#111 逃走劇の監視者たち
遅くなり申し訳ございません。
「「「かんぱ~い」」」
始まりました女子会。
日曜日のティータイムにファミレスで女子三人というのも少し悲しくなってきますが、他の幼稚園の先生方はどのように過ごしているのでしょうか……
気を取り直して。
恒例の山登りが終わり、新学年も一区切りです。
GWで一区切りかと思われるかもしれませんが、保護者面談や遠足の準備にと結構バタバタしているのが現実です。
春の遠足と言えば、新しいクラスメイトたちと仲良くなるためのレクリエーション。
年少さんにとっては、陽ノ森幼稚園のすぐ裏にある自然を知ってもらう最初のイベントでもありますね。
クラスみんなで同じ何かをすることで、まだ少しばかり残っていた他人行儀な雰囲気もなくなり、クラスメイトとしての絆が生まれたんじゃないかと思っています。
そんな新学級最初の大きなイベントを終えた今回は”お疲れ様会”です。
「ぷはぁ~……、いぎがえるぅ~~~」
ミク先生が炭酸のソフトドリンクを一気に飲み干し、ベンチシートでぐったり脱力。非常に疲れた様子ではありますが、どこか達成感のようなものも見て取れます。
「今年もたくさん撮れたみたいですね」
「げふっ……、撮りすぎたとも言う」
「カメラの腕が上がった証拠ってことよね」
「……複雑な心境」
ミク先生は年少組の写真撮影班。
子どもたちのお世話の傍らでシャッターを切る係ですね。
なので遠足や課外授業、運動会や学芸会といったイベントに引っ張りだこになります。そしてその度に大量の写真を撮り、選別しなければなりません。
「今日の午前中も写真整理してた! 頑張った! 終わった!」
「「お疲れ様です」」
「褒めて!」
「「みくせんせーえらい!」」
春の遠足の写真は、もうすぐある授業参観で販売することになるので、早めの作業が求められます。平日は平日のお仕事がありますし、現像する時間も考慮して、休日返上で頑張られたみたいです。本当にお疲れ様です。
「年少組はどんな感じでした?」
「……まぁ、例年通りだったよ? 団体行動初心者たちをどうにかして山の上まで運んだって感じ」
「そんな感じよ。普通は。普通はね!」
「ぁ、その……」
ミク先生とアイ先生の視線に若干のトゲが……
振る話題を間違えてしまったようです……
「苦労を知らないリコちゃんなんて知らないっ!」
「知らないッ!」
「えぇ……」
ぷんすか拗ねた様子の二人は席を立ってしまいます。
空になったグラスを持って。
アイ先生もいつの間に……
「――で、年中はどうだったの?」
戻ってきたミク先生が開口一番。
年少組につきっきりだったミク先生は、私たち年中組の状況はご存知ありません。
「なんかドロケイ大会開かれたって聞いたけど? そのせいで帰りはお通夜だったって……」
下山途中に年少組とすれ違いましたが、展望アスレチック広場で体力を使い果たしてしまったようで、子どもたちは敬礼をする余裕もありませんでした。
こまめに休憩をはさみながら、子どもたちの驚異的な回復力を充てにして、何とか頑張って幼稚園までたどり着いたのが良い思い出です。
おんぶで運んだりなんてしませんよ? 一人しだすとみんなしたがりますから。私たち先生側がパンクしちゃいます。
「アイ先生も参加してましたよね。もう全力で」
「いやぁ、楽しかった」
マコトくんが主催?のドロケイ。
元ばら組の子たちは、年中になってからも仲良しです。
朝の自由時間もよく一緒に走り回っています。
展望アスレチック広場での自由時間も、予想通りばら組の子たちはマコトくんに群がりました。
最終的に子どもと大人と合わせて五十人近くが参加していたんじゃないでしょうか。大逃走劇でした。
「ヒロマサくんも活躍の場があって、とっても楽しそうだったんですよ?」
「へぇ~」
「アイ先生捕まえて『よっしゃぁーーー』って雄叫び上げてましたもんね」
「あぁ……アレね……」
アイ先生も苦笑いで思い出しているようです。
うさぎ組ではすでにマコトくんやユウマくんがクラスの中心になっているそうなのですが、プライドが邪魔してその輪になかなか入ることができないでいたヒロマサくん。
そんな彼も、みんなで一緒に遊ぶことができたと知って、私もなんだか一安心です。
「マコトくんに頼まれて……」
「……えぇ?」
「ヒロマサくん、ジュンちゃんにも山登り勝負で勝てないし、ヒメノちゃんに叱られて目立てないしでフラストレーション溜まってるから、先生捕まえたらヒロマサくんも良い思い出になるんじゃないかな?……って提案されたのよ」
「へぇ……」
「で、私もヒロマサくんの様子が気になってたから、その話に乗ったわけ」
そうだったんですね……
さすがマコトくんですね。相変わらずお友達のことをよく見ています。
「マコトくんってさ……、本当に子ども?」
「「……」」
「ヒロマサくんに無視されても敵視されてもどうってことなさそうにしてるし」
「「……」」
「普通そんな子に優しくしようとする? あまつさえ花を持たせようとまでしてさ……。対応が子どものソレじゃないよね……?」
「確かに……」
「あとお友達を褒めたり、感謝の言葉もしっかり伝えられるしさ。そりゃぁモテるわよ。老若男女問わず」
「ちなみに一年間マコトくんの担任だったリコせんせーは、そこら辺どう思ってるの?」
「えぇっと、その………………マコトくんですから……」
「ダメだこの子」
「うん、ダメね」
「えぇ……」
面談で色々とお聞きしましたが、特にこれと言って特別な何かしているわけではなさそうでしたし、お母さま方も「まーくんだし」とおっしゃられていましたよ……?
「ドロケイもさ、他の子と違って頭使ってやってるのよ」
「例えば?」
「泥棒を追い込んで他の子に捕まえてもらったり、牢屋で泥棒に紛れて休憩して、助けに来た泥棒を待ち伏せてみたりとかさ。やり方がいやらしいと言うか……汚いと言うか」
マコトくん、言われ放題ですね。
確かに、良くも悪くも人間というものを知っている子ですよね。
「で、でも、とっても良い子ですよ?」
「まぁ、それは否定しないわよ。良い子過ぎてびっくりするくらい。でもさ、子どもの良い子はユウマくんみたいな子なのよね」
「というと?」
「先生の言うこと聞けて、お友達とも仲良くできて……。そういう子って素直なのよ。染まっていないというか、ある意味考えなしというか」
「なるほど……」
「誰かれ構わず好き好き言っちゃうくらいに……」
「あぁ……」
ユウマくん、女の子に人気ですもんね。
可愛くて弟っぽいところでしょうか。歯の浮くような台詞もぽんぽん飛び出てきますよね。「大好き」を女の子に向かって躊躇なく放てるのは、もしかしたら年中組ではユウマくんくらいかもしれません。
「そこはほら、マコトくんにはスズカちゃんがいますし」
「そういえばスズカちゃんに抱き着いて捕まえて手繋いで帰ってきてイチャイチャしてたな……」
「あぁ……、二人を追いかけて写真撮りたかったな~……。リューヘーさ、先生はちゃんと撮ってくれたのかな……」
ミク先生もあの二人を撮るの好きでしたよね。
画になるとか言って。
でもそれよりも……
「「…………?」」
「え、なに……? どうしたの二人とも……」
「ミクせんせー、前までメグロ先生のこと苗字で呼んでなかったっけ?」
「いえ、呼んでました。あと”さん”付けしそうになっていたところを誤魔化しました」
「いや……、その……」
「アイ先生。判決を」
「アウト。弁解を求めます。私たちが納得のできない場合は、この場の支払いはミクせんせーとなります」
「横暴なッ!?」
そうして今日の女子会も、楽しい時間となりました。
「……リコせんせー、私たちミクせんせーに負けちゃう。ちっちゃいのに」
「別に勝負しているわけじゃ……」
「ちっちゃいって言うなッ!」
読んでいただきありがとうございます。
途中でキャラ紹介挟んでいますが、ようやく30万文字を超えました。
しかし書くのに慣れる気配がない…




