#143 そして一人の男児はボスとなる
本日二話目の投稿になります。ご注意を。
ボス呼びが定着してしまった要因と思われるアイ先生は、しゃがんで僕に目線を合わせ、やけに真剣な表情で言葉を紡ぎ始める。
「……マコトくん。君は紛うことなきボスだよ。君には力がある。君こそボスに相応しい」
「……」
「だからボスと呼び慕うことを許してほしいな」
あれ、もしかしてこの人……僕を説得しようとしてる?
他の子たちにボス呼びを止めるようにじゃなくて、僕にボス呼びを認めさせようと?
……確かに賢い選択ではあるだろう。
もう子どもたちには広まってしまっている。これを止めるにはかなりの労力が必要だ。
それに僕は物分かりが良い。自分で言うは少々不服ではあるが、諭すなら子どもたちよりも僕の方がどう考えても楽だ。
だが譲れない。
考えてみろ。
我が子が幼稚園でボスと呼ばれる親の心境を。
心配になって来るだろう?
威張り散らしているんじゃないかと。
わがままし放題なんじゃないかと。
先生を困らせているんじゃないかと。
お友達から怖がられているんじゃないかと。
まぁ、我が家においてはそんなことはあり得ないけどね。
母上と僕との信頼関係は相当なもの。……のはずだ。その日の出来事はお風呂タイム中の会話で報告してるから、僕が幼稚園でどう過ごしているかは知っている。
もちろん昨晩はスズカが充電を覚えたことも話したさ。
そしたら母上も負けじと充電を……
っとこの話は置いといて。
戸塚夫妻のような、僕の事をよく知っている人にとっては笑い話かもしれないけど……余所の人が聞いたらね。
普通”ボス”って聞くとガタイの良い悪ガキのイメージだろう? ジャイの何某みたいな。少なくとも良いイメージではないよね。
”お山の大将”とか”井の中の蛙”みたいな感じで恥ずかしすぎる。空の深さだってまだまだ……
そして何より、ヤバい人に目付けられたりしそうだし……
スズカと母上が巻き込まれたりしたら、それこそ目が当てられない。
真っ直ぐに見つめ返し異を唱える僕に対し、アイ先生も譲ることなく言葉を続ける。
「……マコトくんはボスとしての力を示してしまっているんだよ? ほら、今までのことを振り返ってごらん? マコトくんがしてきた数々の所業を……」
「積み木では数々の作品を世に残してるよね? 写真集だってミク先生主導で計画されているんだよ? 煙突ゲームでは王者として君臨し続けているよね?」
「君が始めた泥団子スライダー。あれを作る能力が先生には求められるようになっちゃったんだよ? 陽ノ森幼稚園の名物になっちゃってるって知ってる? 地元新聞に載ったんだよ?」
「ドロケイでは皆を操り大活躍。今日はどんな作戦を見せてくれるのかな? みんなスリルがなくて退屈してたんだよ? 夏休み中もマコトくんがいないからって不貞腐れる子も少なくなかったんだよ?」
「ねぇマコトくん。……ボスと呼ばれるくらいいいじゃない。先生だって……大変だったんだから……」
溜まった何かを吐き出すように、切実に訴えかけてくる。
先生も苦労してるんだね……
いや、でも全部が全部僕のせいではない。……はず。
と言うか、ボスと呼ばれていなくても既に目を付けられるだけのことしてしまっている気がしなくもない。
反省しなくては……
なおも平行線を辿ろうとするアイ先生と僕の交渉に、しびれを切らした子どもたちが終止符を打つ。
「ボス! せんせー! はやくドロケーやろ!」
「じかんなくなっちゃうよ!!」
「よぉーし! じゃあドロケイやるぞー! ドロケイやりたい子集まれぇーー!」
「「「おぉーー!」」」
ころりとテンションを変えたアイ先生。
おい、今までの真剣なトーンはどこ行った?
「ボスの帰還だぁーーー!」
「きかん!」
「ボスきかん!」
「ボス!」
「きかんしゃボス!!」
「ボス!!!」
お、押し通しやがったな……
こうして僕は、正式?にボスと呼ばれるようになってしまった。
そんな僕の心を癒してくれるのは……
「まーくんはまーくん」
「……すーちゃん、……ありがとう」
子どもで僕の名前を呼んでくれるのはスズカ(とその他少数)だけだよ。
その感謝を示すためにも、存分に充電をさせてあげようじゃないか。
「む、ふ……」
満足そうにするスズカを見ていると、ボス呼びなんてどうでも……良くはならないけども。危うく流されるところだった。
「おいボス! ドロケーちゅーだぞ!」
「そーだぞ! いちゃいちゃすんな!」
「羨ましいのか? でもスズカはやらんぞ?」
「ち、ちげぇし!」
「みゅ、ふ……」
そんな僕らに文句を言い出すのは牢屋に入る友人たち。
……ボスに対して失礼だぞ? それにもうジュンは捕まえたんだから僕らの仕事は終わってるだろう?
スズカが大活躍だったよ。ジュンを捕まえたら充電する時間が長くなるかも……って伝えたら恐ろしいほど簡単に……
夏休み中の朝練の効果がさっそく発揮されている気がする。
そしてジュンに限らずだが、みんなのドロケイ勘が失われている気がする。こんなに簡単だったっけ?
「で、残りは誰?」
「アイせんせーだ!」
クラスの垣根を超えた久しぶりのドロケイも、残る泥棒はアイ先生のみ。
周囲を見渡すと、ちらちらとこちらを伺いながら泥棒の開放を狙っている姿が確認できた。
「そんじゃあマサは外階段の下に隠れて待ってろ。そんでアイ先生が出てきたらそのまま追っかけろ。倉庫の方に追い込め」
「らじゃー!」
「コタロウはタイヤの遊具側から回り込んでくれ。隠れる必要はない」
「りょ」
「タイショー、お前は倉庫の裏側……木がある方に隠れてろ。それで王手だ」
「おーてってなんだ!?」
「……気にするな。走ってきたアイ先生がそのあたりで一息ついて隠れようとするはずだから、飛び出してアイ先生を捕まえろ。エースのお前にしかできん」
「し、しょーがねーな。オレがエースだからな!」
「あぁ、そうだ。頼んだ」
作戦を伝えると意気揚々と去っていく三人。タイショーもチョロいな。
「ユウマよ」
「ん? どうしたのマコト? ぼくもおしごと?」
「うん。上り棒のところに行ってくれない? あの三人だとたぶんそこに隙間ができるから……」
「わかった! いってくるね!」
「あ、ユウマくんどこいくの?」
「のぼりぼーいってくる!!」
「モエもいく!」
「いいよ! いっしょにいこ!」
「わたしも!」
「カナも!」
「あ、おいてかないで!」
……何か取り巻き増えてないか?
そして三分後。
タイショーの勝鬨が聞こえ、間もなくアイ先生が連行されてきた。
「マコト、つかまえたぜ!」
「うん、さすがタイショーだ」
「まぁな!」
そしてアイ先生はと言うと、捕まって負けたはずなのにニマニマと嬉しそうだ。
「さすがボスね」
「くっ……」
その捨て台詞に、返す言葉が見つからないのが地味に悔しかった。
気付けば連載開始から1年。
療養中の暇つぶしで書き始めた見切り発車の小説が、ここまで続いてここまで読んでもらえるとは…
世の中何が起こるかわかりませんね。ありがとうございます。
ちなみに二話目(#001)の途中までは異世界に行くつもりで書いていました。
本当に何が起こるか…
ここまで続けておきながら、物語はまだまだ序盤も序盤です。なんせ終わりがないですから…
キーキャラも未だに出せておらず、もはやキーキャラかどうかも怪しく…とりあえず祈っておいてもらえると…
…。
今後とも末永く見守ってもらえると幸いです。
あと更新ペースが落ちているのは非常に申し訳なく…
週1ペースはどうにか死守していくつもりです。
執筆よりコーディングの方が楽なのが悪いんです…




