#011 お披露目会
「はいこれ、まーくんの服」
「ありがとうございます」
僕はミオさんから服一式を渡される。
入園式に着ていく服だ。
明日に迫った入園式ということで、試着兼お披露目会 in 戸塚家!となっている。
前世では指定の服着てた気がするけど、今回通う幼稚園は入園式と卒園式は自由らしい。普段着用の園服はあるんだけど式典用は別。だから――
スズカの可愛い姿が見られる!
ということで、僕のテンションは高い。
疲れた顔をしているかもしれないが、目はキラッキラしてるだろ? え、死んでる? そんな馬鹿な……。
いやまぁそれはいい。
それよりも今、手に持っているものの方が問題だ。
「ミオさんこれ、ワンピースなんだけど……?」
「うん、そうだよ?」
……おかしいな。違和感を感じて聞いてみたんだけど、ミオさんはそれがどうしたの?と言わんばかり。
「おかーさん……?」
「はやく着てらっしゃい」
「……」
真面目な母も違和感を感じていないようだ。ということは僕の気のせいなのか?
前世の記憶だと、ワンピースって女の子が着る服だったと思うんだけど……。
僕の知っている世界とはちょっと違うのかもしれない。転生してるしね。
着ないよ?
騙されないよ?
ミオさんも母も口端ピクピクしてるからね? 目合わせないようにしてるのわかってるからね?
「おかーさん?」
「……なに?」
「これ着たら明日も絶対にこれ着るけどいいよね?」
「……」
「これ以外着ないけどいいよね?」
「……」
よし、母上突破!
さすがに一人息子が入園式でワンピースは認められなかったのだろう。僕が望んでるわけでもないのからね。
「……ミオ助けて」
「まーくん。これ着てくれたらすーちゃんが喜ぶわよ? ね、すーちゃん?」
「うん、まーくんがきてるのみたい。むふぅ」
僕陥落。
着るよね?
スズカが望むのであればワンピースだろうがビキニだろうが着てやるよ!
というわけで、僕は渡されたワンピースを着て写真を撮られた。
ミオさんも母上もノリノリだった。
……。
冷静じゃなかった。
たぶんこれは黒歴史になる。カメラのデータ、後で絶対消す。
僕は本来の服に着替えた。
スズカも入園式に着ていく服を着ている。
というか僕が着たワンピース。スズカの服だったみたいだ。
僕が着たワンピースをスズカが……。
……。
おっとちょっと気持ち悪いことを考えてしまった。これはなし。
気を取り直して。
スズカがかわいすぎて辛い。
何を当たり前なことを……って思ってる?
いや、普段から可愛いよ?
でも今回はいつもと違う雰囲気がそれを際立たせている。
ちょっとおめかししたスズカ。
スズカの服装は濃いめのグレーのチェック柄のワンピース。裾は控え目なフリル付き。そこに同じ柄の上着を羽織り、帽子を頭にちょこんと乗せている。
少し大人びた雰囲気の服。普段とのギャップがヤバい!
いつもと違ったスズカが隣にいる。
ミオさんさすがです! 写真お願いします!
服の雰囲気に流されて、ちょっと澄ました顔をしてるスズカが超可愛い。
「すーちゃん、かわいいね」
「………………むふぅ」
我慢するんだけど照れていつもの感じになるのもまた可愛い。
「まーくんも、かっこいぃ……」
「ありがと」
「……みゅふぅ」
なにこの可愛い生き物?
最近になってぽけーっとした感じとか照れる回数とか減ってきてたんだけど、今日は照れまくりだね。
僕が女装した時からちょっとおかしい。僕が原因か?
あと僕の服装も説明しておかないと。
え、いらない?
男服の解説とか興味ない?
つれないなぁ……。
なんかデジャブ。
でもこれだけは言っておかねばならない。
ペアルックなのだよ。
スズカ様とのペアルック。
ヒラヒラはさすがについてないけど。
僕の服装はスズカと同じ色柄の半ズボンスーツ(子供用)。
前世でスーツに慣れていた僕としては、半ズボンというところが妙に違和感がある。
ピシっとしているのに、ひざ下がすーすーする。新感覚。
頭が大きく足の短い子どもに長ズボンは似合わないってミオさんが。
ファッションに疎い八代家はミオさん任せなのです。
「まーくん、いっしょ……むふぅ」
スズカ様もペアルックがお気に召されたようなので、僕としてはもちろん文句はない。
少し気恥ずかしいけど。
「はい、すーちゃんとまーくん並んで~」
「まーくん、こっち」
「まーくん、もうちょっと生き生きした目で! 表情も!」
「これ精一杯なんだけど……」
「「……」」
「……もうちょっと寄って! 手つないで」
「まーくん、て!」
「あいさー」
「すーちゃん、ちょっとだけ首傾げて。まーくんの方に」
「こーお?」
「!?」
「まーくん! ちょっとしっかり立って!」
このあと姦しい母親二人にいろいろと指示されながら写真を撮った。
スズカがかわいすぎてくらくらしてきた。
前日に見ておいてよかった。
当日だと柄にもなく緊張してしまったかもしれない。
今日は疲れたけど満足。
明日の入園式に向けてぐっすり眠れそうだ。
スズカもマコトも寝静まった頃――
「この写真いいわね」
「ミオもそう思う? ちょっと恥ずかしがってるところがいいのよね、まーくん」
「まーくん、すーちゃんにメロメロね~。しっかし我が娘ながらホントにかわいいわぁ」
「ほんと、すーちゃんも似合ってるわよね。さすがミオ」
「二人の晴れ舞台だからね~。頑張って選びましたよ~!」
「ありがとね、まーくん共々。…………あ、これもよくない?」
「おぉ、まーくんのワンピース! それならこっちのワンピースは~?」
「これも捨てがたい……。待ち受けにしようかしら……」
「いいんじゃない? あとバックアップもちゃんと取っておかないとね」
「そうね、すーちゃんとまーくんの大切な成長記録だもんね」
「こっちの写真、アカリのにも入れといてくれる?」
「うん、ミオの方にもよろしくね?」
「おっけ~」
「というかまーくん、妙に着慣れてるよね? どこかのサラリーマンみたい」
「ふふっ、それは言い過ぎよアカリ~。まーくんまだ三歳だよ~?」
「そうよね、ふふっ」
スズカとマコトの写真は、少なくとも以下に残されている。
・ミオの携帯データ
・アカリの携帯データ
・現像済写真
・戸塚家バックアップデータ
・八代家バックアップデータ
お互いにバックアップのバックアップを取ることで、盤石な体制を築いていた。
マコトが黒歴史を消せるかどうかは、まだ誰も知らない。
読んでいただきありがとうございます。
次回⇒#012「入園式って憶えてる?」 2020/10/18 18:00更新予定(
更新速度落とします。すみません。ストックが……。もともとないですが……。
改稿履歴
2020/11/08 21:37 行間修正




