#019 砂場の主
お昼寝をして元気になった子どもたちは、外へと繰り出す。
もちろん僕も。
外遊びと分かった途端に男の子たちのテンションが上がる。
元気だね君たち。僕は二度寝をしたいんだが。
おっとスズカもやる気勢でした。すでに帽子もしっかりとかぶっている。
表情はいつも通りぼーっとした感じだが、目が輝いている……気がする。
そしていつの間にか僕の手を取って急かしてくる。もちろん、お供させていただきますよ?
今日は砂場で遊べる日だ。あぁ、納得。
ここの幼稚園、遊具や設備がそこそこ充実している。
砂場もその一つで、子どもたちの人気遊具上位(マコト調べ)に食い込んでくる。
まず広い。
1クラス20人以上いるが、少し手狭にはなるが中に入って全員が遊ぶだけのスペースがある。
前世で住んでいた部屋より広い気がする。……まぁ寝に帰るだけの部屋だったしね。悔しくないもん。
そして砂場の枠。
むき出しのコンクリートのようなものではなく、ゴム製っぽい柔らかい材質になっている。
幼児たちが転んでぶつかっても、ある程度なら大丈夫なように考えられていた。そして座れるだけの幅もある。
あと砂の品質。
石や砂利がほとんど見当たらない。どうやら毎週先生方が確認してくれているようで。お疲れ様です。
最後に熱中症対策として屋根が設けられていて、日陰となっている。
完全に日の光を遮るようなものではなく、植物のツタとかが張っているようなやつ。
そんな感じで、近所の公園とは数段レベルが違う砂場で遊べるとあって、子どもたちの満足度も高いようだ。
もう近所の公園の砂場でなんて遊べない……ってなりそうだけど、そうならないのが子どもの良い?ところ。
そして僕はこのクラスにおいて、砂場の主となっている。
……別に統治したり独占しているわけではないよ?
そんな大人げないことするわけない。中身は大人なんだから。
それに主になりたくてなっているわけではない。
おかしいでしょ? 30過ぎのおっさんが、幼稚園の砂場に君臨するとか。そんな願望はない。
しかしながらメリットはある。
この砂場の中で一番いいポジション――中央を陣取れる。というかいつの間にか中央に追いやられる。
スズカも満足そうにしているので、主というのも悪くないのかもしれない。
さて、僕がなぜ主となったかというと、それはある日の砂場遊びでの出来事だ。
いつものように両手に花、スズカとしほちゃんと砂場の隅っこの方で一緒に遊んでいた。
と言っても、僕は二人が遊ぶのを見ながら、穴を掘っては埋め掘っては埋めをして耕していただけなのだが。
二人は仲良く泥団子を作っていた。
さて、ここで予想しよう。
泥団子を作った子どもの次にやることだ。
作って満足するだろうか?
しないだろうね。
投げて遊ぶか?
二人はそんなことしないし危ない。
うん、そう、おそらく食べさせられることになる。ふりだろうけど。
誰に?と野暮な事を聞かないでいただきたい。
少なくともスズカが作った団子は僕が貰う。誰にも渡すつもりはない。
だが僕は泥団子を食べることはできない。
いや……無理すればいけるかもしれない。スズカが作ったものであれば……。うぅ……。
最後の手段は置いておいて。
泥団子を使って遊ぶことができれば、その手段は回避できると僕は考えた。
そこで僕はテレビで見たアレを思い出す。
玉が転がっていくつもの仕掛けを動作させたりするカラクリ。
泥団子を玉に見立てることができ遊べれば、食べさせようとはしてこないだろう。
食べてなくなると遊べないから。
そうと決まれば早速作らねば!
で、作ったのが泥団子の滑り台。
一番上から泥団子を転がすと、折り返し地点を通ってスタート地点の下に戻ってくるようなコース。
……あまり期待しないでいただきたい。突貫工事にもほどがある。
子ども用のおもちゃのスコップだけではこれ以上は無理。
ひとまず完成したので僕も試しに泥団子を作る。テストは必要だよね。
幼稚園年少にしては少しばかりクオリティの高い泥団子を作り転がす。
うん、問題なさそうだ。折り返しも綺麗に決まった。
その様子をじっと見ていたスズカとしほちゃんは、己が団子を手に転がしたそうにうずうずしている。
「すーちゃん、しほちゃん、転がしてみて?」
「……いいの?」
「もちろん」
「「うん!」」
僕は二人に声をかける。
まぁやり方は見ていたし、似たようなおもちゃもたくさんあるからね。遊び始めるのは問題なかった。
最初はスズカ。
あぁ、泥団子がちょっといびつな形だったから途中で止まる……。しゅんとしてしまったスズカ可愛い。
続いてしほちゃん。
おぅ、こちらも同様に途中で止まってしまっ……割れた……。しゅんとしてしまったしほちゃんも可愛らしい。
「綺麗なお団子を作ればうまく転がるよ?」
「「…………」」
僕は作った泥団子を二人に渡す。
こちらも突貫で作ったものなので完全な球ではないが、二人が作ったものに比べればだいぶ滑らかな仕上がりとなっていた。
二人は黙々と泥団子を作っては転がしを繰り返す。
そして、そろそろ遊びが終わる時間になって、ようやく一番下まで転がる泥団子を作れるようになっていた。
コロコロと転がる泥団子を体ごと追いかけるスズカとしほちゃん。
喧嘩することなく仲良く順番に遊んでいる。偉いね、この子たち。
うん、大成功だ。
「まーくん、できた」
スズカが最後まで転がった喜びを表現してくる。抱き着いてきて。……泥だらけの手で。
「……すごいね、すーちゃん。綺麗なお団子作れたね」
「うん、これたのしいの。もっとつくってほしい……」
「今日はもうすぐ時間だから、また今度ね?」
「……うん、すー、がまんする」
しょんぼりしてしまったスズカが可愛い。我慢もできて偉すぎる。
よし、次は気合入れて頑張りますよ。
しかしながら、いくつもの視線を感じる。
他の泥団子を作っていた子どもたちが、仲間になりたそうにこちらを見ている。
仲間にしてあげますか?
ということになって、気づけばクラスの半分以上が似たような遊びをしている。
山を作ってその周りをくるくる回りながら下りて来るものだったり、滑り台の下に水たまりを作ってそこへスプラッシュするものだったり。
だいぶ頑張った。テレビ見て勉強したよ。
僕が新しいコースを作っては他の子たちが泥団子を作って転がす。そして自分たちでもコースを作って遊んだりしている。
まぁ基本的には最後まで上手く転がるのは稀だけど。意外と泥団子の強度とか滑らかさが難しいんだよね。
たまに上手く作れなくて泣きつかれる時もある。なんか先生のような扱い方されてる? その先生は……あぁ、お手伝い失敗してしまったのか……。……どんまいです。
幼稚園の年少にしてはやけにレベルの高い砂遊びのような気もするが、こんなもんだよね? みんな楽しそうにしているし問題ない……よね?
今日はスズカとしほちゃんもコース作りを手伝ってくれた。一緒に山を盛るくらいだけど。
泥団子作るのも必要だからね。だいぶ上手になったよ。
「すーちゃんは他の山で転がさなくていいの?」
「……まーくんのがいい」
ふむ。
砂場遊び、悪くないね。
読んでいただきありがとうございます。
次回⇒ストックが全く作れず未定ですが、できるだけ早く更新できるように頑張ります。(たぶん2日以内には…
そろそろ大人たちとか他のお友達の話も差し込まなければ…
え?いらない?むふぅをもっと…ですか?




