きだったよね?」
「おう! あのびよ~~んだろ。10こくえるぜ」
それは食いすぎじゃないか?
「大福の中の甘いのも豆だよ?」
「!?」
バッと体操服をまくり上げお腹を確認するジュン。はしたないですよー。
「ね? 生えてきてないでしょ?」
「「「…………」」」
ジュンだけでなくスズカとしほちゃんもジュンのお腹をガン見。そしてペタペタと触る。触ってわかるものなのか?
「みんなも食べてるし大丈夫だよ。ほら、ジュンも食べてみようよ」
ジュンは恐る恐るそら豆を手にして、口の中に放り込む。
そしてカッと目を見開き――
「……おぉ、うめぇなこれ!」
気に入ってくれたようだ。豆への恐怖心?もなくなったようで、次から次へと口にしていく。
その姿を見て、スズカもしほちゃんも再び食べ始める。
「まこと! どっちがたくさんくえるかしょーぶしよーぜ!」
「ゆっくり味わって食べようよ」
「えぇ~~」
そら豆中毒って知ってる?
まぁ、日本人はあまり気にすることでもないらしいけど。
それより単純に食べ過ぎてお腹を壊す方が心配だ。
「……食べ過ぎるとお腹から生えて来るかもよ?」
「「「!?」」」
あ、やべ……。どうしよう……。
読んでいただきありがとうございます。
次回は誕生日回になるかと思います。
最近話の作り方がわからなく…。いえ、最初からですが…。




