#022 先生のつぶやき(後)
この話を投稿するにあたって、#020のリコ先生との帰りの挨拶を少しばかり変えさせてもらいました。
サブタイトルも変えるかもしれません。(#021も合わせて)
朝の会。
マコトくんの姿を探すと集まっている後ろの隅っこに。そういえば集合写真でも隅っこ座っていましたね。どうやら隅っこが好きなようです。
視界の端でマコトくんの姿を見ていますが、静かに聞いてくれています。
でも、なんとなく朝礼で教頭先生の長話を聞く男性教員の姿とかぶって見えてしまうのはどうしてでしょうか。
午前の保育時間。
今日は新聞紙を破って長くする遊びをします。
マコトくんは礼儀正しく新聞紙を貰っていきます。
その後に続く子たちもマコトくんを真似てお礼を言ってくれます。マコトくんの何気ない活躍が見えます。
ここで問題が発生しました。
新聞紙遊びに飽きてしまった男の子が走り出してしまい、それに釣られた子が一緒になります。
そのせいで、遊んでいた新聞紙が踏まれてぐちゃぐちゃになってしまいました。
私とセイコ先生は走り回っている男の子たちを落ち着かせます。
セイコ先生が男の子を注意をしている間、私は他の子たちのフォローを。
……と思ったら、マコトくんが何かし始めました。
スズカちゃんとシホちゃんに向けてやっていますが、他の子たちもその様子をじっと見ています。
「「まーくん、すごい!」」
紙を破って元通りにするマジックでした。
種は見え見えで本当のマジックにはほど遠いかもしれませんが、子どもたちは大喜びです。
泣き出してしまう子が一人だけいましたが、その子もマコトくんのマジックを見ると、泣き止み目を輝かせていました。
叱られている男の子たちも、その騒ぎが気になってしまってしょうがないようです。悪いことできませんね。
しかしスズカちゃんがマジックで使った新聞紙を受け取り、再びビリビリと破っていきます。
「……もう一回」
先ほどは華麗な手段で切り抜けたマコトくんですが、これにはどう対応するのでしょうか。手元に破れていない新聞紙は残っていません。後学のためにぜび拝見させていただきたく。
どうしようかときょろきょろと周りを見たマコトくんは、私と目が合うと駆け寄ってきました。
「……先生お願いします」
「!?」
ちょっと待ってくださいっ! 丸投げですか!?
無茶ぶりにもほどがあります。私は先生であってマジシャンではないんです!
……。
ですが私は幼稚園の先生。子どもたちの期待には応えなくては!
……。
……。
……どうしましょうか。
とりあえず余っている新聞紙は手元にあるのでマコトくんと同じマジックをしてみます。
「「「リコせんせー、すごーい!!」」」
絶賛されました。
これを機に子どもたちからの尊敬度が上がった気がします。
この日を境に、私は家でマジックの練習をするようになりました。
一日の折り返し地点の給食。
マコトくんの食事はすごく綺麗です。箸の持ち方や食べる順番、口の周りもほとんど汚すこともなく、文句の付け所がありません。
好き嫌いは多少あるようですが、頑張って食べています。
そしてシホちゃんに箸の持ち方を教えてます。優しい子ですね。
スズカちゃんにも。
あれ、スズカちゃんはすでに箸を使えていたような……。
もしかしてマコトくんがシホちゃんばっかりに構ったばっかりに嫉妬してしまったのでしょうか。微笑ましいですね。できれば修羅場は幼稚園を卒業してからにしてほしいと思います。
マコトくんならどうにかしてしまいそうですが。
お昼寝。
特に何もありませんでした。マコトくんは隅っこに陣取ってます。
スズカちゃんに抱き着かれて幸せそうでした。
午後の保育時間。
今日は砂場の日です。子どもたちのテンションは最高潮ですが、なぜか荒れそうな雰囲気は感じません。
砂場では道具や場所の取り合いで喧嘩になってしまうことが度々あるのですが、このクラスは一度あっただけでそれ以降は見てません。
その理由はある日のこと。
男の子たちがバケツを取り合って喧嘩が起こり、喧嘩が喧嘩を呼んで大事になってしまったのですが、その時マコトくんは何もしなかったんです。
ただ隅っこで座っているだけです。スズカちゃんが遊ぶ姿を見ているだけでした。
スズカちゃんや他の子どもたちが「今日は何も作ってくれないの?」とマコトくんに聞いたそうです。
「……喧嘩してるから作れない」
その言葉を聞いた子どもたちは、その日以降、喧嘩をすることが目に見えて少なくなりました。
そうですよね。自分たちが喧嘩してるせいで楽しみにしてることがなくなるのは嫌ですもんね。
喧嘩になりそうになると他の子がマコトくんをチラチラと見るようになったり、喧嘩の仲裁に入る子が出てきたり。
まだまだ上手く感情をコントロールできるわけではないので喧嘩はなくなりませんが、喧嘩は”嫌なもの”という認識がすでにでき始めているようですね。
調査報告。
マコトくんの言動を見る限り、自らみんなの中心に居たいと思う子ではありません。
隅っこの方で自分の好きなことをして遊んでいるタイプの子です。
しかしながら、マコトくんのやること成すことにみんな興味津々で、いつの間にかみんなの中心になっている子です。
当の本人は意識していないようですが、マコトくんの言動がクラスみんなの成長に一役買っているのではないでしょうか。
彼のお陰?で制御しやすいクラスということでしたが、先生として学ぶことは多いクラスになりそうだと思いました。
ただ、マコトくんは子どもらしからぬ言動が目立つので、どう対応すれば良いのか……。
「リコせんせー、さよーなら」
挨拶もちゃんとしてくれて偉いなぁ。
「さようなら。今日もありがとね」
「……?」
思わず感謝の言葉が出してしまいました。マコトくんも何のことか分からずにポカンとしてます。
……何でしょう。……ちょっと可愛いんじゃないでしょうか。
「……気を付けて帰ろうね?」
「うん」
……私らしく自然体で対応しましょう。マコトくんだってクラスの一員なんですから。
読んでいただきありがとうございます。
とうとう月間ランキングトップに…
本当にありがとうございます。今後も引き続き楽しく読んでいただけたら嬉しく思います。
次回⇒まだネタすら決まってないので未定です…。できるだけ早く上げられるように頑張ります。
コメントの方は時間に余裕ができ次第お返ししようと思います。(平日はちょっと厳しいので…




