#028 空飛ぶ円盤
公園なう。
古い? いやまだまだ現役。超バズってる。おっとこれは先取り過ぎ。
スズカとミツヒサさんと僕で遊びに来ている。
ミツヒサさんはゲームをやろうとしたみたいだけどね。
「マコト。ゲームしようか」
「……ゲーム?」
「あぁ、ボウリ――――」
「パパこーえんいく」
「よし、公園に行くか」
「……」
スズカの一声であっさり変更。もちろん異論はない。
僕は家に一旦帰ってジャージに着替える。
戸塚家に戻ってくればミツヒサさんとスズカもジャージに。帽子も忘れずにね。
「よし行くか」
「おー」
「うん」
スズカが抑揚のない返事と共に両腕を上げる。
ちなみにミオさんと母上は夕飯の買い出し。
今日は戸塚家と一緒に晩餐のようだ。GWも終盤ということでちょっとした御馳走を用意するとのこと。楽しみだね。
そういうわけで、僕たちはミツヒサさんの運転する車で10分ほどの距離にある緑地公園まで来ている。
近所の公園はGWということもあってちょっと人口密度が高かった。
緑地公園もいつもより人は多いが、広いので遊んでいるグループ間の距離も十分に開いている。
そして芝生を踏みしめる感触が面白い。
さて、今日は何して遊ぶのか。
答えはスズカが帽子をかぶるように両手で頭の上に乗せているやつ。
ドッヂビー。
皆さんご存じ柔らかいフリスビー。スズカが好きそうな水色とピンクの。
今まではビニールボールを投げたり蹴ったりして遊んでいたが、ちょっと新しい風をということらしい。
「すー、投げてみようか」
「……なげる?」
スズカはドッヂビーを手に首をかしげている。
うん、やっぱり初めてのようだ。ドッヂビー汚れとか全くないからね。
「パパがお手本見せるから貸してくれるかい?」
「……ん!」
スズカがミツヒサさんにドッヂビーを渡す。
「マコト、すこし離れてくれ」
「うん、わかった」
僕は言われるまま距離を取り、10メートル手前くらいでストップがかかる。
「よし、マコトいくぞ!」
「――ばっちこーい!」
ミツヒサさんが僕でも取りやすいようにスピードが乗らないように注意して投げる。
「……おーーーー!?」
山なりだが空中を滑るように移動する円盤に、スズカが興奮しておられる。
いつもの眠たげな目が少しばかり見開かれ輝いている……と思われる。僕の位置からはよく見えないが、当たらずとも遠からずのはず。
僕はほぼ正面に飛んできたドッヂビーをちょっと後ろに下がりつつ、胸の位置まで下りてきたところで上下に挟み込むようにキャッチする。
「――……よし投げ返してこい!」
「――うん!」
思ったよりディスクが大きい。確認するように二、三回投げる動作の練習。
そして腕を振り抜いてドッヂビーを投げる。
「……おーーーー!」
綺麗に放たれたディスクは、ミツヒサさんが3歩ほど横にずれて中腰でキャッチ。
うん、あと二、三回も投げればコントロール感覚はどうにかなりそう。
だがパワーが足りない。結構力いっぱい投げたつもりだったがギリギリだ。力が欲しい。
そしてなぜだろう。ミツヒサさんが首をかしげている。
なかなかうまく投げられたと思うんだけど。
「こんな感じに投げて遊ぶんだよ」
「……すーもやる!」
そう言ってスズカがミツヒサさんからドッヂビーを受け取る。
ミツヒサさんはスズカに投げ方のレクチャーをする傍ら、僕に問いかける。
「……マコト、ドッヂビーやったことあるか?」
「ううん、初めてだよ?」
「フリスビーは?」
「……ううん、ないけど」
「そうか、やはりいつものやつか」
「……?」
どうやら上手く投げ過ぎた。
スズカの反応が可愛くて完全に失念してた。うっかり。
ミツヒサさんは慣れた様子?で納得する。
こういう場合問いただされても惚け倒すからね。子どもって便利。
だが最近、戸塚夫妻と母上からの「できるかわからんけど、マコトならたぶんできるだろ。できなくても一回見せれば……」という雰囲気が。
親しい間柄だとついつい擬態がおろそかに。
え? 外でもできてない? いやそんなはずは……。
気を取り直してスズカの練習。
スズカが何度か試しに投げては、僕が走って取りに行く。
スズカの忠犬マコトです。
20分ほど練習をした。練習するたびに飛距離が伸びていくので取りに行くのも疲れた。
だが気分は悪くない。
運動能力は遺伝しないと言うが、戸塚家は全員動けるタイプだ。
ミツヒサさんは大学まで運動部だったそうだし、ミオさんもなんだかんだで得意だ。スズカも普段ぼーっとしているが、体を動かすのは好きらしい。体の動かし方を覚えるのも早い。
ちなみに我が母上は運動音痴ではないが得意ということもない。あくまで人並。
そして僕も可もなく不可もなく。いや、これからの頑張り次第か。
スズカも投げれるようになったところで、レッツ・ドッヂビー。
しかし思っていた遊びとちょっと違った。
てっきり三人でキャッチボール的なのが始まると思っていた。
「パパなげて」
スズカはミツヒサさんの真横にスタンバイ。ドッヂビーを掲げてミツヒサさんに渡す姿が可愛い。
「……どこに?」
ミツヒサさんはドッヂビーを受け取るが、投げる先がわからず固まる。
僕も分からず視線を明後日の方向に固定。
「すーもまーくんみたいにはしる」
なるほど。
どうもスズカは投げる練習中、僕が走って取りに行って戻ってくるというのが面白そうに見えたらしい。
てっきり練習が楽しそうだったので、投げたドッヂビーを僕が拾ってくるというのが面白かったのかと。
うん、違うようでなんか安心した。
ミツヒサさんも理解したようで、ふわりと軽めにドッヂビーを放り、それを追うようにスズカが走り出す。
空中でキャッチすることはできなかったが、スズカは落ちたドッヂビーに追いつき、そして拾って戻ってくる。
その姿が可愛くて、投げたミツヒサさんの横でその様子を眺めていたのだが。
「……まーくんもいっしょにおいかける」
「だ、そうだ。マコト走れ!」
「え……」
戻ってきた天使が僕に詰め寄り、愛娘の希望に全力で乗っかる父親。ミツヒサさんの笑顔が黒く見えるのは気のせいか?
スズカの練習中に散々やったのでもう満足……というか疲れたんだけど。
しかしスズカのお願いを断れるはずもなく。
そういうわけで僕はスズカと一緒に走る。
僕はドッヂビーを追うというよりは、ドッヂビーを見ながら走るスズカのサポート。ちょっと危なっかしくて怖いが可愛い。口が半開き。
「すー頑張れ~!」
ミツヒサさんの声援に応えるように、スズカが抱き着くようにドッヂビーをキャッチ。そのまま地面を転がる。
「……すーちゃん大丈夫!?」
「……とった!」
スズカは何事もなく起き上がり、ドッヂビーを頭上に掲げる。
地面が芝生で大したことはなさそうだった。
「すーちゃんやったね!」
「むふぅ!」
僕はスズカの帽子やら服やらにくっついた芝を取り払ってあげると、スズカが抱き着いてくる。
「マコトー! 早く戻ってこーい!」
ミツヒサさんから声がかかる。
ちょっとくらい休憩時間をくれても……。
この後ミツヒサさんの携帯電話に「そろそろ帰って来て」とミオさんから連絡が来るまで遊んだ。
スズカもドッヂビーが気に入ったみたいで、帰りの車の中でもドッヂビーを手に持っている。
僕も楽しかったけど、次から投げ合って遊びたい。
……お腹すいた。
読んでいただきありがとうございます。
そろそろ話、というか時を進めていかないと想像以上に長い作品に…
と言いながら次回は晩餐の予定。最後ではないです。まだ一行も書けてないですが…
でもなんだかんだで長くなりそうです。申し訳ないです。
改稿履歴
2020/11/08 21:30 ×ドッチビー→◯ドッヂビー
2020/11/14 15:02 #031に伴い時代背景を修正。




