#150 運動会(年中)6
お昼を一緒に取るため、アカリらから事前に聞いていた合流場所へと向かうマコト一行。
「マコトくん、惜しかったね~」
「格好良かったよ~」
「……ありがとうございます」
その道中、およそ五歩進む度に声をかけられるマコト。
元々の知名度と好感度が高い上、障害物競走で魅せたパフォーマンス、そして礼儀正しく律儀にぺこりと頭を下げる姿に、親御さん方からの印象が悪いはずもない。順調にファンを増やしているようである。
ちなみに例のファンクラブ会員になるためには、特定の条件を満たす必要があるのはお忘れなきよう。
そして彼の親であるアカリの評価も当然のように。
当人はあずかり知らぬ所で上がっていく自分の好感度に戸惑っているようだが、片親だから教育不足などと言われるよりはマシだろう。
マコトも母を悪く言われるのは非常に不愉快であるからして。
そんな母親想いで人気者のマコトと恋人繋ぎでピッタリと体を寄せて歩くのは――
「お、スズカちゃん、今日もラブラブだね」
「お熱いね~」
「ホント、羨ましい……」
――もちろんスズカだ。
誰がマコトの女なのか周りに見せつけ主張している……わけではない。ただ単に己の欲望に忠実なだけである。そして彼女にとっては、この距離感が日常なのである。
しかしそれを見た周りがどう捉えるかはまた別の話。
実際ママ友の間では、”マコトくんの正妻ポジションはスズカちゃんである”という共通認識ができている。
それはスズカの積極的な言動だけが理由ではない。マコトの言動からも、スズカを特別に大切にしていることが伝わっているからだろう。どこからどう見ても両想いなのだ。
しかしスズカの立場を脅かす者が全くいないわけではない。
……いや、スズカの(幼)女の勘が勝手に脅威として認識している、と言った方が正しいか。
人気者であるがゆえにマコトの周りにはいつも人だかりができているし、当然その中には恋心を抱いている女の子もいる。
とは言え残念ながら?中身は大人なマコト。もちろん好かれて嫌な気はしないし、その幼い恋心を蔑ろにすることはないが、現段階で同世代に対して恋愛感情を持つ方が難しい。
そういった意味ではスズカも他の子たちと何ら変わらないのだが、彼女は一緒に過ごした時間が圧倒的に違う。その差は一万時間を優に超えている。
スズカにとってマコトが一緒にいることが当たり前なことであるように、マコトも無意識のうちにスズカが一緒にいることが当たり前となっている。
それが淑女の嗜み。
……と、そんな裏に潜む母親の狙いは置いておいて。
「マコト! いそげ! べんとーがオレをまっている!」
「落ち着け走るな引っ張るな」
「むぅ」
マコトがスズカと繋ぐその反対の手を握る者。
今現在、スズカが最も警戒しているジュンだ。
と言っても別に仲が悪いわけでは無い。色々と競い合うことが多いというだけ。
そんな彼女は先ほどまでは腹を空かせて大人しかったものの、色んな所で広げられて漂って来るお弁当の匂いに覚醒してしまっていた。
ゆえにマコトも必死にその手を繋ぐ。
もしこの人混みの中、走って転んで人様のお弁当にダイブ……なんて事になったら大惨事になる。走って埃を立てて嫌な顔をされるのも困る。
面倒事を起こされて困るならジュンと関わらなければいいじゃない、と今時の若者は考えるかもしれないが、知らぬ存ぜぬを貫くのはマコトのプライドが許せない。確かに成人はしていないが大人なのだ。子を導かぬは大人に有らず。
それにアカリが彼女の母であるサナエと仲が良く、色々と情報交換をさせてもらっているため少しは恩を返さねば……というのも理由の一つだろう。
まぁ色々と言えるが、そもそもマコトは反りが合わない相手と上手く距離を保つ術は知っている。
つまりはそういうことだろう。
「――ジュンちゃんありがとう! おかげで来月からの小遣いが増えたよ!」
「来年も頑張りなよ!」
「おう! まかせろ!! ぜったいおーじゃはまけないんだからな!」
「おぉ頼もしいねぇ。ほれ、ご褒美に飴ちゃんをあげよう」
「マコト! もらっていーのか!?」
「……うん、ちゃんとお礼言いなよ?」
「コータのとーちゃん、ありがとー!!」
「マコトくんたちのもあるからね?」
「……ありがとうございます」
そんなマコトの苦労を知らぬジュンはと言えば、知り合いの親御さん方から勝利を褒められ飴を貰って超ご機嫌。無邪気なものだ。そこが彼女の魅力なのかもしれないが。
ちなみにママ友(と幼稚園教諭)の間にて、”マコトくんはジュンちゃんのお目付け役”という共通認識ができているのはここだけ……結構有名な話である。
だがスズカからすれば、マコトに構ってもらってズルい……と自分の事を棚に上げていたりいなかったり。
「むぅ!」
持っていかれそうになるマコトを渡すまいと、その腕にしがみ付くスズカ。
マコトも彼女が言いたいことは分かってはいるため、スズカを軽く懐に入れるに留まる。それくらいしかできないのが歯がゆい。歯がゆいが……
「……む、ふ」
それだけで、もにゅもにゅと口元が緩んでしまうあたり、スズカはチョロいのであった。
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