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72 ラブホテルへ

 ユズリハとキャルルが、俺のことが好き、だと……?

 しかしそう言われても、俺は素直に飲み込むことができなかった。


「そ……そんなわけはないだろう。俺は好かれることなんて、なにもしてないのに」


 するとハスミは、わざとらしいほどに大きな溜息をついた。

 俗に言う『クソデカ溜息』というやつだ。


「ハアァ……。よく言うわねぇ、ステージのあなたを見てたら、この私でもじゅん、ってなっちゃったのに」


 は……ハスミが、じゅんっ……!?


 俺は思わず想像しそうになったが、頭を振ってその妄想を追い払う。


「いやいや、たとえそうだったとしても、俺はまだアイツらには相応しくない。だって俺いまだに、アイツらを性欲のはけ口くらいにしか見てないんだから」


「いいじゃない、別に。きっとあの子たちも喜んでくれると思うわよ」


「そっ、そんなわけあるかよ。性欲のはけ口になんかにされて、喜ぶ女がいるわけが……」


「じゃあ、これならどうかしら? 好きな人においしい料理をいっぱい食べてもらえるって、作るほうも、食べるほうも、どちらにとっても幸せなことだと思わない?」


「そりゃそうだな。食べるほうはもちろんだが、好きな人においしく食べてもらえるのは、作るほうにとっても嬉しいことだろう」


「それって食べる側からすると『食欲のはけ口』にしてるんじゃない? でも作る側としては嫌じゃないでしょう? 『食欲のはけ口』にされるのは嫌じゃないのに、『性欲のはけ口』にされるは嫌だなんて、変じゃない?」


 それは完全に詭弁だったが、俺は「うっ」と言い返せなくなってしまう。


「好きな人のためであれば、女はなんだって嬉しいものよ。ごはんを作るのも、ごはんを作ってもらうのも、いっしょに眠るのも、セックスするのも」


 ハスミはウインクしながら続けた。


「しちゃいなさいよ、『はけ口』に。きっとあの子たちは嫌がらないと思うわよ。だってご主人様のことが大好きなんだから」


「ううっ……!」


 唸るだけで精一杯の俺に、


 ……ピロリン!


 『人生ガチャ』が助け船を出してくれた。

 俺は話を打ち切るように、スマホの画面に逃げる。


 するとそこには、


 『家ガチャ』


 今までになかった、新手のガチャが……!


 名前から想像するに、住む所が変えられるガチャなんだろうか。

 いま俺はボロアパートに住んでいるから、変えられるもんだったから変えたいものだ。


 俺は深く考えずに、そのガチャを引いた。

 これが良くなかった。


 出たのはなんと、


 『ラブホテル』っ……!?


 いやいやいや、これ、家じゃねぇじゃん!

 ホテルじゃん!?


 俺がアタフタしていると、いつの間にか後ろでキャルルとユズリハがスマホを覗き込んでいた。


「ああっ!? 新しいお家、ラブホテルだって!? 超いいじゃんっ! さっそくいこーっ!」


「らぶほてる? それは何なんでしょうか?」


「ダーリンとラブラブしまくれるホテルのことだし!」


「えっ、旦那様と、らぶらぶできたうえに、火照る……!?」


「そーそー! とりま行くし!」


「おい! カラオケ感覚でラブホテルに行こうとするんじゃない! って、引っ張るな!」


「えーっ、だってダーリン、あーしらとぜんぜんラブラブしてくんないじゃん! ユズっちもラブラブしたいよねぇ!? じゃあ、そっち持って!」


「はい、はいっ! 失礼します、旦那様! わたくしも旦那様と、らぶらぶさせていただきたいですっ……!」


「ちょ、ユズリハまで何をっ!? こいつらに何とか言ってやってくれ、ハスミっ!」


 俺はハスミに助けを求めたが、ヤツは手を振って見送るばかり。

 道行く人たちは俺たちを見て、口々に噂していた。


「お、おい、あの子たち、今からラブホに行くってさ!」


「マジかよ!? あの子たち、まだ女子高生くらいじゃねぇ!?」


「それに見て、あの恰好! ほとんど裸じゃない!?」


「最近の女子高生ってのは、進んでるんだなぁ……」


 俺はサンバ衣装の女子高生という、目立ちすぎるふたりに引きずられ、夕暮れのネオン街に消えていった。

お話はまだまだ続くのですが、ここで完結とさせていただきます!

ここまで読んでくださり、誠にありがとうございました!

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