#015 朝の日課
朝目が覚めると、隣にはもぬけの殻となった空間。
僕は寝ぼけまなこのまま、そこへコロコロと転がって布団を頭からかぶる。
母上の匂い……。
……。
ちょっと変態っぽいかな。
むふぅ。
でも安心するんだよこの匂い。
その母上はすでに起きて朝ご飯を作ってる。ついでにお昼のお弁当も。キッチンの方からパタパタと足音が聞こえる。朝早くからお疲れ様です。
「まーくん、そろそろ起きてね~?」
「……」
「まーくん?」
母上がお呼びだ。隣の部屋から声が聞こえる。
しかしまだ起きてはならない。我慢の時。というかまだ普通に眠い。
「まーくん、起きて?」
「……おかーさん…………?」
「おはよう、まーくん、起きてね」
「う……ん…………。おはよう……。…………」
「ほら起きないと……。こうしちゃうぞ……っ?」
――むぎゅぅ
「……ふむぅ」
母上からの熱い抱擁! くっ……、間に挟まる布団が邪魔や! なぜ僕は布団を被るなんて愚かなことを……。温もりが遠い!
「……おかーさん、起きたよ、起きたから!」
布団の中から声を上げるが、籠ってしまって母には聞こえてないようだ。
「う~ん……、まだ寝てるのかな~?」
僕は頑張って布団の中を泳ぎ、ひょっこりと顔を出すことが出来た。ふぅ。
そして母上のお顔が目の前に。化粧してないのに相変わらず美人だね。照れちゃうよ。
「おはよう、まーくん。良く寝れた?」
「うん。おはよ、おかーさん」
すると僕の頬に母上が頬をくっつけてくる。すべすべの肌から伝わる体温が心地良い。そしてすりすりしてくるのでこそばゆい。
この後しばしのハグ(ミノムシ状態のまま)とそのままゴロゴロを楽しんだ。だって母上が放してくれないんだもん。しょうがないよね。
ちなみに毎朝の恒例行事となっている。
――――ピピピピピピピピピピピピ!
ここでようやく目覚まし時計が鳴り響く。
僕が本来起きるつもりの時間であり、これ以上は母上も仕事に遅れてしまう時間でもあった。
母上、この茶番がやりたくて僕をちょっと早く起すんだよね……。まぁ、嫌じゃない。むしろもっと。
平日の朝、そんな時間ないよと思われるかもしれないが、母上は根が真面目というか、そのあたりちゃんと時間に余裕を持って準備する。ミオさんとは違うらしい。スズカに悪影響がないと良いのだが。
その上、母上は化粧の時間も早い。肌の手入れと申し訳程度のメイクくらいしかしない。
女性の化粧はもっと時間がかかると聞いていたんだけど……。それでも美人なのは僕の主観が大きく影響しているのだろうか……?
僕は布団をたたんで隅っこへ追いやる。もう布団への未練はない。朝ダラダラすることもなくなった。
だって朝からあんなに激しいんだもん。……なんだか誤解を生みそうな台詞だが。
母上と一緒に朝食を摂り、母上と僕は互いの支度を済ませる。
ちなみに服装は幼稚園の体操服。園服は何かしらの式があるときくらいしか着ないようだ。
あとお手伝い。
洗濯物とか一緒に干す。でも身長的に届かないから洗濯籠から取り出すだけ。おっとネットから出てきたこれは魅惑の三角形。無心。そこまで派手ではない。でも普通を知らない。無心。
いつも通りの家事を終えると母上は仕事に向かう。
「いってきます」
「おかーさん、いってらっしゃい」
ガチャンと玄関が閉まる。慣れているとはいえ、やっぱりこの瞬間は寂しくなっちゃうよね。
でも我慢。母上だって僕を育てるために頑張ってくれているんだから。
さて、気を取り直して幼稚園のバスが来るまでの間、僕にはやらねばならないことがある。
そう!
それは――
録画しているテレビ番組を見る!
……誰だ? 深夜アニメ見るかと思ったやつ?
違うぞ? 懐かしいアニメももちろんやってる。ちょっとセクシーなのも。だが違う。
リモコンを手に取りテレビの前でスタンバイ。
黄色いトラのやつとか今ちょうどやってる。
いや見たいのはそれじゃない。子供向けの教育番組じゃない。しかし懐かしい。
あぁでも……ピタゴラさんのスイッチは見る。見てしまう。リモコン操作する手が自然と止まるよね。
それは置いておいて、見るのはこっちだ。
フォメンタ!
……あれ、どこの言葉だっけこれ……? まぁどこかでは使えるんだろう。
お察しの通り、語学番組だ。
会話メインの番組で、ユーモアを交えながら教えてくれる。
子どもの脳みそはスポンジとはよく言ったもので、前世の記憶があってもまだまだ入る。
スポンジな上、なまじ物事を正確に理解できるせいか、いらん事までどんどん入ってくるが。
それならばと思い、僕は思い切って語学を詰め込むことにした。
大学生の頃、第二外国語とか苦労したからね。全然頭に入ってこないんだよ。
だから今のうちに英語の他に一つぐらい覚えておけば楽できそうだよね。
大学の単位を楽に取るために努力する幼稚園年少。
大学入れるかどうかすら考えてないっていう。いかんね。慢心してる。テレビに集中せねば。
え? 大学? もちろん行くつもりだよ? スズカとのキャンパスライフ! 想像しただけでよだれが出るよね。
それまでスズカに嫌われなければいいんだけど……。そこは頑張るしかないよね。うん。
おっと妄想してたらそろそろバスの時間だ。
そろそろミオさんがスズカを連れて来る頃合いだ。今日もいい一日になるといいな。
ミヌァ ラカスタン シヌア!
読んでいただきありがとうございます。
次回⇒
少しいろいろありまして、次回遅くなるかもしれません。頑張って書こうとは思いますので、引き続き読んでいただけると幸いです。
改稿履歴
2020/11/08 21:41 行間修正
2021/06/13 22:24 普段は園服ではなく体操着で通園するよう修正




