#013 友達
入園式が終わった。
ここからしばし、母上たちと別行動だ。
なんでもPTAについての話があるとかなんとか。
PTA!
あれだよね。入らないと差別されるやつ。
母上は日中仕事だし、ミオさんも二人目の子育てが安定するまで参加は難しいんじゃないだろうか。
ということは僕らはハブられる候補にいるんじゃ?と考えてしまう。
いやネガティブ思考過ぎるか。いいPTAであることを願おう。最初から穿った見方をしちゃだめだよね。
僕がハブられるのは正直構わないのだが、スズカがそんな目にあったら……。母上たちにも心配とかかけたくないし。
ほら、もういくつかママさんグループが出来てるんだよ?
兄弟とか家が近所とかですでに顔見知りなんだろうね。
お互い一人目の子供のミオさんと母上は、そのあたりの人脈が少ない。ご近所にもいないしね。
ここは一肌脱ぐべきか。
「まーくん、いく」
「あいさー」
そんなことを考えていると、スズカが僕の手を引っ張り体育館を出る。この手のぬくもり、守らねば。
ばら組の教室に着いた。
保護者が説明を受け終わるまでの15分ほど、先生が改めて自己紹介したりする。
ちなみにそこでもすでにグループはできていた。
親が知り合いなら子も知り合い。自然と寄り合い塊になる。人間社会の性なのだろう。
グループになれていない子たちはどこか不安そうだ。泣き出してる子もいる。
ちょっと見てて心配になるが、そこはさすが幼稚園の先生。セイコ先生とリコ先生(さっきの紹介でそう呼べって。僕がなれなれしいわけじゃないよ?)が、そういった子たちを次々となだめていく。担任以外の先生もサポートしている。
だが、先生方が頑張っていても全員を見るのは無理があるようで、我慢できそうな子はどうしても後回しになっているのが現状だ。
僕はもちろんスズカと一緒。スズカは不安そうな様子もなく隣でぼーっと大人しくしてる。ぽけーっじゃない。ぼーっとだ。僕に似てきた。心配。でも可愛い。
だがスズカの可愛さに現を抜かしてばかりではいけない。
僕らのすぐ近くで一人不安そうにきょろきょろしている女の子がいる。
スズカとは違った、ほんわり大人しそうなかわいい娘だ。肩まで伸ばした髪をサイドアップポニーテールにしていて、入園式に気合を入れてきているのが分かる。
その子の目がだんだんと潤んできているんだけど、さすがに見て見ぬ振りができそうにない。
右見て左見てもう一度右見て、先生方が来ていないことを確認して、
「だいじょーぶ?」
「……」
おっと無言だ。だが焦るな。
まずは相手が乗りやすい話題を引っ張り出すんだ。決してナンパしてるわけじゃないよ?
「その髪留めかわいいね?」
「!」
「おかーさんに買ってもらったの?」
「……うん、ままがかってくれたの」
「すごくかわいいね」
「えへへ……。ままがね、おたんじょうびぷれぜんとにかってくれたの」
ふっ、ちょろいぜ。決してナンパしてるわけじゃないよ?
「お名前なんて言うの?」
「しほ……」
「しほちゃん。ぼくとお友達になってくれる?」
「!? うん!」
”友達”という単語に強く反応した。母親から頑張って友達作らなきゃねとか言われてたのかな? 意外とそういうのってプレッシャーに感じちゃうよね。真面目な子ほど。
「ぼくはマコト」
「まことくん?」
「うん、よろしくね。しほちゃん」
「うん!」
先ほどまでの不安そうな表情がなくなったので、ひとまず安心。
やっぱり子どもの笑顔は可愛いね。癒される。僕だって子どもなはずなのに。
そして僕の袖をきゅっと掴んで隠れてるスズカが可愛い。
実を言うとスズカはちょっぴり人見知りなところがある。
普段もミオさんの陰に隠れがちだ。またその姿が可愛らしいんだけど。
それを僕でやられると、おぅふ。鼻血出そう。ここで鼻血を出したら悲惨なことになる。落ち着け僕。
「すーちゃん、大丈夫?」
「……うん」
まぁゆっくりでいいよね。無理することはないさ。同じクラスだし自然とみんなと仲良くなるだろう。
でもシホちゃんが仲間になりたそうにスズカを見ている。
仲間にしてあげますか?
――の画面で止まってるんだけど、僕どうすればいい?
仲間じゃなくて友達だとは思うんだけど。
スズカも隠れてはいるけど興味がないわけじゃないんだよね。
チラチラとしほちゃんのこと見てるし。
なんだろうこの絵。
ほっこりする。ふたりが見つめあって。片方チラ見だけど。
だけど中央に立たされるとちょっと困っちゃう。助けて母上!
と思ったら来た!
保護者向けの説明会が終わって、教室にぞろぞろと。
母上! ミオさん! ヘルプ!
「あら、まーくん。両手に花ね~。もうお友達できたの?」
「うん……」
「で、すーちゃんは……。そういうことね~」
一瞬で状況を理解されたミオさん。さすがスズカのお母さま。
ただ納得していないで、この状況を打開する術を教えていただきたい。
「しほ~」
「あ、まま!」
救世主、もといしほちゃんのお母さま登場だ。
おっとり系の綺麗な人ですね。美人ママ三人が集うと壮観です。
「しほ、お友達できたの?」
「うん。……まことくん!」
しほちゃんが僕の手を引っ張りお母さまにご紹介。大人しそうな顔して大胆だね!
反対側を見ると、袖から手を放してしまいポツンと置いてけぼりな顔になるスズカ。……これはマズいやつでは? その表情も可愛いけど!
そこへすかさずミオさんフォロー。「貸しよ?」ですって。三歳児に貸し作る大人ってどうなのよ?
それはとりあえず置いといて、まずはこっちの対応を――
「まことです。しほちゃんとさっきお友達になりました」
「あら、丁寧にありがと。しほのお母さんの真弓です。しほとお友達になってくれてありがとね?」
「どういたしまして」
三歳児がする挨拶ってどんな感じ? ちょっとわかんないんだけど。これで合ってる?
でもとりあえず乗り切ったようだ。
お母さま方も互いに挨拶していい雰囲気。でもそっちだけで空気作らないで!
すると、ミオさんから耳打ちされたスズカがトテテと駆け寄ってくる。そして袖を掴んでぴったりとくっつく。くっ、あざとい! あざといが可愛い!
反対側には手を繋いだしほちゃん。
そして再び互いに無言で見つめあう。片方チラ見だけど。
うむ……。
こういう時は、どうすればいいの?
前世の記憶がちっとも役に立たないんだけど?
読んでいただきありがとうございます。
次回⇒#014「隣」 2020/10/20 18:00更新予定
入園式は次回で終わりです。思ったより引っ張りすぎた感が…。
ノープランで突っ走ってるのでどうしよう…。




