#108 どんぐりと山登り
「すーちゃん、またあとでね」
「うん……」
登山道入り口に着いた。
電車ごっこも終わりを告げ、名残惜しそうにするスズカとハイタッチで別れの挨拶。
本当はハグしてチークキスをしたいようだけど、外ということで自重しているようだ。あとは、他の子に真似されないようにだろうか。
スズカ以外にも、シホちゃん他元ばら組の面々や、流れに身を任せた初めましての子たちと何度かハイタッチをして――
「あっ、よけるなよー!」
ジュンがどさくさに紛れていたので避けたりしながら、掌の感覚が鈍くなってきたところで列が終わり、クラスごとに一旦の休憩に入る。
リュックから水筒を取り出して喉を潤したり、トイレに行ったり。
電車ごっこでジュンが大人しかったおかげで、去年よりもだいぶ体力に余裕がある。それに僕も成長しているからね。
だが僕が成長しているということは、他の子も成長しているということ。特訓とかしている子もいる。気を抜いてはならない。
休憩を終えると、いよいよ登山開始。
アイ先生に注意事項を念押しされてから、入り口の門をくぐる。
「ユウマ、登山の基本は急がないことだぞ」
「うん、わかった!」
運動は好きだが苦手なユウマに、老婆心からアドバイスを。
ユウマの張り切りようを見ていると、最後まで体力が持たない気がする。
歩き始めた僕たちは、すれ違う人たちに元気に挨拶をしながら進んでいく。
「ところでコタロウは……なにしてるんだ?」
「……どんぐりあつめてる」
ジュンやユウマとは対照的に物静かなコタロウは、地面を注視しながら歩いていた。
落ち葉の陰に隠れているドングリを見つけては、土を払ってズボンのポケットの中に突っ込んでいく。
「ぼくもさがす!」
ユウマもその茶色い木の実に興味を示して参戦する。
「う~ん、ないよ~?」
ドングリ探し初心者のユウマはコタロウの傍をうろちょろしながら探すが、なかなか見つからないようだ。
それもそうだろう。ドングリのシーズンは秋。
栗と同じブナ科だと考えれば分かりやすい。
今拾えるのは、ここに住む生き物たち(と目の前にいるような人たち)が見落とした残り物だけだろうから。
ちなみに陽王山にはドングリを落とす木がいくつかある。
丸っこいクヌギのドングリと、細長く色の濃さが異なるコナラとマテバシイ。そしてみんな大好き「すだじー」さん。
「あっ、あった!」
ユウマが喜びの声を上げる。
「なんかついてる」
「ゆうますごい。ぼうしつき。れあ」
「そうなの? やった!」
楽しそうな男児二名……と同じようにドングリ拾いに精を出す子がちらほらと。
え?
僕はやらないのかって?
やらないよ。
子どもじゃあるまいし……
それにドングリって、中に虫の卵とか産みつけられている可能性もあるんだよ?
なんと恐ろしい……
「ユウマ、コタロウ、ドングリに小さな穴が空いているのは捨てなさい」
「なんで?」
「そこにはね、虫さんが住んでいるんだよ。虫さんもいきなり家が移動したら驚いちゃうだろ?」
「そっか!」
「わかった……」
素直に聞き入れてくれた二人は、集めたドングリを一つずつ確認する。右のポケットから左のポケットに移動させながら。
「なかった!」
「ぼくも」
それなら一安心か。
季節的にはすでに孵化しているかもしれないが、もしかしたらがあるかもしれないからね。
……吉倉家と守橋家の洗濯機が心配だったんだよ。
さすがに確認してから洗うだろうから、ドングリをポケットに突っこんだままとかないと思うけどね。
そうして集団から遅れないように、下を見て歩く友人たちに声をかけながら山を登る。
「まことー! だんごむしいっぱいみつけた!」
「そうか。置いてかれちゃうから行くぞ」
道中、僕に報告してくる友人たち。
「だんごむしって、ごきぶりのなかまなんだよ」
「あれっ……そうだっけ?」
博士も知識をひけらかしてくるが、その情報の真偽はどうだろうか。
確かかまきりの方が分類上は近かったような……
「つかまえた!」
「放してあげなさい」
虫さんを拉致してくる子や見せびらかしに来る子。
「みてみてー!」
「!? ……それ以上こっちに来るなよ?」
まじやめて。
ほんと男子ってガキなんだから……
「まことくんむしさんきらい?」
「……そうだね、得意ではないかな……」
「みほしもね、にがてなの……」
「あやもむしきらいー! きもちわるいもん」
ほんとよねぇ。
そういう意味では、女子グループの方が居心地が……
「まことくんつかれたぁ」
「あたしもぉ~」
「……もうちょっとで休憩だろうから頑張ろ?」
しなだれかかって来る友人たちをささっと躱す。
そういう行為はNGで。うさぎ組とは距離があるようだが、どこに目があるかわからないんだから! ほら、メグロ先生がカメラを構えてる。
そうして登り始めて一時間も経たないうちに、去年お弁当を広げた中腹にある広場に着く。
十分ほどの小休憩を挟んで、再び歩き出す。
進行ペースは年少時よりも速い。
去年は展望台がゴールだったが、今年は登って下りて幼稚園がゴールだ。道のりは単純に二倍になっているのだから、当然と言えば当然か。
歩くペースが速いというよりも、道草を食っていない分早く進んでいるように感じているだけかもしれないが。
皆で一塊になって登っていた去年に対し、今年は行き急ぐグループが先行して進み、少し広さのあるポイントで遅めのグループを待つような形で進んでいる。思ったよりも差が開いている。
ジュンはと言えば、相変わらず先頭と最後尾を行ったり来たりと元気いっぱい。
秘密の特訓の成果か、疲れた様子はまったく見られない。
そんなジュンに対して、ライバル意識むき出しのヒロマサくん。
年少の頃は独壇場だった体育の授業も、残念ながらジュンの存在によって霞んでしまったからね。かけっこもクラスで三番。
山登りでは負けじと頑張っているようだが相手が悪い。
ジュンの相手をするなら、頭を使わないと。
「ふぅ……」
先頭グループに追いつくと、ジュンが膝丈ほどの岩の上に仁王立ちしていた。
「まこと! おそかったな!」
「あぁ、ちょっと頂上の様子を見てきたんだよ。戻って来るのに意外と時間がかかってしまったようだ……」
「なにっ!? もううえまでいってきたのかっ? まことすげー!!」
頭と言うか、嘘と言うか。
「……ヒロマサくん、大丈夫?」
「はぁ……、はぁ……、だいじょうぶだし!」
ジュンに付き合って息を切らしているヒロマサくん。
心配してみるものの、バツが悪そうに顔を背けられてしまった。
なんかちょっと可哀そうになってきた。
しかし、ジュンに手加減しろと言うのもね。
たぶん言ってもできないだろうし。
「無理しないようにね……」
「ふんっ……!」
読んでいただきありがとうございます。
改稿履歴
2021/05/22 15:40 どんぐりの木にスダジイを追記。




