70 新ヒーロー誕生
不意に、ステージの両脇にあるスピーカーから、爆音が放たれた。
……ドガァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーンッ!!
嫁たちはびっくりして肩を振るわせ、さらにきつく俺に抱きついてくる。
身動きの取れない俺は、何事かとあたりを見回してみる。
すると、頭上のモニターには、
『新ヒーロー 正義の権化ドンキーブル』
と、いかにも急ごしらえで作ったようなロゴが表示されていた。
そして懲りもせず、進行役のお姉さんが三度ステージに戻ってくる。
「ななっ、なんとぉ! インカネーションの正体は、実はとっても悪いモンスターなのでした! ドンキーブルはその正体を探るために、わざと悪役をやっていたんだよぉ!」
観客たちはボロ雑巾となったインカネーションを放り捨てると、わあっと歓声をあげた。
「やっぱりそうだったんだ! 今日のステージのドンキーブル、カッコ良かったもん!」
「そうそう! 剣の達人だけじゃなくて、ケンカも強いだなんて、すげぇや!」
「当然だよ! あんな美人のお姉ちゃんたちが好きになるんだから!」
子供たちはすっかり心酔した様子で、俺に羨望の眼差しを送っている。
「ああん、私もドンキーブル様にああやって、抱きつきたぁ~い!」
「『正義の権化ドンキーブル』って新番組なんでしょう!? インカネーションなんかより、ドンキーブル様のほうがずっと素敵っ!」
「帰ったら旦那と息子に手伝わせて、さっそくインカガールに応募しなくっちゃ!」
オバサン連中にいたっては、さっそく俺のとのロマンスを熱望していた。
そして、お姉さんのかけ声によって、客席はふたたびひとつになる。
「よい子のみんなぁ! これからはドンキーブルを応援しようね! せーのっ!」
「ドンキブルぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
それは番組改編期のような、残酷なまでのヒーロー交代劇。
多くの観衆は俺に注目し、もう過去のヒーローには見向きもしていない。
フリュンヌは飽きて捨てられたオモチャのように、屋上のゴミ捨て場に倒れている。
やがて駆けつけた警察に取り押さえられ、引きずられるようにして屋上から退場していった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
いつの間にか俺は、新しいヒーローに仕立て上げられてしまった。
ステージが終わったあと、着替えるために控室に戻ったんだが、プロデューサーが揉み手をしながら待っていた。
「いやあ、最高でしたよドンキーブル! 明日からさっそく新番組の収録ですからね! んじゃあ今夜は景気づけにいっちょ、寿司でもいきますか!」
少し前までは俺をクビにしようとしていたのに、恐ろしいほどの手のひらの返しっぷりだ。
きっと新番組を指示したのも、コイツの差し金だろう。
もちろん俺はドンキーブルを続ける気はなかったので、蹴飛ばして追い払う。
俺がドンキーブルをやったのは、フリュンヌの正体を暴くためだったんだ。
その任務が完了した今となっては、こんな変態じみたタイツを着続ける気はない。
でも……嫁たちのサンバ衣装が拝めなくなるのは、ちょっと惜しい気もするけどな。
なんて思っていたら、控室にハスミがやって来た。
彼女は俺たちを見つけるなり、さっそく飛びついてくる。
「ああん、ユズちゃん、今日もかわいいわねぇ! その衣装、最高っ! 私もハダカになって、全身でスリスリしたいわぁ! こっちの子は、新しいお嫁さん? ああん、この子もかわいいーっ! もちもちむちむちしてて!」
目的は精気の補充だったようだ。
ユズリハはハスミにスリスリされるのは2回目なのだが、まだ慣れないのか、凍りついたように硬直している。
その洗礼を初めて受けたキャルルはというと、大爆笑だった。
「あっはっはっはっはっ! なにこのお姉さん、超フレンドリーなんですけど! 超美人で超フレンドリーだなんて、マジあえりなくないっ!? あっはっはっはっはっ!」




