#126 七夕の女子会
「「「お疲れ様~」」」
始まりました女子会です。
夏のボーナスも入ったこともあり、本日の会場はちょっとリッチにケーキカフェです。
なので掛け声もいつもの『乾杯』ではありません。あれは香り豊かなコーヒーではなく、ソフトドリンクでするものですからね。
私が最初に選んだのはチーズケーキです。
表面は艶やかで味わいも…………濃厚です。舌触りも滑らかで……一言で表すなら”幸せ”ですね。
ちなみにミク先生は苺のタルト、アイ先生はザッハトルテをオーダーしています。
「ミクせんせー、一口ちょーだい」
「じゃあ私もそれちょうだい」
「私もお願いします!」
仲良く一口ずつ交換し合いながら、ケーキを堪能します。
……ボーナスが入ったからと言って浪費はNGです。カロリーだって気になるお年頃。子どもたちの相手をすれば消費するのは容易だったりしますが……
「ミクせんせーは、ボーナスはやっぱりカメラに消えていく予定?」
「ううん、今回はパソコンかな。性能良いやつに替えたくって。データの処理にもたつくんだよねぇ……」
「結局はカメラってことじゃん」
「まぁ、間違ってはない」
いつも金欠気味のミク先生。お金の使い道は相変わらずのようです。
「リコせんせーは?」
「そうですね……。手品の道具を買ったら残りは貯金ですかね」
私も仕事兼趣味に。ミク先生ほど値が張るものではないですが。
「アイ先生はどうされるんですか?」
「私も貯金かなー。結婚資金にでもあてようかと」
「えっ!? アイ先生お相手いるんですか!?」
「いや、いないけど……。いつ良い筋肉に出会えるかわかんないしさ」
「「……」」
「なによ……」
一人残されてしまったのかと少し焦りましたが、それでこそアイ先生ですね。
「……リコせんせー、なんか失礼なこと考えてる? お仲間に対して」
「えっ、なにがですか?」
「リコせんせは意外と黒いからね~」
「そんなことないですよっ!?」
ひどい言いがかりです。
「ま、今日のところは不問にしてあげよう。魔の六月を乗り切ったばっかりなんだから今は甘味!」
「そうですよ! ――あ、すみません、注文お願いします」
気を取り直して早くも二品目。
ティラミス、モンブラン、ミルフェ……
「美味しいです……」
「あぁ……、生き返る……」
「幸せ……」
先生は子どもたちの成長や笑顔がやりがいとは言いますが、こういったご褒美も必要ですよね。
アイ先生が”魔の六月”と比喩したように、六月は大変ですから。
この月の行事と言えば日曜参観。
誤魔化しの効かない普段の授業風景を親御さん方に見せることになるので、ある意味幼稚園の行事の中で一番気を遣います。
幼稚園の授業参観は子どもたちを見ると同時に、先生に対する評価時間でもありますからね。トラブルの有無に関わらず精神がすり減っていきます。
何かトラブルが起きた時は……考えたくもありません……
しかもそれが三週連続で行われるんです。
子どもたちや親御さん方にとっては一日で終わるものかもしれませんが、私たちは年少、年中、年長と各学年別日となっているので……
私やアイ先生は年中の担任ではありますが、他の学年の日もお休みではありません。
準備作業や受付作業、万が一がないように普段より少しだけ手厚く子どもたちを見守ったり、親御さん方の案内や質問に答えたり、ご兄弟をお預かりしたり、不審人物が紛れ込んでいないか警備をしたりと……
担当学年の日よりはいささか気持ちは楽ですが、裏では結構動いていたりするんですよ?
ミク先生も写真の撮影販売員として忙しくされていました。
もともと六月は祝日が無いうえに、三回も日曜日の半分が潰れるんです。平日は普通に授業がありますから、もちろん代休はありません。その分の手当はありますが。
なので地味に精神的にも体力的にも大変なんです。
女子会をする暇もありませんでしたし。
「いやぁ、クラスが平和って……いいね!」
しかしアイ先生は上機嫌です。
「最近はヒロマサくんも落ち着いてきたからさ。ヒロマサくんのお母さまからお礼言われて、元きく組のお母さま方からも認められた気がして……。先生……やってでよがっだ……」
「えっ、アイせんせ!? 今泣くの!? えっと、ほら、甘いもの食べて笑顔笑顔……!」
「…………おいぢい」
年中組の参観日当日を思い出し、思わず涙ぐむアイ先生。
お気持ちはすごく分かります。
アイ先生は去年のこともあって、日曜参観がトラウマ気味でしたからね。私が知る限り『先生辞める』のピークでした。
年少の日曜参観は少々特殊で、親御さん方が初めて見る我が子たちの幼稚園生活の風景であり、クラスや先生を見定める日でもあります。
最初が肝心とはよく言います。
そんな大切な日、去年度アイ先生が副担任をしていたきく組では喧嘩が起こった上に沈静化に手間取ったため、親御さん方からの評価はあまり良いものではありませんでした。
一度失った信頼……は言い過ぎかもしれませんが、親御さん方からの目が厳しくなるのは言うまでもありません。
そして今年度。
副担任にベテランのセイコ先生、そして人たらしのマコトくんを獲得したとはいえ、今年度も喧嘩の当事者だったヒロマサくんを担任として受け持つことになったアイ先生の気苦労はすごかったと思います。
年中も初日からクラスの雰囲気が険悪でしたし、うさぎ組は元きく組の子が多くいる(……と言うよりも、元ばら組の子が少なすぎて他のクラスの子の絶対数が多い)ので、去年の出来事を目の当たりにした親御さんが多いということですからね。
そんなプレッシャーの中、ここ最近はヒロマサくんの言動もだいぶ大人しくなってきて、先日の日曜参観も何事もなく無事に終わった上、親御さん方からの評価も悪くないと来たら……
「えっ!? ちょっと! なんでリコせんせも泣きそうになってるの!?」
「すん……、すみません。アイ先生につられてしまって……」
「あ、ケーキなくなっちゃった……。次何頼もっかなー」
「当人はすでにケロっとしてるんだけど……」
「……」
……ひとまず無事に終わって良かったです。
そして三周目のケーキに突入したところで、そういえばとミク先生が切り出します。
「年中組の七夕の願い事がマコトくんだらけって聞いたんだけど?」
実は本日七月七日。七夕です。
ですが土曜日と言うことで、昨日幼稚園では七夕イベントがあったのですが……
「そうなの?」
アイ先生はご存じないようですね。
マコトくんがいるクラスだからでしょうか……
「そうですね。『マコトくんと一緒のクラスになれますように』が一番多かったです」
他にも、『マコトくんとたくさん遊べますように』とか『マコトくんになれますように』とか。
主に元ばら組の子たちのお願い事がそうでした。
本当にみんなマコトくんが大好きですよね。
違うクラスになってもその存在感は健在です……
「リコせんせもそう書いたの?」
「へっ?」
「くっ、失念していた……」
「いえ、書かないですよ!」
流石に先生が書くのはまずいです。
だからアイ先生も本気で悔やまないでください!
「ちなみにミクせんせーはどうなの?」
「へっ?」
「『リュウヘイさんと結婚したい♡』……とか書いたの?」
「……」
あ、矛先がミク先生に。
スズカちゃんみたいな願い事ですね……
そうして今日の女子会も、楽しい時間となりました。
「……なにそれ。七夕の夜にカメラデートとかなにそれ。天の川一緒に撮るとかなにそれ。なんでまだ梅雨明けてないのに今日は晴れなの? 雨降らないかな……」
「メグロ先生って意外とロマンチストなんですね~」
「あ、おしぼりでテルテル坊主作れそう。逆さに吊るせばいけるかな……」
「ちょっと!」
読んでいただきありがとうございます。
【今年のスズカの願い事】
”ねんちょうさんはまーくんといっしょのくらすになりたい”
”まーくんのしゃしんがいっぱいほしい”
【今年のマコトの願い事】
”みんながげんきでいられますように”
”ねんちょうはスズカといっしょのクラスになれますように” ←スズカに書くよう念を押されて
この願い事を見た幼稚園側がどう対応するのかはあと五十話後くらいに書く予定(話数は適当に言ってます




