#149 運動会(年中)5
長くなってしまったので分割します。
年中組よりも少々難易度が高くなった年長組の障害物競走、各学年の微笑ましいながらも確かに成長を感じさせるお遊戯の発表を終えた子どもたちは、一旦園舎の中へと消えていく。
「――それじゃあ一時までにまた教室に戻ってきてください。分かりましたか?」
「「「はい!!」」」
そして各クラスで担任の先生から注意事項その他もろもろの話を聞くと、いよいよ弁当を持つ親たちの元へと向かい出す。
「ユウマ、コタロウ、行こっか?」
「うん!」
「りょ」
マコトは一緒に昼食の時間を過ごす友人たちに声をかける。
沢山の友人たちが自分とお昼を一緒にしたいと口にする中、名前を呼んだのは年少組の頃から付き合いのある二人。
マコトとしても皆の希望を叶えて上げたいのは山々だが、残念ながら自分の体は一つしかない。それに人がごった返す中、大勢で行動すれば周りに迷惑が掛かる。
何より、親たちの付き合いもある。
大好きな母とのランチタイムだが、無邪気に喜んでいるだけではいられない。親からも子からも人気者であるがゆえに、波風立てないよう細心の注意を払わなければならない。
その点、”去年も一緒のクラス”という、誰から見ても明確で覆ることがない事実は、言い訳としては無難な落としどころだった。
もちろん、友人たちの機嫌も損なわないように、やんわりと断ることも忘れていない。
運動会のお昼は、仲の良い子どもたちで集まると言うよりも、仲の良い親同士で集まるもの。子の一存では決められないのだ。
一端の元社会人として、自由にしていい範囲と根回しの重要性はよく分かっていた。
「ボス! たべおわったらあそびにいくね!」
「オレも!」
「え? あ、うん、……ゆっくり食べなよ。急いで食べると気持ち悪くなっちゃうかもしれないから」
「だいじょーぶだ! オレのいぶくろはじょーぶだっておかーちゃんいってたもん!」
「オレも!! こーてつのいぶくろ!」
「……さいで」
だからと言って、すべてがすべて上手く行くわけではない。
特に無邪気な子どもたちは、どこから綿密な計画を崩しにかかって来るか分からない。
「……マコトくん、ミホシもたべおわったらあそびにいっていい……?」
「……うん。でも無理しなくていいからね? 食べ終わってすぐに動くと、お腹痛くなっちゃうからね?」
「うぅ、いたいのはいや……」
「だいじょうぶ! ヒメがちゃんとみててあげるから!」
「ひめちゃん、ありがと!」
「ヒメノちゃんと一緒なら大丈夫かな」
「まかせて!」
「じゃあまた後でね?」
「うん」
「ばいばい!」
次から次へと話しかけてくる友人たちを、マコトは手慣れた様子で捌く。決して今日が特別というわけでは無い。平日の帰り際も似たようなものである。
(あぁ……、時間が……)
一秒でも早く母の元へ、そして今か今かとすぐそこで待っている幼馴染の元へ向かいたいが、自らの行動の影響力を自覚しているがゆえに雑な対応もできない。
そんな苦しむマコトの隣では――
「ねぇ、ユウマ! いっしょにおべんとうたべよ? モエがあーんしてあげる」
「うん、ぼくもしてあげる!」
「わたしもやる!」
「うん、カナちゃんもいっしょにたべよ! みんなでたべるとたのしいもんね!」
「あたしもたべるー!」
「うん!」
――団体様になりつつあった。
「マコト、ユウマが……」
「コタロウ、すぐにユウマを連れていけ」
「……あのなかにはいるのはむり」
「……だよね、無理言ってごめん」
幼くても女は女。群れた女を敵に回すほど恐ろしいものはない。
そして身内の敵?もまた恐ろしいものであった。
一通り対応を終え、動けるようになったマコト。最後に忘れてはならないもう一人にも声をかける。
「ジュンお待たせ、行くよ」
「うぅ、はらへってうごけない」
真っ先にお弁当――親の元へとダッシュで向かいそうなジュンだが、空腹に耐え切れずうつ伏せで床に寝転がっていた。
午前中は障害物競走に皆の応援にお遊戯にと、すべてにおいて大はしゃぎしていたのだからそれも仕方のないことだろう。走力も体力も王者だとしても、エネルギー切れではどうしようもない。
いつもこうして大人しいのであれば、引っ張り回される側のマコトとしては楽なことこの上ないのだが、今回ばかりはそうも言っていられない。
「頑張れ。弁当が待ってんぞ」
「ひっぱって」
「別にいいけど……、床掃除して服汚したらかーちゃんに怒られるんじゃない?」
「それはまずい!」
一年半の付き合いともなれば、ジュンの扱いも慣れたものである。
そうしてようやく教室から出ると、
「――まーくん!」
「っと……、すーちゃん、待たせてごめんね」
長いこと教室の外で覗き見をしながら待っていたスズカは、淑女の嗜みも何処へやら、真っすぐマコトに飛びつく。恒例となっている充電タイムだ。しっかりと正面から抱きしめ、マコトの首元に鼻先を埋める。
「すーちゃん、一等賞おめでと。流石だね」
「…………む、ふ……♪」
障害物競走での一等賞のご褒美としてマコトが抱きしめ返すと、スズカから満足そうな反応が返って来る。待たせてしまったことに対するご機嫌取りも上手くいったようだ。
「シホちゃんも、いつものことながら待たせてごめんね?」
「ううん! だいじょうぶ! いつものことだもん!」
「……」
スズカと一緒に待っていたシホは、特に気にした様子もなく無邪気に満面の笑みでそう答える。
マコトが今後の行動を見直そうと思ったのは言うまでもない。
読んでいただきありがとうございます。
改稿履歴
2021/11/28 18:45 文章の微整形




