#020 預かり
午後の保育時間が終わると、早くも帰りの会。
幼稚園児のお帰りは想像以上に早い。まだ三時前。
早く感じるのは前世で残業が当たり前だったからだろうか。
一日の就業時間の半分も経ってないよね。アフターファイブからが本番。ただし記録には残らない。ヤバいね前世。そりゃあ刺されるよ。
普通に働いておられる親御さんでも、さすがに三時ごろに出迎えができる家はそれほど多くない。
なので、幼稚園や保育園には子どもたちを 預かり保育なるものがある。
ここの幼稚園の預かり保育は19時までなので、働く親御さんにはなかなか人気だったりする。
そのぶん先生方の負担は大きそうだけど。先生って大変だよね……。お疲れ様です。
だが制度があるなら利用することを考えるわけで、我が家も預かり保育にしようと検討していたんだけど。
「まーくんも戸塚家で預かっておくから!」
「さすがに悪いわよ……」
「預かり保育だってタダじゃないんだし! アカリだって節約できるならそれに越したことはないでしょ?」
「それはそうだけど……」
確かに毎日預かりとなると月に一万円弱くらいかかるからね。年間10万円って考えると無視できない。
早く無償化されてほしいよね。なるまであと10年以上……さすがに待てない。
まぁミオさんが僕を預かろうとする理由はそれ以外にもありそうだけど……。
「……すーちゃん、まーくん帰ってこないって」
「!?」
スズカが固まってミオさんニヤリ。
そこに追い打ちを。
「幼稚園終わったら、すーちゃんだけ先に家に帰ることになるって」
だがしかし。
「じゃあ…………すーもかえらない」
「すーちゃん!?」
「すーはまーくんといっしょ…………むふぅ」
ミオさん撃沈。
「一緒に帰りたい」という言葉を引き出したかったんだろうけど、上手くいかないもんだね。
「アカリぃ……!!」
ミオさんが母上に泣きつく。
……最終的に母上を納得させたいんだよね? いいのか?
「……まーくんはどうしたい?」
ここで母上が僕に振ってくる。いいの? たぶん僕の一言で決まるよね、コレ?
正直なところ、家に帰って自由な時間を作れる方がありがたい。
幼稚園だと幼稚園児として行動しなくちゃならないからね。当たり前かもしれないが。
あとは戸塚家への負担だけど……。
お手伝いでもすればよろしいでしょうかね。たぶんそれを期待されているだろうし……。
でもなんか釈然としない。なので、
「……帰ってお勉強する」
「「!?」」
「まーくんいっしょにかえる…………むふぅ」
あ、驚いたのは親二人ね。スズカはいつも通り無邪気に喜んでる。あぁ、癒される。
「おかーさん、それでいい?」
「そう、ね。まーくんは偉いわね」
母上の目がちょっとうるうるしてる。そこまで感動しなくても……。
なんか申し訳なくなってくるんだけど。
「お、勉強ぅ……。ま、まーくんは……偉いねぇ」
ミオさんの目が泳いでいるように見えるのはなぜだろう。
申し訳なさが吹っ飛んでしまうではないか。
そういうことがあって、今の僕は定時上がりだ。
見送りに来ているリコ先生に挨拶をする。
「リコせんせー、さよーなら」
「さようなら。今日もありがとね」
「……?」
「……気を付けて帰ろうね?」
「うん」
ちょいちょいわからないことをおっしゃられるけど、笑顔の素敵な優しい先生だ。
初めての年少組ということもあって初めの頃は緊張気味だったけど、一ヵ月もすればもうだいぶ慣れてきみたいで、戸惑いながらもセイコ先生のフォローを受けながら頑張っている。
リコ先生が子どもたちを見送るためにと左右に首を振ることで、ポニーテールが華麗に揺れる。右にゆっさ左にゆっさ。こういうの見ていて飽きないよね。
「……まーくん、かえる」
「う、うん?」
僕はスズカに手を引かれてバスへと向かう。
どうしたスズカ。そんなに引っ張らなくても。
あれかな。他の女性を見てたから? え、もうそんなこと気にする年なの? 早くない?
「すーちゃんのおさげ今日も可愛い……」
「…………」
とりあえずフォロー。いや本音ではあるんだけどね?
表情変わらず無言だけど口がもにゅもにゅしてるので問題なさそうだ。ちょっとチョロくて心配なんだけど。
そして帰りのバスももちろんスズカの隣。相変わらず窓の外を見ている。
……飽きないのかな? 僕は飽きないよ? スズカが可愛いから。
10分ほどもすれば停留所に着き、先生方に挨拶をして降りる。
ミオさんは他学年の子のママ友たちとおしゃべりしてるので、子どもたちも親たちの足元で遊び始める。
スズカもようやく他の子たちに慣れてきたようで、同じクラスやバスの子たちであれば隠れたりすることはなくなった。
自分から話しかけたりはしないが、挨拶くらいならちゃんとできるようになった。うん、ちゃんと成長しとる。
「「ただいま~」」
「おかえり」
ママ友の長いおしゃべりが終わり、ようやく家へと帰る。
しっかりと手洗いうがいをしてリビングへ。
さて、勉強を……と思ったら、何だろうあれは。
……布の山。
無造作に取り込んだだけの洗濯物たち。
まぁ難しくないけど面倒にはなる作業だよね。うん。
「……洗濯物たたむ練習をする? すーちゃん?」
「うん」
スズカが疑うことなく頷く。良い子だよね。上手く扱われてる気がするけど……。
さて、僕も少しでも戸塚家に恩を返すためにお手伝いをしましょうか。
読んでいただきありがとうございます。
次回⇒ストックが全く作れず未定ですが、できるだけ早く更新できるように頑張ります。(たぶん2日以内には…
とりあえず一日の流れが書き終わったので、物語を進めるか、誰かの語りを入れるか…
改稿履歴
2020/10/29 20:33 #022の話に合わせてリコ先生との帰りの挨拶の台詞を修正




