#001 転生?
3話連投予定です
#000 2020/10/14 18:00
#001 2020/10/14 21:00
#002 2020/10/15 00:00
「ここは……?」
ヤシロは目覚める。どこまでも続く真っ白な空間で。
「確か……撃たれて刺されて……」
ヤシロは自分の体をペタペタと触りながら確認する。が、傷一つ見当たらない。
「どういうこと……?」
首をかしげていると光り輝く球体が迫り、さらに首をかしげるヤシロ。
「……ナニコレ?」
「コレ、ではありません。私は女神、女神イヌアンナ――」
光はさらに輝き増しヤシロの視界を潰す。
恐る恐る目を開けると、そこには白いシーツのようなものを纏った女性が現れていた。
流れるような光り輝く銀髪を地面まで伸ばし、肌は病的なまでに白い。この世の女性とは思えない美しさ。
「生と死と輪廻を司る女神です」
「は、はぁ……」
ヤシロは状況の理解が追い付かず、気の抜けた返事をする。
「それで……、女神さまがなにか御用で……?」
「くっ……、なぜそんなに冷静なのですか?」
「へっ?」
「あなたは死んだんですよ? 普通はもっと泣きわめいたり怒ったり叫んだりするものじゃないですかっ! それに私を見てノーリアクション!」
「そういうものですか?」
「そういうものです! もうまったくもう……」
かわいらしい女の子が背伸びして偉ぶっている。なんというかおままごとを見ているような気分だった。ぷんぷん。
「で、私は死んで、異世界にでも転生させてくれるって話ですか?」
「え、えぇ。その通りです。なぜそれを……?」
「よくある話ですから」
「よくある話!?」
「はい、よくある話です」
「……よく……あるの……?」
「はい、よくあります」
ヤシロは仕事を辞めてからというもの、色んな趣味に手を出していた。その中にネット小説もあったのだが、異世界転生ものの作品には多く目を通してきた。
最近のパロディはよくわからなかったが、自分の境遇と重なる前世を送っている主人公たちもいて、暇つぶしとしてはそれなりに好きだった。
それらはあくまでフィクションで、自分の身に起こるとはこれっぽっちも思っていなかったが。
「……話が早くて助かります」
「いえ、それほどでも」
女神の胡散臭げに見る目に、ヤシロはいたって真面目に礼を返す。
「では早速説明を。あなたが転生するのは剣と魔術の世界。そちらの世界だと……近代寄りの中世が舞台となります」
「はぁ……」
うんたらかんたらと、ヤシロは長い説明を女神から受ける。
よくある異世界のお話だった。
そして、締めに入る。
「それでは転生してもらいましょう」
「いえ、結構です」
「それでは、その転生陣に乗っ――――――――――えっ?」
「?」
「今何と?」
「結構です、と」
「結構……?」
「はい」
「それは転生してもいいですよ?という意思表示で……?」
「いえ、転生するのはイヤです!という意思表示ですね」
ヤシロの言葉に女神はポカンとする。
ようやくその言葉を理解したのか、口早にしゃべりだす。
「えっ……、そんな……。だって……転生しないとあなたという存在は完全に終わってしまうんですよ!?」
「えぇ、理解しています」
「えっ? 理解してるの? ホントに? うん……ホントっぽい……。でも生に未練とかないの? 死ぬ前結構充実してたっぽいよね!? 死にたいとか思ってたタマじゃないよね!?」
「え、えぇ、はい、なんというか、もう、ゆっくりしたいかな、と……」
「え、そんな年寄りみたいな……! まだ三十前だよね!? まだまだこれからだよね!?」
「いえ、何と言うかもう……。死んでしまったことで、なんとか維持していた生きる気力というものがなくなってしまいました。なのでこれからまた新しい世界に順応しなければならないと考えると……遠慮させていただきたいんです」
「えぇ……。そんなぁ……」
女神は予想外といった展開に、俯いてしまう。
その姿も絵になるのはやはり女神か、とヤシロは適当なこと考える。
「……新しい世界じゃなければいいんですね?」
「えっ?」
ガバッと長く美しい髪の毛と共に顔を振り上げる。
「新しい世界――異世界じゃなければ転生してもいいんですね!?」
「えッ? 何を言って……?」
「異世界じゃなくて同世界であればすでに順応してますもんね!!」
「!? いえ、そういう意味では――」
逆切れしながら女神は捲し立てる。
「それでは転生陣に乗って!」
「ちょ、まっ!」
「乗れぃ!!!!」
訳の分からない女神パワーで、ヤシロは強制的に光り輝く転生陣の中に放り込まれる。
「そんな、もう休ませてくれたって!」
「いいから行けっ!」
「言葉遣いが汚い!」
「うっさい!」
「ならチートとかあります?」
「あるわけないでしょ! 現代日本よ! 現実見なさい!」
「チートなしで転生したってロクな目にあわない訳ないじゃんクソババァ!」
「だぁれがクソババァじゃぁああ! まだ十五歳で女神としてはピッチピチじゃぁああ!」
「嘘っ!?」
「嘘じゃねぇよ!」
てっきり女神だから歳がヤバいことになっているのかと思っていたが、見た目通りの年齢にガチの驚き。ヤシロ反省。
「別に転生する義務とかないですよねっ!?」
「私のノルマが達成出来ないのっ!!」
「ノルマっ!? そっちの都合!?」
「そうよっ! ようやく見つけた一番最初の案件なんだから意地でも転生してもらうわっ!」
「しかも初めてなのかよっ!――――――――あっ」
ヤシロはその言葉を最後に光に包まれ姿を消した。
「……あなたに女神の加護があらんことを」
女神イヌアンナはそれらしい台詞を口にし、転生者の魂を送った。
「おぎゃぁぁああああ!」
「生まれましたよ。元気な男の子です!」
そういうわけで、ヤシロは現代日本に赤ん坊として転生した。
読んでいただきありがとうございます。
改稿履歴
2021/06/27 14:15 文章全体の見直し(2021/06/27時点での話の流れに影響なし)