#105 ずりばい
遅くなり申し訳ございません。
今年も忙しいGWだった。
そして気付けば最終日。
吉倉家にお邪魔して小学校の自慢話?を聞かされたり、フウカとキョウカと一緒に近所の公園までお散歩したり。あとはいつも通りスズカと遊び倒したり、母上との絆を深めあったり……
お気楽な子どもの身ではあるけれど、名残惜しいと思ってしまうのは仕方がないよね。
ママ友たちの話を小耳に挟むと、子どもが家にいるとゆっくりできないのかなと心配もあったけど、親たちも十分休めたようだ。
そして「今夜は晩餐よ!」とミオさんが張り切り、母上と一緒にお買い物に。ちなみに僕は戸塚家でお留守番だ。
「――ひゅぅーーん」
「あー! きゃっ!」
「きゃっ! だっ!」
一人残された親――ミツヒサさんは、その大きな両の手と腕でフウカとキョウカのお腹を支えて、飛行機の模型を飛ばして遊ぶ少年のよう。
そして双子は楽しそうに手足をバタバタさせている。
もしかしたら自らの力で移動していると思っているのかもしれない。
そのままいけば、この子らは自力で空を……
ベランダの鍵はしっかりと閉めておかねば……
空を飛ぶのは別として、最近はずりばいで動き回ることもできるようになったしね。危険は事前に排除。
そんな妹たちを真似してか、スズカもずりばいを――
「――まーくんつかまえた……!」
「つかまっちゃった」
「~♪」
――なぜしているんだろうか。
いやまぁ、楽しそうだからいいんだけどね。
そういえば、スズカがずりばいをしている姿は見たことないや。
一番古い記憶ではすでに立っていたような気が……
そういう意味では、双子の成長は新鮮に映る。
「あっ! まーくんにげた……!」
残念そうに、しかし嬉しそうなスズカ。
再び妹たちの真似をしてずりばい――ではもどかしかったのか、今度はハイハイで追いかけてくる。
これが俗に言う赤ちゃん返りというやつなのか。
フウカ、キョウカ、次に目指す移動手段を姉が示してくれているぞ。
「っと……、ミツヒサさんシールド!」
逃げる僕は、あぐらで座って双子と戯れる巨体の陰に隠れる。
スズカの前に立ちはだかったミツヒサさんではあったが……
「ここから先にはいかせんッ!」
「……むぅ」
「あと十年は――」
「――じゃまするパパきらい」
「お、ぉぅ……」
愛娘の毅然とした一言にあえなく撃沈。
フウカとキョウカの安全を確保しながら、そのまま器用に後ろに倒れた。
脆すぎるだろ……
「うー、あー?」
「だぁ、ぶっ!」
次女と三女は動かなくなった父親を掴んで叩いて……
しかし反応はない。ただの屍のようだ。
「パパをのりこえて、すーはれでぃになる……」
そして長女は物理的に父親を乗り越え始める。ハイハイのまま。
淑女とは何ぞ……
「……だが、まだ、早いッ!」
「ぉーーー!?」
突如再起動したミツヒサさんが、スズカの両足首をがっしりと掴み淑女への道を阻む。
「そんなんじゃ立派なレディにはなれんぞ~」
「んーーー!」
ミツヒサさんを振りほどこうともがくスズカ。
しかし可愛いおしりがふりふりと振られるだけでびくともしない。二人の体重差は……淑女にその話は禁物か。
「……まー、くん……」
「すーちゃん頑張って!」
「うぅーーー!」
スズカが手を伸ばせば届きそうなギリギリのラインで応援する僕。
薄情って?
いや、これもスズカの成長に必要な試練……のはず。淑女になるためにはきっと。僕にはわからんが……
しかし頑張りも空しく、ミツヒサさんに引き戻されるスズカ。僕との距離が徐々に開いていく。
「あー、だっ……!」
「うー、だっ……!」
「あぁごめんごめん、フウカとキョウカも忘れてないぞ~」
姉だけじゃなくて自分たちもいるぞとアピールする双子に、ミツヒサさんの気が逸れスズカを引く力が緩んだ。
「まーくん、つかまえた……!」
一瞬の隙を突いたスズカは、僕の足を掴むことに成功する。しかしその瞬間、
「ぉーーー!?」
ミツヒサさんが再びスズカを引く。
すると何が起こるか。
「ちょ……!?」
僕が仰向けに転がり引きずられる。当たり前だよね。
まるで地に落ちたサーカスの空中ブランコのように……
「~♪」
床を拭き掃除するスズカが楽しそうに悲鳴を上げる。
そんな娘の姿に、父親もテンションが上がる。
「フウカはスズカ号に、キョウカはマコト号に乗るか」
「あぅ……」
「ぁーだっ!」
スズカの背に乗り、小さな手で服を握りこむフウカ。
そして僕の腹の上に乗るキョウカ。
あっ、よだれが……
「じゃあいくぞー」
ミツヒサさんの適当な掛け声で、僕たちは引きずられ始める。
家具の合間を縫って家中の床を拭き掃除……
「やっぱり狭いよなぁ……」
そんなミツヒサさんの呟きが聞こえる。
まぁ、ここのアパートは新婚さん向けの1LDKだしね。
五人に増えた戸塚家には少し手狭に感じるかもしれない。
そこに家具やらおもちゃやらがあればなおのこと。
「――ただいま~」
そうして遊んでいると、母たちが帰ってきた。
「おかえり~」
「ママおかえり」
「おかえりなさい」
ミツヒサさんがスズカの足をつかんだまま、玄関へとお出迎えに。
ミオさんと母上からしっかり詰まった買い物袋をミツヒサさんが受け取る。
スズカもようやく解放された。
「すーちゃんたち楽しそうね~。みーくんに遊んでもらってたの?」
「うぅん、パパのしれんにちょうせんしてた」
「あらそうなの?」
「うん」
「どうだった?」
「あのね、まだすーはちからぶそくだった」
「そっか~。残念だったね~」
「でもまーくんはつかまえた!」
「離しちゃダメよ?」
「うん!」
いや、そろそろ僕の足も解放してほしいんだけど……
「まーくんもお留守番ありがとね」
「おかーさんお買い物お疲れさま。晩御飯何作るの?」
「まーくんの好きなあれだよ~」
「お手伝いしたい」
「う~ん、じゃあまずはすーちゃんをどうにかしないと……」
「すーちゃん……?」
「だめ。ママがいってた」
「……」
GWも変わらずスズカは絶好調であった。
読んでいただきありがとうございます。
改稿履歴
2021/05/10 08:37 サブタイトル記載漏れ修正




